第4節 東アジアの循環型社会構築に向けた展望と我が国の協力

1 東アジア循環型社会ビジョンの策定に向けて

 国際的な循環型社会を構築していく上での基本的な考え方として、まず、

 1)各国の国内で循環型社会を構築し、次に

 2)廃棄物等の不法な輸出入を防止する取組を充実・強化し、その上で

 3)循環資源の輸出入の円滑化を図る

 ことが重要であり、この考え方は、第2回アジア3R会議(2008年)においてアジア諸国の間でも共通の認識となっています。

 このため、我が国としては、平成24年までに、東アジアでの循環型社会の構築に向けた基本的考え方や目標を定めた「東アジア循環型社会ビジョン」を策定することとしています。

2 アジアの循環型社会構築に向けた取組ときめ細かな協力の展開

 各国内における循環型社会の構築に向けて、アジアの各国において廃棄物の3Rと適正処理が実現されるよう、各国の循環利用・処分の能力向上に我が国が貢献していくことが重要です。具体的には、我が国が持つ優れた技術・システムの知見を活かして、各国の廃棄物管理の仕組みや3R推進計画やビジョンの策定に対して支援していくことにより、大きな効果を挙げていくことが可能です。


アジアの国々の3Rに関する取組事例1


アジアの国々の3Rに関する取組事例2


(1) 3R国別計画・戦略の策定支援

 各国が3Rに関する取組を効率的効果的に進めるためには、3Rの推進を国家として推進することを明らかにし、既存の廃棄物管理等に関する法制度や地方レベルにおける廃棄物管理やリサイクルの実態などを踏まえた計画や戦略を策定して取り組むことが重要です。


(2) 政策対話

 我が国は、3R推進のための国内の制度強化・政策の計画的実施の方向に歩み始めた諸国との間で、廃棄物処理・3R担当部局間のアジアにおける政策対話も積極的に進めています。


我が国とアジア各国との二国間協力


(3) 3Rに関する情報拠点・研究ネットワークの整備

 環境省では、アジア開発銀行やUNEPアジア太平洋地域事務所等のイニシアティブで構築・運営されている情報拠点「3Rナレッジ・ハブ(3RKnowledgeHub)」のコンテンツ作りを支援しています。


(4) 3R・廃棄物管理に関する技術協力及びインフラ等整備支援

 廃棄物管理や3Rに関して開発途上国の技術者や行政官を日本に招いて行う研修が、多様なプログラムによって行われています。JICAが実施するものとしては、アジア諸国の環境行政官を対象に関連法制度や行政・技術情報の共有を図る地域別研修「循環型社会の構築」コース、産業廃棄物処理や再資源化に従事する技術者を対象とする集団研修「廃棄物3R・再資源化」コースをはじめ、多数実施されています。

 これらに加えて、無償資金協力及び有償資金協力により、廃棄物管理のための機材や処理施設等の整備に対する支援が行われてきています。


(5) 3R・廃棄物処理技術の国際展開

 我が国の事業者は、環境へ配慮した製品の設計・製造、製品等のリユース、リサイクル、廃棄物からのエネルギー回収・利用等の分野で、世界的にも最先端と言うべき技術を発展させてきています。こうした技術は、時に国境を越える製品のライフサイクルやサプライチェーン全体での3Rの推進を通じて、国際的な循環型社会の構築に大きく寄与しうるものです。


(6) 個別の課題への対応(衛生施設の改善を例に)

 我が国の経験や技術、システムは、アジア各国における廃棄物の適正処理の確立にも大いに貢献しうるものです。ただし、その一方で開発途上国のニーズや発生する廃棄物の性質等の様々な要因を考慮すると、効果的な解決策が必ずしも我が国の技術やシステムと同様とならない場合も想定されます。

 し尿処理支援は、トイレ設置から始まり、発生した汚泥処理までの一連の支援について勘案する必要があります。さらに、その処理に当たっては、地域の地理的、経済的、社会的など様々な特性に応じたきめ細かい配慮が必要となります。

 今後、衛生施設の普及に当たっては、利用者に見えるメリットを提供するのが有効な手段であり、汚泥の価値を引き出せるようなパッケージ施策が、衛生施設の普及には肝要といえます。

 また、低炭素社会との取組の統合のためには、CDM事業とも連携を図れるような汚泥再生事業を促進する必要があります。


東アジアと太平洋地域における衛生施設の普及率


3 廃棄物等の不法な輸出入の防止に向けた取組

 東アジア諸国の国内における循環資源の適正な利用・処理能力の向上を図る取組に加え、廃棄物の不法な輸出入を防止する取組を充実・強化することが重要です。


(1) 廃棄物等の輸出入の状況

 日本では、特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律(以下「バーゼル法」という。)に規定する特定有害廃棄物等に該当する貨物または廃棄物処理法に規定する廃棄物に該当する貨物を輸出入する場合には、それぞれ法に基づく手続が必要とされています。


(2) 不法輸出入防止に向けた取組

 廃棄物等、特に有害廃棄物の輸出入規制については、有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約(以下「バーゼル条約」という。)の規定に基づき、多くのアジア諸国で輸出入規制法令が整備されてきています。しかしながら、必要な手続きを行わず有害廃棄物を輸出する場合や、バーゼル条約が規制対象としている有害廃棄物の範囲に関する解釈が各国によって異なることから、例えば、輸出国においては規制対象外と判断されたものが、輸入国では規制対象となり結果的に不法輸出入となる場合が発生しています。


有害廃棄物等の輸出入の状況


 ア 日本国内の取組

 (ア) 規制の執行体制

 日本では、バーゼル法及び廃棄物処理法の適切な運用に向けて、事業者向け説明会の開催、個別案件に対する事前相談の実施、税関部局とバーゼル法及び廃棄物処理法担当部局とが連携した水際対策の強化等の取組を一体的に行い、執行体制の強化に努めています。


 (イ) 規制対象物品の明確化

 バーゼル条約では、規制対象となる有害廃棄物等を判断するための有害性や処分作業(廃棄物/非廃棄物)の基準について各国で決定することができることとされているため、輸出入国の間で規制対象物質の範囲が異なるという事態が生じる場合があります。我が国では、使用済み鉛バッテリー、廃PETボトル等一部貨物に関しては、廃棄物や特定有害廃棄物等に該当するか否かのポイントを明示し、輸出入業者等関係者へ周知徹底しています。また、有害物質を含んだ中古利用に適さない家電が中古利用の名目で輸出されることがないよう、バーゼル法における中古利用に係る輸出時の判断基準の明確化等の検討を行っていきます。


 イ 国際的な取組

 我が国は、廃棄物等の不法な越境移動を防止するため、アジア諸国との連携を図りつつ、不法輸出入防止に向けた情報交換の推進や施行能力の向上のための取組支援を推進しています。


 (ア) 有害廃棄物の不法輸出入防止に関するアジアネットワーク

 我が国は、平成15年に「有害廃棄物の不法輸出入防止に関するアジアネットワーク」を提案し、アジア諸国等と連携した不法輸出入防止の取組を進めていくために、ワークショップ開催、ウェブサイトによる各国の規制情報の提供、不法輸出情報等の情報交換を行ってきました。


 (イ) アジア太平洋地域における廃電気電子製品の環境上適正な管理プロジェクト

 我が国は、バーゼル条約の下で進められている「アジア太平洋地域における廃電気電子製品の環境上適正な管理プロジェクト」に対して拠出を行い、その活動の一環として、バーゼル条約アジア太平洋地域センターが実施している使用済みのテレビ、パソコン、冷蔵庫等のいわゆるE-wasteの廃棄物と中古品の判断基準に関する調査やE-wasteのインベントリの整備等のプロジェクトを支援しています。


 (ウ) 多国間・二国間の枠組による連携

 例えば日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM)において、E-waste等の有害廃棄物の不適正な輸出入防止対策のための情報交換の推進やワークショップの開催等の取組が進められています。

4 東アジア循環圏の構築に向けて

 我が国が提唱した3Rイニシアティブは、G8のみならず、OECD加盟国やアジア諸国など地理的な広がりをみせるとともに、世界情勢の変化を受け、廃棄物問題だけではなく、資源生産性の向上などにも資するものとして世界全体に浸透しつつあり、国際的な3Rに関する取組は新たな段階を迎えつつあります。

 今後、我が国は、東アジア循環圏の構築に向けた取組を本格的に始動していくこととしており、その第一段階として、我が国は平成24年までに東アジア循環型社会ビジョンを策定し、アジアにおける持続可能な物質循環の実現を図ります。



前ページ 目次 次ページ