○(課題代表者) 国立環境研究所 田村正行
<研究概要>
アジア・太平洋地域においては、近年、土地利用の改変や開発など人間活動の影響を受けて、森林と湿地の面積が急速に減少しつつある。森林と湿地の減少は、そこを生息地とする野生生物にとって生息環境の劣化を意味し、少なからぬ生物種が生息数の減少あるいは絶滅の危機に曝されている。このような背景のもとで、森林及び湿地を保全し生物多様性を維持するには、森林と湿地の分布及びその周辺の土地利用の実態を把握し、人間による森林と湿地の利用も視野に入れた持続的管理のあり方を探ることが急務である。本研究は、1)森林及び湿地の減少と劣化の実態を、文献・地図情報、現地調査、衛星データ等を用いて把握すること、2)森林・湿地面積の減少など野生生物の生息環境の悪化が、森林・湿地植生と野生生物との共生関係に与える影響を、現地調査、衛星無線追跡、地理情報システム等により解明すること、及び以上の結果を踏まえて、3)森林及び湿地の保全と生物多様性の維持に向けて提言をまとめること、を主要な目的とする。本研究は、アジア・太平洋地域の中でも特に、今後大規模な環境変化が予想される極東ロシアを重要な対象地域としている。
<目標の適切性>
・非常に適切である。さらに、将来的には何を明らかにしていくのか、評価の目標・視角・手順を明確にした上での研究発展が望まれる。
<成果の状況>
・渡り鳥の移動経路について、期待された結果が得られており、湿地生態系を「点」でなく、「面」で保護する必要性についての基礎的資料が得られつつある。
・おおよそ2年がけでルートは判明したが、加えて、営巣地・中継地・越冬地それぞれの環境特性をいかにして把握するか、環境特性として具体的に何に注目するのかを今後明確にしてくことが必要と考える。
<手法・体制・連携等の妥当性>
・渡り鳥の異動経路の研究については適切であり、新しい手法はうまく働いている。ただし、できれば対象個体数を5-10倍に増加させる必要がある。
・中継地の一部が判明したばかりであるので仕方がない面もあるが、12年度には生息環境の解析について、大量のデータ解析をする必要があると思われる。
・サブテーマ間の連携の強化が望まれる。
・トリの各種ごとの生態的研究内容を加えることが望ましい。
<<総合コメント>>
・生息環境の解析と評価が今後の課題。人為活動の影響度合いも解析と評価に含めていく必要がある。
・営巣地と越冬地との間の中継地には多くの湿地があるにもかかわらず、何故当該地が選択されているのかを明らかにされたい。それによって、営巣地、中継地、越冬地の環境特性の中味がはっきりすると思われる。ツルやコウノトリのいない湿地が、何故利用されないのかを明らかにすることで逆に利用される理由が分かるのではないか。鳥がルートを決めて飛ぶ生理学的な仕組みにまで踏み込めば、環境要因の意味がはっきりする。
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