我が国においては、高度経済成長の過程において、加速度的に環境汚染と自然の改変が進行したが、昭和40年代半ば以降、環境に対する国民の強い関心と環境保全を求める社会的要請に支えられて、政府及び民間における環境保全対策が強力に進められてきた。加えて、第一次石油危機以降、我が国経済が安定成長へ移行し、産業構造の変化、省資源・省エネルギーが進展したこともあって、環境の状況は全般的には改善を示してきている。しかしながら、大都市圏を中心に、窒素酸化物による大気汚染、閉鎖性水域における水質汚濁、交通騒音等の分野では改善が遅れており、今後、環境基準の達成に向けて一層の努力を要する状況にある。
環境汚染の発生源、発生形態についてみると、経済のサービス化、ソフト化が進展し、国民の多くが都市的環境と都市的生活様式の中で生活するようになったことに伴い、工場、事業場に起因するもののほか、自動車などの移動発生源や、生活排水、生活騒音等家庭生活に起因するもののウェイトが大きくなっている。また、先端技術の進展、消費の多様化等に伴い、排出口だけでなく生産、流通、使用、廃棄の各過程で環境汚染を生じさせないようにすることが重要となっており、環境基準等が設定されている汚染物質以外にも環境保全上監視すべき物質が増大しつつある。
自然環境についてみると、自然の改変が進む中で、原生的な自然や優れた景観を形成する自然がますます貴重になるとともに、都市地域における樹林地、水辺などの身近にふれあうことのできる自然も地域の住民にとってかけがえのないものとなっている。また、自然の改変、乱獲等により、野生生物の生存が脅かされており、その保護が国際的にも国内的も重要となっている。
国際的な環境問題については、近年、欧州や北米における酸性雨のように国境を越える広域的な環境汚染や、大気中の二酸化炭素濃度の上昇、熱帯林の減少、海洋汚染等の地域的規模の環境問題が生じており、環境保全の重要性に対する国際的認識が高まっている。
本章では、このような環境問題の現状を明らかにする。