−高度技術社会における環境保全−
環境問題は、都市化の進展、産業活動の変化等に伴い変化してきている。このうち、都市化の進展については、昨年の年次報告において、全面的な都市化社会に移行している中で、安全で快適な都市の環境を築くことが今後の環境行政の重要な課題になっていることを指摘した。今年の年次報告においては、産業活動の変化との関連で、近年進展が著しい科学技術を取り上げ、環境保全とのかかわりをみることとした。
科学技術と環境保全とのかかわりについて、まず、過去の経験を振り返ってみると、戦後の高度経済成長期において、大量生産技術、大量輸送技術、大規模土木技術などの技術進歩に支えられて、産業の重化学工業化と都市化が急速に進展した。このことは物質的に豊かな国民生活の実現に寄与してきたが、反面、その過程において、著しい環境汚染やかけがえのない自然の改変が進み、生活環境の悪化を招いたばかりでなく、国民の生命o健康にまで大きな影響を与える事態が生じた。その後、環境問題に対する社会的関心の高まりを背景に、昭和40年代に環境政策が本格的に整備されるとともに、公害防止技術の開発が活発に行われた。加えて、50年代に入り公害防止技術が急速に普及する一方、産業構造が変化し、省資源o省エネルギーが進展したことも環境の改善に資するものであった。
このように科学技術の進歩は、産業や社会の変化を通じて環境に影響を与える反面、環境保全に役立つ技術や研究を開発するなど、様々なかかわりをもっているが、今後、環境保全の観点から科学技術とのかかわりを展望すると、次のような課題があげられよう。
第1は、エレクトロニクス、バイオテクノロジー、新素材などの先端技術を中心とした技術革新への対応である。先端技術を中心とする新たな技術革新は、公害の防止のみならずよりよい環境の創造へ向けて積極的な活用が期待されているが、一方で環境に対して、新たな環境負荷をもたらす可能性も考えられる。このため、環境汚染の未然防止の観点から、環境保全に留意していくことも必要である。特に、化学物質については、計画的なモニタリングの実施、安全性に関する情報収集o評価等により、安全性の点検を積極的に進めていくことが重要である。
第2に、環境保全技術の高度化と多様な展開を図っていくことである。環境の状況をみると、交通公害、閉鎖性水域における水質汚濁等の改善が遅れている分野を始め環境の改善のために一層の努力が必要とされているが、このような課題を解決するため環境保全技術の果たす役割も大きい。環境保全技術の推進に当たっては、地域特性、生態系等に配慮しつつ、ニーズに応じた多様な展開を図っていくことが期待されている。また、環境化学研究は、環境政策を推進するに当たっての基盤であり、一層の充実が必要である。
第3に、国際的な環境保全に、我が国の経験や環境技術等を役立てていくことである。我が国は、環境政策について相当の知見を蓄積するとともに、環境保全技術についても有数の水準に達していることから、環境保全分野の国際協力に各国から寄せられる期待は大きい。このため、相手国の実情を十分に把握した上で、環境保全技術協力等を一層推進していくことが重要となっている。
さらに、科学技術の発達は、社会の成熟化等と相まって、やすらぎやうるおいといった精神面の充足に対するニーズや、自然へのニーズを高めていくものと考えられ、この面からも自然環境の保全、自然とふれあえる環境の整備、快適環境の創出等の施策が重要となっている。
以上、科学技術の進展に対応した環境保全上の課題についてみたが、近年、環境問題は、経済社会情勢の変化、環境の快適政に対する国民のニーズの高まり、地球的規模の環境問題への国際的認識の高まり等を背景に複雑化、多様化しており、環境政策の幅広い展開が求められている。
既に見たように、環境の状況は全般的には改善を示してきているが、大都市圏を中心に環境基準の維持o達成に一層の努力を要する状況にある。特に、交通公害、閉鎖性水域における水質汚濁等の分野は、環境の改善が遅れており、環境基準の達成に向けて多角的な取組を強化していく必要がある。また、予見的o予防的観点からは環境影響評価の適切な実施、化学物質の環境安全性の積極的点検が重要となっており、環境情報の体系的整備等の政策基盤の充実が不可欠となっている。公害の防止とともに、自然の体系的保全や野生生物の保護、自然とのふれあいの増進を図ることも重要な課題である。地域においては、国民が参加し、快適で住みよい環境を積極的に創出していく動きが活発化しており、これに対する条件整備を充実していく必要がある。さらに、環境問題への国際的認識の高まりを背景に環境保全に関する国際協力がますます重要となっているが、この中で我が国のより一層の貢献が求められている。
このように環境行政は、多くの課題を抱えており、一国レベルのみでなく、地域レベル、国際的レベルでの対応を含んだ重層的な取組が必要となっている。また、その対象分野は、公害の防止、自然環境の保全を基本としつつも、一歩進んで、環境質の向上、さらには快適環境の創造へと拡大しつつある。今後の環境行政は、このような経済社会や環境問題の変化に対応し、21世紀を見通した長期的視点に立って、総合的、計画的に進めていかなければならない。