第2章 人口減少に対応した持続可能な社会づくり
<第2章の要約>

人口減少に伴い、私たちには、社会の変化に柔軟に対応しつつ、創意工夫に満ちた環境保全の取組を発展させていくことが求められることになります。
一方で、人口減少時代には、多様な価値観や豊かな生活環境への変化が予想され、それは持続可能な社会の構築にとって大きな推進力になるということができます。このような人口減少時代のチャンスととらえられるようなトピックを見ていくとともに、さまざまな主体により始められている持続可能な社会づくりの取組を紹介し、人口減少に対応した持続可能な社会のあり方を示していきます。


第1節 持続可能な社会へ向けての契機

1 価値観の変化

人口減少時代を迎え、私たちの価値観も以前と比べて変化が見られます。このような変化は、持続可能な社会へ向けてのプラスの契機ととらえることができます。
近年、特に物質的豊かさから心の豊かさを志向する傾向が強くなっており、モノではない心の満足度を高めるライフスタイルが求められることになります。このような価値観の変化もあり、平成17年度夏に「クールビズ」(ノーネクタイ・ノー上着など、オフィスの室温を28℃にした場合でも涼しく格好良く働くことができるビジネススタイル。)運動が実施され、冷房設定温度を高く設定したことによる二酸化炭素削減量は約46万トンと、約100万世帯の1ヶ月分の二酸化炭素排出量に相当する効果を得られたと試算されています。

写真 流行語大賞「クールビズ」

環境配慮の志向による変革は、ライフスタイルだけにとどまらず、環境関連の市場やこれに資金を供給する金融市場システムにも影響を及ぼすものと考えられます。近年、環境保全意識の高まりを背景に、企業の利益や収益性といった財務指標に加え、企業の環境保全などの社会的取組を金融面から積極的に評価しようとする社会的責任投資(SRI:Socially Responsible Investment)の考え方が注目されており、日本のSRI投資信託資産残高は平成18年3月末現在で約2,600億円となっており、今後ますます拡大していくものと期待されます。
自然とふれあう「ゆとりある生活」を求める動きも広がっており、農山漁村地域に定住してみたいという志向が高くなっています。特に、団塊の世代も含んだ50代でその願望が高くなっており、一方、20代の若い世代も潜在的願望が高くあるといえます。
団塊の世代の退職を迎え、今後、里地里山地域など自然環境の中で田舎暮らしや滞在をする自然回帰のライフスタイルが大幅に増えることが期待されます。

グラフ 農山漁村地域への安住の願望の有無

さらに、近年、地産地消の取組が進んでいます。食の地産地消については、いわゆる「フード・マイレージ」の減少により、二酸化炭素排出量の削減など環境負荷を低減する効果があると考えられます。
平成15年度に地域内で採れた農産物を提供する産地直売所の数は2,982か所、その販売額の総額は1,772億円に上り、これは全農業産出額(畜産物を除く)の1.7%を占めるに至っています。この販売額をもとにフード・マイレージの試算をすると、産地直売所で販売される農産物を仮に海外からの輸入に頼った場合、二酸化炭素排出量は約10倍の増加となり、地産地消の環境上の効果が大きいことが分かります。
価値観の変化やそれに対応した取組は、今後、ますます広がっていくものと考えられ、これは持続可能な社会を推進する大きな原動力となるものと期待されます。また、このような新しい価値観に基づいたライフスタイルが実現できるような社会づくりを進めていくことが、私たちの心の豊かさを満たす上で重要となります。

グラフ 直売所で販売された農産物を輸入に切り替えた場合の二酸化炭素排出量


2 増加する余暇時間の活用

近年、労働時間や家事時間が総じて減少していることから、国民の自由時間は増加する傾向にあります。また、団塊の世代が退職することも一因となり、余暇時間を豊富に持ち、かつ、さまざまな活動に参加することが期待されるアクティブ・シニア(元気な50歳代~60歳代)が増加します。
環境保全活動に関する世論調査によると、環境保全活動に参加したことがあると答えた人の割合が、50歳代では51%と、他の年代に比べて高くなっています。また、今後環境保全のための市民活動や行事に参加したいかとの問いについても、50代、60代で参加したいと答えた人の割合が高くなっており、高齢者は若年層に比べ、環境保全活動への参加率が高い傾向にあります。

グラフ 環境保全活動への参加状況、今後の取組

今後、豊富な余暇時間を持つアクティブ・シニアの増加が期待され、環境保全を目的とした活動が進展するきっかけとなります。このような活動を支えるためには、地方公共団体が事業者等と連携して環境教育の場を設定することをはじめ、環境保全活動の場が確保・提供されることはもちろん、さまざまな世代が環境保全活動に参加できる仕組みづくりを進められることが重要です。これにより、一層効果的な活動が期待されます。

3 国土空間の見直し

今後、人口が減少するにつれて、大都市や地方都市における市街地の拡大傾向は、新規住宅の需要の減少などから終止符が打たれ、人口密度の低下と相まって大都市部での住宅・土地問題等の改善をはじめとするゆとりある生活環境の実現が可能になると考えられます。

グラフ 3大都市圏の転入超過数の推移

また、住宅の空き家の戸数は年々増加の傾向にあります。今後、人口減少の進展により一層この傾向が加速されると考えられます。今後2015年までは人口減少となっても世帯数の増加が見込まれますが、住宅ストックについては、既存のストックの修繕・改修等による有効活用や空き家の用途転換が進められることが予想されます。

グラフ 空き家住宅の推移

住宅、業務用ビル等の既存ストックがもたらすエネルギー消費量は相当量に上ることから、これらの既存ストックのエネルギー効率を高めることは極めて有効であると考えられます。このため、こうした大量の更新や修繕・改修等の機会をとらえて、省エネルギーのための住宅の改修や省エネ機器の導入を図ることによって大きな効果が期待できます。
人口減少という新たな局面を迎え、住宅や社会資本ストックの大量更新等の時期が到来しつつあることを好機としてとらえ、ゆとりある生活環境と環境配慮を同時に実現した人口減少時代にふさわしい取組を行うことにより、持続可能な社会へと方向転換していくことが重要です。


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