第2節 循環型社会を支える技術


<第2節の要約>

我が国の循環型社会を支える技術として、公衆衛生の向上を図る廃棄物関連技術、私たちの健康と生態系への影響を低減する有害物質対策技術、廃棄物のリデュース、リユース、リサイクルを可能とする3R関連技術、さらに主要な金属に着目した資源循環に関する技術を取り上げ、これらの技術の概要を紹介します。これらの技術の中には、他の先進国から導入され、その後日本独自の工夫が加えられたものや、日本独自の技術があります。


1 衛生面の向上

衛生面で快適な生活環境の保持は、廃棄物処理の第一義的な目的です。衛生面の向上や環境保全のための様々な技術が活躍しています。

(1)し尿処理技術
廃棄物処理の原点であるし尿の処理は、昭和40年代以降、下水道の整備が追いつかなかったことから、一般家庭向けの単独処理浄化槽(し尿のみを処理)が普及しました。その後、生活排水対策が急務となり、し尿と生活雑排水を処理する合併処理浄化槽へ変遷してきました。

し尿処理の変遷

浄化槽は、日本独自の生活排水の処理システムであり、一般家庭向けのものは自動車一台程度の広さで設置できます。また、人口の少ない地域でも効率的な整備ができるなど、下水道と共に生活排水対策の柱として重要な役割を担っています。

(2)収集・運搬技術
廃棄物の収集・運搬においては、廃棄物が飛散したり流出したりすることなく、効率的に収集・運搬されるよう様々な技術が用いられています。家庭ごみの収集では、安全で衛生的な作業の確保や、迅速で効率のよい収集作業を実現するため、一般に機械式収集車(パッカー車)が主流となっています。

写真機械式収集車


(3)焼却技術等の中間処理技術
収集・運搬された廃棄物は、埋立などの最終処分や有効利用に適するように、焼却、堆肥化、破砕、圧縮などの中間処理が行われ、これら中間処理のうち、最も一般的なのが焼却処理です。国土が狭いため最終処分場の確保が難しく、夏期に高温多湿となる我が国に適した処分方法と言えます。我が国の家庭ごみは水分を多く含むため完全燃焼には高度な技術が必要であり、ダイオキシン対策と焼却時の熱回収の両立などの課題を克服して、日本の焼却技術は世界でも最高のレベルにあります。最近では、ガス化溶融炉やガス化改質炉の導入も進んでいます。

ストーカ式ごみ焼却炉の例


(4)最終処分技術
廃棄物の中間処理を行った後の残さは、産業廃棄物の場合、処分される廃棄物の種類によって、遮断型最終処分場、安定型最終処分場及び管理型最終処分場でそれぞれ処分されており、その構造の安定化や高度化、浸出水の処理などに様々な技術が用いられています。例えば、屋根付きの最終処分場は、侵出水の発生を抑制でき、臭気の拡散や廃棄物の飛散なども回避できます。

写真都城市クリーンコア


(5)廃棄物の流れを透明化する技術
廃棄物の流れを的確に把握・管理することにより透明化する技術は、不法投棄防止の観点から有効であり、こうした技術の代表例として、電子技術を利用した電子マニフェストがあります。

電子マニフェスト制度

マニフェスト制度は、排出事業者が産業廃棄物を収集運搬業者に委託する際や、収集運搬業者が処分業者に産業廃棄物を渡す際などに、産業廃棄物の種類や数量、排出事業者名などを記載した管理票(マニフェスト)に収集運搬業者の受領印、処分業者の受領印、処分終了の確認等を記載し、その管理票の写しを排出事業者に回付するというシステムです。

2 有害物質対策

廃棄物処理においては、廃棄物中の有害物質を除去し、また処理過程からの二次公害を防ぐことが必要となります。廃棄物中に含まれる代表的な有害物質として水銀、PCB、アスベスト、廃棄物処理工程から排出される二次公害物質としてダイオキシン類、そして感染性廃棄物を取り上げ、これらの対策技術を紹介します。

(1)水銀
乾電池や蛍光灯が使用後に廃棄物となった際に、水銀が環境中に拡散しないよう、乾電池や蛍光灯の回収・リサイクルが行われています。

廃乾電池と廃蛍光灯のリサイクル処理フロー


(2)ダイオキシン類
廃棄物焼却時に副生成物として生成されるダイオキシン類に対して、様々な取組がなされてきました。国は平成2年に「ごみ焼却施設に係るダイオキシン発生防止ガイドライン」を策定し、平成9年にこれを改訂しました。さらに平成11年には「ダイオキシン類対策特別措置法」を制定し、排出ガスや排水などの必要な規制が措置されました。これらの規制を満たすべく焼却技術に様々な工夫が行われ、ダイオキシン類排出量はこれらの優れた技術の開発・導入により、約98%減少しました。

廃棄物焼却施設からのダイオキシン類排出量の推移


(3)PCB
負の遺産ともいえるPCB廃棄物の処理について、平成13年に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(PCB特別措置法)」が制定され、日本環境安全事業株式会社を活用したPCB廃棄物の拠点的広域処理施設の整備が進められています。PCBの安全・確実な処理技術としては、高温焼却のほか、5つの方法(脱塩素化分解、水熱酸化分解、還元熱化学分解、光分解、プラズマ分解)があります。

PCB廃棄物の拠点的な広域処理施設整備の進捗状況


(4)石綿(アスベスト)
石綿が含まれている廃棄物の安全かつ迅速な処理を進めるため、溶融などの高度な技術により無害化処理を行う事業者に対し、国が認定した場合に、都道府県知事等による産業廃棄物処分業の許可や産業廃棄物処理施設設置許可を不要とする無害化処理認定制度が創設されました。このような中、既存の産業廃棄物溶融施設の活用やセメントキルン等生産設備における研究が進められています。

アスベスト処理試験施設のフロー


(5)感染性廃棄物
医療関係機関等で使用される注射針、手術用のメス、検体容器等は、廃棄物となった際に感染防止の観点から適正に処理される必要があります。こうした感染性廃棄物を処理する技術として、ロータリーキルン型などの焼却炉を用い、助燃剤などの役割を果たす他の産業廃棄物と混焼して、感染性の細菌類の滅菌処理、無害化及び減容化が図られています。

焼却処理の流れ


3 3Rを支える技術

循環型社会を構築するためには、廃棄物の発生抑制(リデュース)、再使用(リユース)、再生利用(リサイクル)の3Rを推進することが必要です。3Rを支える技術として、リデュース・リユース技術、環境配慮設計、マテリアルリサイクル技術、サーマルリサイクル技術などを紹介します。

(1)リデュース・リユース技術
リデュースに関しては、原材料等の使用合理化や、製品長寿命化といった取組が行われています。例えばペットボトルの薄肉化等構造上の工夫等による軽量化が進められ約1割~4割の容器軽量化率が実現されているほか、石けん洗剤等の容器包装では、製品の濃縮化・コンパクト化、家電製品では部品点数の削減や部品の小型化、パーソナルコンピューターではハードディスク等の長寿命化が図られています。
リユースは、リサイクルに比べて追加的な消費エネルギーや環境汚染が少ないことから、リサイクルよりも優先される取組です。リユースの事例として、複写機における部品リユースの取組などが進められています。

(2)リサイクルに配慮した製品等の設計
製品等の設計段階において、リサイクル時の解体性や再資源化の可能性を向上させるような配慮を行う手法が開発されています。こうした手法は、前述のリデュース・リユース技術と併せて「環境配慮設計」と呼ばれます。
このうち、使用済製品の解体に要する手間と時間を削減する「易解体設計」は、リユースやリサイクルを促進します。
家電製品における易解体設計の例として、解体の際に特殊工具が必要な部品を一般の工具で解体できるようにしたり、材料名を表示することによって解体するときに同一材料として処理ができるようにする等の取組が行われています。

環境配慮設計の事例1


(3)マテリアルリサイクル技術
マテリアルリサイクルは、廃棄物を再び素材や原料として再生利用するもので、容器包装ごみ、使用済自動車、廃家電製品、建設廃棄物、紙などでマテリアルリサイクルが行われています。

ア 容器包装ごみのリサイクル
容器包装廃棄物は、家庭ごみ全体のうち容積で約6割、重量で約2割を占めています。こうした容器包装廃棄物のうち、廃ペットボトルは、卵パックやカップめんなどのシート製品、ハンガーやプランターなどに再利用されています。ペットボトルからペットボトルに戻すケミカルリサイクル技術も実用化されています。
廃プラスチックのリサイクル手法には、プラスチックの原料としてそのまま利用する材料リサイクル、化学的に処理して化学原料等として利用するケミカルリサイクルがあります。ケミカルリサイクルの例として、製鉄所での高炉でコークスの代替品として廃プラスチックを利用する技術やコークス炉で廃プラスチックを熱分解し再資源化する技術などがあります。

高炉による廃プラスチックのリサイクル図


イ 使用済自動車のリサイクル
使用済自動車から中古部品や再生利用可能な部品が回収された残りの部分は、破砕されてシュレッダーダストとなります。このシュレッダーダストは主に埋立処分されてましたが、再資源化率の目標が設定されたことを受け、リサイクル技術が導入されつつあります。また、製鉄所において、廃タイヤを再資源化する技術も導入されています。

廃タイヤ処理フロー


ウ 廃家電製品のリサイクル
特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)の施行により、製造業者等に対して家電4品目(エアコン、テレビ、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機)の再商品化が義務付けられています。これらの家電製品のリサイクルにおいて様々な技術が用いられ、最終的には金属やガラス、プラスチックが回収されています。

廃家電リサイクルのフロー


エ 建設廃棄物のリサイクル
建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設リサイクル法)により、コンクリート塊、建設発生木材、アスファルト・コンクリート塊の3品目の再資源化等率の目標などが定められています。この目標を達成するため、建設混合廃棄物をリサイクル・再資源化するための選別技術などが利用されています。

写真ロールスクリーンユニット、比重差選別機


オ 食品廃棄物のリサイクル
食品廃棄物のうち、食品製造業から発生する食品廃棄物や食品流通業及び飲食店業等から発生する食品廃棄物(事業系一般廃棄物)は、たい肥、飼料などに再生利用されています。主要な用途であるたい肥化(コンポスト化)の技術は、食品廃棄物をロータリーキルン型の発酵槽ヘ投入し、空気を送入しながら2~3日の滞留時間で回転させて発酵を促すものです。

たい肥化処理施設


カ 紙のリサイクル
古紙利用の主力は段ボールなどの「板紙」で、古紙利用率は既に90%に達しています。一方「紙」分野での古紙利用率は40%弱ですが、古紙は成形性が良いという利点を生かして、製紙原料として利用されるほか、古紙利用製品への製品化が進められています。
このほか、不燃ごみ、粗大ごみを破砕・選別することにより有価物を効率的に再資源化する技術や、都市ごみ焼却灰などを主原料としたエコセメントの製造技術などがあります。

古紙パルプ製造工程


(4)廃棄物からエネルギーへ
廃棄物を素材として再利用することが難しい場合には、焼却などの処理を行うことになりますが、その際に発生する熱エネルギーを電力や蒸気などの形で回収するのがサーマルリサイクルです。食品廃棄物や家畜排せつ物、建設発生木材などの廃棄物系バイオマスをメタンなどに転換しエネルギーとして利用する技術の導入も進んでいます。こうした技術の導入は、温室効果ガスである二酸化炭素の削減にも貢献します。

ア ごみ発電
ごみ発電は、ごみを焼却する時に発生する高温の熱エネルギーをボイラーで回収し、蒸気を発生させてタービンを回し発電を行うもので、ごみ焼却施設の余熱利用の有効な方法の一つです。平成16年度末において、発電を行っている又は行う予定のごみ焼却施設は281に上り、総発電能力で1491MWとなっています。

ごみ発電の概要


イ バイオマス発電
産業廃棄物のうち、木くずやバガス(サトウキビの搾りかす)などのバイオマスを利用した発電も導入されています。このバイオマス発電は、木くずやバガスをストーカ炉又は流動層炉において燃焼し、その燃焼熱をボイラーにおいて吸収し、蒸気タービンにより発電するものです。

ウ RDF(ごみ固形燃料)
小規模な廃棄物焼却施設では、経済性の観点から施設ごとに熱回収を行うことが難しいため、複数の小規模清掃工場がごみを燃焼しやすい固形燃料に加工して専用の発電施設に集める方法が採られています。この固形燃料は、RDF(Refuse Derived Fuel:ごみ固形燃料)と呼ばれ、可燃ごみを破砕・乾燥し、不燃物、鉄、アルミを除去し、防腐剤を添加して圧縮成型して製造されます。

固形化燃料製造の流れ


エ RPF(廃棄物由来の紙及びプラスチック等固形化燃料)
主に産業廃棄物のうちマテリアルリサイクルが困難な古紙や廃プラスチックを破砕し鉄を除去した後、圧縮成型したものはRPF(Refuse Paper & Plastic Fuel)と呼ばれています。RPFは、発生履歴の明らかな産業廃棄物等を使用しているため、乾燥工程が不要であり、製造プロセスが簡単になるという利点があります。

オ メタン発酵
メタン発酵は、嫌気性発酵処理により有機物からメタンを得る技術で、生ごみや動物のふん尿など水分の多いバイオマス系廃棄物に適しています。得られたメタンガスは、発電などの燃料用として利用されます。

メタン発酵の例


カ バイオディーゼル燃料
バイオディーゼル燃料(BDF; Bio Diesel Fuel)は、軽油代替燃料として自動車用ディーゼルエンジンで利用可能な燃料であり、廃食用油などのバイオマスを原料としています。

バイオディーゼル燃料の生成


キ バイオエタノール
建設廃木材を主原料に、紙くず、食品残渣(おから等)などの廃棄物を活用して、希硫酸による糖化法と遺伝子組換え菌(KO11)と酵母の2種類の菌体を用いる燃料用エタノールの製造が行われています。

廃木材等によるバイオエタノール製造


4 金属系資源の循環のための技術

金属は、現代社会の生活基盤を構成する重要な物質です。循環型社会を金属の側面から取り上げ、特に、主要な金属である鉄、銅、アルミニウムと、希少性の高い金属を対象に、これらの循環的な利用とそれを可能にする技術を紹介します。

(1)鉄、銅、アルミニウム
素材産業の製造プロセスでは、工程で発生する副生物や廃棄物を工場内で再利用・再生利用して系外に排出される廃棄物の量をできるだけ少なくしたり、市中で回収されたスクラップを同じ金属の製錬過程に戻す循環型の取組が行われています。
人間にとって最も身近な金属である鉄は、我が国で年間約1.1億トン(粗鋼)生産されています。鉄鋼業では、工程内で発生するスクラップや市中から回収されたスクラップを資源として再利用しているほか、鉄鋼スラグの副産物等の約99%がセメントの原料や路盤材などに利用されています。
銅は、製品として利用されスクラップになった後、種別や品位、形態によって製錬所や電線・伸銅品の工場に戻り、再溶解され原料として利用されています。
アルミニウムは、スクラップ由来の「再生地金」が総需要量の約4割を占めています。

鉄鋼業における資源ーの循環


(2)希少金属・重金属類
我が国は、長年培ってきた金属製錬技術の延長として、希少金属・重金属等を廃棄物から回収・リサイクルする技術を有しています。非鉄金属の製錬所において、高度な製錬技術を活用し、廃電子機器や廃基板等に含まれる金、銀等の貴金属や、鉛等の重金属、自動車触媒に含まれる白金族、液晶パネル等製造の工程内スクラップからインジウム等の回収・リサイクルが行われています。

製錬所のメタルリサイクルフローの例



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