第2節 生物多様性と地球温暖化

1 地球温暖化による生物多様性への影響

 IPCC第4次評価報告書では、北極の年平均海氷面積が10年当たりで2.7[2.1~3.3]%縮小し、特に夏季の縮小は、10年当たり7.4[5.0~9.8]%と大きくなる傾向にあります([ ]の中の数字は最良の評価を挟んだ90%の信頼区間)。アメリカの魚類野生生物局は、海氷の変化が予測どおり進むと、21世紀中頃までに、全世界のホッキョクグマの生息数の3分の2が失われると推測しています。また、IPCC同報告書では、約1~3℃の海面水温の上昇は、熱に対するサンゴの適応や順応がない限り、より頻繁なサンゴの白化現象と広範な死滅をもたらすと予測されています。

 生態系全体への影響としては、世界平均気温の上昇が1.5~2.5℃を超えた場合、これまで評価された植物及び動物種の約20~30%は絶滅リスクが増加する可能性が高いと予測されています。

2 生物多様性の保全と地球温暖化対策は車の両輪

 世界の温室効果ガス総排出量の約2割は、途上国の森林の減少や劣化などによるものとされています。こうした中、気候変動枠組条約の下では、途上国における森林減少や劣化を食い止める取組に経済的インセンティブを付与する「REDD(Reducing emissions from deforestation and forest degradation in developing countries、森林の劣化・減少による排出削減)」と呼ばれるメカニズムについての検討が進められています。さらに、近年では、REDD に、生物多様性保全にも資する森林保全や持続可能な森林経営といった観点も念頭とした「REDDプラス」と呼ばれる仕組みについても議論が行われており、2009年(平成21年)12月にコペンハーゲン(デンマーク)で開催された気候変動枠組条約第15回締約国会議でとりまとめられたコペンハーゲン合意では、REDDプラスを含めた、必要な資金確保のためのメカニズムの創設が盛り込まれました。また、REDDを生物多様性保全及び地球温暖化対策の双方から効果的に進めるため、国連環境計画(UNEP)の世界自然保全モニタリングセンターでは、熱帯地域の6か国について、炭素貯留の能力が高い地域と生物多様性上重要な地域の両方が分かる地図を作成しています。例えば、パナマでは、パナマの排出量全体の20%の炭素が、炭素貯留能力が高く、かつ、生物多様性の高い地域に貯留されていると見積もられています。このような取組は、REDDを行うべき地域の優先度を客観的に把握することに貢献すると考えられます。


国連環境計画世界自然保全モニタリングセンター(UNEP WCMC)の全国地図の一例(パナマ)



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