5 化学物質の環境リスク対策
現在、わが国で約5万種以上流通しているといわれる化学物質の中には、発がん性、生殖毒性等多様な毒性を持つものが多数存在し、これらが大気・水等の媒体を経由し人の健康や生態系に影響を与えているおそれがあります。
このような影響を未然に防止するためには、化学物質の環境保全上の支障を生じさせるおそれ(環境リスク)の評価を行い、適切な対策を講じていく必要があります。
わが国の化学物質の審査規制制度では、これまで、人の健康保護の観点のみから審査・規制が行われてきましたが、今後、人の健康保護に加えて、化学物質の動植物への影響に着目した審査・規制制度を導入するとともに、環境中への放出可能性を考慮した、一層効果的かつ効率的な措置等を講じることとするため、化学物質審査規制法の改正法案を平成15年3月に閣議決定の上、国会に提出しています。今後は、化学物質審査規制法の改正を踏まえた新たな審査・規制制度の実施に向けて必要な準備を進める必要があります。
ダイオキシン類については、人が一日に平均的に摂取する量は年々低減し、生涯にわたって継続的に摂取したとしても健康に影響を及ぼすおそれがない一日当たりの摂取量である耐容一日摂取量(4pg-TEQ/kg/日)を下回っています。
また、内分泌系(ホルモン)に影響を及ぼすことにより、生体に障害や有害な影響を起こす内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)については、その有害性等未解明な点が多いため、科学的知見を集積すべく調査研究を進めています。
さらに、人の健康や生態系に有害なおそれのある化学物質について、環境中への排出量や廃棄物に含まれて移動する量を把握、集計又は推計し、公表する仕組であるPRTR制度(化学物質排出移動量届出制度)がわが国にも導入され、平成15年3月より、第1回目の集計結果が公表され、個別データの開示請求を受け付けています。今後は、化学物質に関する環境リスクについてのリスクコミュニケ-ションの推進がより重要となります。
6 自然と人間との共生の確保
わが国の自然環境の状況を見ると、植生については、自然林、二次林は減少し、植林地、市街地、造成地等は増加傾向にあります。干潟、藻場の面積や自然海岸の延長については、いずれも減少する傾向にあります。また、絶滅の危機にさらされている種として、哺乳類2種類、鳥類39種類を始めとする計62種が国内希少野生動植物種に指定されており、レッドリストにおける絶滅のおそれのある種の数は、わが国に生息する哺乳類、両生類、汽水・淡水魚類、維管束植物の2割強、爬虫類の2割弱、鳥類の1割強に及んでいます。
こうした状況も踏まえ、平成14年3月に、生物多様性国家戦略が改定されました。新しい戦略においては、1)種の絶滅、湿地の減少、移入種問題などへの対応としての「保全強化」、2)保全に加えて失われた自然をより積極的に再生、修復していく「自然再生」の提案、3)里地里山など多義的な空間における「持続可能な利用」、すなわち地域の生物多様性保全を進めることの3つを大きな柱とした基本方針が提示され、実行性のある具体的施策を展開していくこととしています。
わが国を代表するに足りる傑出した自然の風景地である国立公園等の自然公園においても、生物多様性国家戦略の見直しの動きを踏まえ、生態系の維持とその適正な利用を図るための利用調整地区制度の創設、草原や里地里山等の二次的な自然風景地の保護を図るための風景地保護協定制度の創設、公園管理団体として民間団体を指定する制度の創設などを主な内容とした自然公園法の改正が行われました。また、国際的に重要な湿地の保全を促進するため、平成14年11月に宮島沼及び藤前干潟がラムサール登録湿地に追加されています。
また、釧路湿原における蛇行河川の復元や、埼玉県・くぬぎ山における改変された武蔵野の雑木林の再生など、過去に損なわれた自然環境を再生する事業が専門家、地元自治体、NPO、地域住民の参加を得て着手しています。さらに、自然再生についての基本理念を定め、自然再生を推進するための具体的な手順を示した自然再生推進法が成立し、円滑な運用のための体制整備に努めています。
このほか、野生生物の保護管理施策の一環として、遺伝子組替え生物の輸出入に関する国際的な枠組みを定めたカルタヘナ議定書の的確かつ円滑な実施を確保するための法律案が提出されています。



7 地球環境の保全
(1)有害廃棄物の越境移動
これまでに述べた地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨及び海洋汚染のほかにも、様々な地球環境問題があります。1970年代から80年代にかけて、先進国から輸出された有害廃棄物が、規制もゆるく処理費用も安価な開発途上国において不適切な処分や不法な投棄をなされることにより環境汚染が生じたり、陸揚げを拒否された有害廃棄物を積載した輸送船が行く先もなく海上を漂うなどの事件が多発しました。このため、有害廃棄物の越境移動問題は、地球規模の対応が必要な問題であるとの認識が国際社会で共有され、1992年(平成4年)にバーゼル条約が発効しました。2003年(平成15年)3月現在で、わが国を含む155か国及びECが締約国となっています。
(2)森林の減少
野生生物への生息・生育地の提供、二酸化炭素の吸収等の多面的な機能を有する森林は、1990年から2000年の間に、全世界で約94百万haが失われています。このため、違法伐採問題なども含めて森林の保全と持続可能な経営の重要性が認識されています。2000年(平成12年)には、国連に「国連森林フォーラム(UNFF)」が設立され、数多くの行動提案の実施促進等に取り組んでいます。
(3)砂漠化
土地の乾燥化のみならず土壌の浸食や塩性化、自然植生の種類の減少等まで含む砂漠化も、地球規模の課題です。UNEPの調査によれば、砂漠化の影響を受けている土地の面積は、全陸地の約4分の1、耕作可能な乾燥地域の約70%に当たり、世界人口の約6分の1、約9億人がその影響を受けています。このため、1996年(平成8年)に砂漠化対処条約が発効し、現在、条約の効果的な実施のための各種措置が進められています。
○平成15年度において講じようとする環境の保全に関する施策
環境基本計画に基づいて平成15年度に実施する予定の環境保全施策を、次のような章立てで報告しています。
第1章 環境問題の各分野に係る施策
第2章 各種施策の基盤及び各主体の参加に係る施策
第3章 国際的取組に係る施策
第4章 環境基本計画の効果的実施
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