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第4節 野生生物の保護

 野生生物は、自然環境を構成する重要な要素であるとともに、学術、経済あるいはレクリエーションの観点からも、人間にとって必要不可欠な存在である。加えて、野生生物は医学や農林業等の分野では、近年の遺伝子工学の進歩に伴い、潜在的利用可能性を持つ遺伝子の貯蔵庫として重要視されている。このような野生生物の持つ様々な価値は今日広く認識されるところとなっており、国内外を問わず野生生物の保護に対する要求はますます高まってきている。
 こうした近年の野生生物保護の要請に対応するため、野生生物保護の一層の充実を図っている。
(1) 第5次鳥獣保護事業計画の推進
 第5次鳥獣保護事業計画(昭和57〜61年度)に従って、各都道府県においてそれぞれの実態に応じて鳥獣の生息状況の把握、鳥獣保護区の設定等を行い、事業計画の推進に努めた。
(2) 鳥獣保護区の設定等
 環境庁長官又は都道府県知事は、鳥獣の保護繁殖を図るため、鳥獣保護区の設定、特別保護地区の指定を行っている。
 なお、国設鳥獣保護区の設定は、全国的視野から鳥獣保護上重要な地域について重点的に行うこととしている。
 60年度においては、次の鳥獣保護区等の設定等を行った(第8-4-1表)。
 59年度末の鳥獣保護区等の設定状況は第8-4-2表のとおりである。


(3) 絶滅のおそれのある野生生物の保護
 絶滅のおそれのある野生生物の保護増殖等を進めるため、次の措置等を講じた。
ア トキについては、56年1月に全鳥を捕獲し、人工増殖事業に取り組んできている。60年度は中国から雄1羽を借り受け、計4羽の飼育・繁殖に努めるとともに、人工受精技術の開発についての研究を進めた。
イ イリオモテヤマネコについては、増殖対策の一環として給餌を実施した。また、ツシマヤマネコについては、分布、生育数、生態等に関する3か年調査を60年度から実施した。
ウ タンチョウについては、冬期間の給餌を行うとともに監視人を配置している。また、生息地特別調査を実施するとともに、384羽の生育を確認した。
エ エゾシマフクロウについては、巣箱の設置及び給餌事業を実施した。
オ ヤンバルクイナ、ノグチゲラ等の特殊鳥類については、生育状況等の調査及び生態映画の製作を行った。
カ イヌワシ、クマタカ、オオタカ、ツキノワグマ及びヒグマについては、行動様式、食性等の生態解明のための基礎的研究を実施した。
キ 下北半島のサル、ライチョウ、ニホンカワウソについては、監視、生息環境の保全等の保護措置を講じた。
ク 59年度に小笠原で行った絶滅の危機に瀕している固有植物の分布、生息状況、減少の原因等についての調査を踏まえ、その保全対策の検討を行った。
ケ 日豪渡り鳥等保護条約に基づき、豪州において絶滅のおそれのある鳥類の種の保全を図るため、特殊鳥類としてココスナンヨウクイナ及びノーフォークツグミを追加するとともに、ロードハウアカアシミズナギドリを削除した。
(4) カモシカの保護及び被害防止対策の推進
 カモシカについては、文化庁、林野庁及び環境庁が協議の上定めたその保護と被害の防止を図るための方針に基づき、各種の措置がとられている。
ア 60年度は伊吹・比良、紀伊山地等のカモシカ保護地域設定の検討を進めている。
イ 特に、被害の著しい地域を中心に、防護柵の設置、ポリネットの装着等による被害防止策を講じるとともに、岐阜県及び長野県において個体数調整を認めた。
ウ カモシカの分布及び生育密度等の調査をするとともに、カモシカの適正な保護管理方法の検討を行った。
 また、森林被害防止に関する調査研究を実施した。
(5) 渡り鳥標識調査の実施
 渡り鳥の特に多く集まる渡来地、越冬地等のうち重要な地点を1級観測ステーションとして9か所、その他を2級観測ステーションとして46か所をそれぞれ選定し、標識調査を実施している。
(6) 狩猟の適正化について
ア 猟区の設定について
 人工増殖した狩猟鳥獣を放鳥獣し、これを捕獲することを目的とした放鳥獣猟区として、本郷放鳥獣猟区(広島県)の設定を認可した。
 また、一般の猟区については、鳥羽市(三重県)等5か所の設定を認可した(第8-4-3表)。
イ 違法捕獲の防止について
 カスミ網によるツグミ等の違法捕獲防止及びワシタカ類の違法捕獲防止の推進のため、環境庁、通商産業省、警察庁及び林野庁の連携の下に取締りの強化と普及啓発を図るとともに、都道府県に対し、その推進方を指導した。


(7) 飼養鳥類管理対策について
 野生鳥類を飼養する場合は、都道府県知事の交付する飼養許可証を必要とするが、この運用の適正を期するため、58年度から許可証と鳥類との同一性を確保できる個体識別用標識(リング)の開発研究等を行っている。
(8) 野生生物保護に関する国際協力の推進
 ワシントン条約については、60年3月のワシントン条約関係省庁連絡会議の検討結果に基づき条約の効果的な履行のため、輸入手続の改善等チェック体制の強化及び普及啓発の徹底等所要の措置を講じた。また、ラムサール条約については、釧路湿原及び伊豆沼・内沼を指定湿地として登録し、その保護に努めているところである。
 二国間の協力については、60年6月に開催された日中野生鳥獣保護会議の結果に基づき、10月中国のトキ1羽を借り受け、トキの保護増殖の取組を強化した。また、日米、日豪、日中の渡り鳥等保護条約等に基づき、情報交換を行った。
(9) 鳥獣保護思想の普及啓発
 鳥獣保護思想の普及啓発を推進するため、愛鳥週間行事の一環として北海道において「第39回愛鳥週間全国野鳥保護のつどい」を開催したほか、愛鳥モデル校を中心に行われる野生鳥獣保護の実践活動を発表する「全国鳥獣保護実績発表大会」等を開催した。

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