2 大気環境の保全(地球規模の大気環境を除く)

(1)酸性雨
 化石燃料の燃焼等により生ずる硫黄酸化物や窒素酸化物等から生成した硫酸や硝酸が溶解した酸性の強い雨である酸性雨により、湖沼や河川等の陸水の酸性化による魚類等への影響、土壌の酸性化による森林等への影響、樹木や文化財等への沈着による衰退や崩壊の助長等、広範な影響が懸念されています。
 わが国では、すでに被害が報告されている欧米とほぼ同程度の酸性雨が観測されていますが、生態系等への影響は現時点では明らかになっていません。一般に、酸性雨による影響は長い期間を経て現れると考えられているため、現在のような酸性雨が降り続くとすれば、将来、酸性雨による影響が顕在化する可能性があります。

降水中のpH分布図

(2)光化学オキシダント
 工場、事業所や自動車から排出される窒素酸化物や炭化水素類を主体とする一次汚染物質が、太陽光線の照射を受けて光化学反応により二次的に生成される光化学オキシダントは、目やのどへの刺激や呼吸器へ影響を及ぼす光化学スモッグの原因となっていますが、光化学オキシダントは、依然として、全国ほとんどの地域で環境基準を超えています。

(3)窒素酸化物
 高濃度で呼吸器に悪影響を及ぼす窒素酸化物は、主に物の燃焼に伴って発生し、その主な発生源には工場等の固定発生源と自動車等の移動発生源があります。

二酸化硫黄濃度の年平均値の推移

 二酸化窒素濃度の年平均値は、平成12年度は前年度に比べやや増加していますが、長期的にみるとほぼ横ばいの傾向にあります。二酸化窒素に係る環境基準の達成状況は、平成12年度、一般環境大気測定局で99.2%、自動車排ガス測定局で80%となっていますが、自動車NOx法(自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法)に指定されている大都市地域を中心に、環境基準を達成していない地域が広範囲に残されており、大気汚染が依然として厳しい状況にあることから、平成13年には自動車NOx法を改正し、その強化を図りました。

特定地域における二酸化窒素の環境基準達成状況の推移


(4)浮遊粒子状物質等
 粒径が10μm以下の大気中に浮遊する粒子状の物質である浮遊粒子状物質は、工場等から排出されるばいじんやディーゼル自動車から排出されるディーゼル排気粒子、土壌の巻き上げ等の一次粒子と、窒素酸化物等のガス状物質が大気中で粒子状物質に変化する二次生成粒子からなりますが、微小なため大気中に長時間滞留し、肺や気管等に沈着して高濃度で呼吸器に悪影響を及ぼします。

浮遊粒子状物質濃度の年平均値の推移

 浮遊粒子状物質濃度の年平均値は、近年ほぼ横ばいからゆるやかな減少傾向が見られます。長期的評価に基づく浮遊粒子状物質の環境基準適合状況は、平成12年度は前年度に比べてやや低下しています。このため、とりわけ汚染状況の深刻な大都市地域の対策として平成13年には自動車NOx法を改正し、規制対象物質に粒子状物質を加えるとともに、近年健康影響との関係が懸念されている粒径2.5μm以下の微小粒子状物質やディーゼル排気微粒子についての検討を進めています。

(5)硫黄酸化物等
 硫黄分を含む石油や石炭の燃焼により生じ、四日市ぜんそくなどの公害病や酸性雨の原因となる二酸化硫黄の濃度の年平均値は、近年ほぼ横ばい、もしくは減少傾向にあります。長期的評価に基づく二酸化硫黄に係る環境基準の適合状況は、平成12年度は三宅島の火山ガスの影響が見受けられるものの、近年良好な状態が続いています。

二酸化硫黄濃度の年平均値の推移

(6)有害大気汚染物質
 有害大気汚染物質については、平成9年に施行された改正大気汚染防止法に基づき、地方公共団体で本格的なモニタリングが開始されています。ベンゼンについては、平成12年度、364地点中74地点で環境基準値を超過しており、平成13年度からは、自主的取組による排出削減の強化が図られています。

(7)騒音・振動・悪臭
 生活環境の保全上、大気汚染のほかに、主に人の感覚に関わる問題である騒音・振動・悪臭が重要課題となっています。騒音は、各種公害の中でも日常生活に関係の深い問題であり、また、その発生源も多種多様であることから、例年、その苦情件数は公害に関する苦情件数のうちの多くを占めています。騒音の苦情件数は、ここ10年ほどは減少傾向にありましたが、平成12年度は増加し、振動の苦情件数は、この10年ほどほぼ横ばいで推移しています。また、悪臭の苦情件数は昭和47年をピークにおおむね減少傾向にありましたが、ここ数年は増加傾向にあります。

典型7公害の種類別苦情件数の推移

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