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第1章 環境の現状

 高度経済成長の過程で、環境汚染が加速度的に進み、生活環境の悪化を招いたばかりでなく、人の生命・健康に大きな影響を与える事態まで生じた。このため、環境汚染の防止を求める社会的要請が強まり、政府及び民間における環境保全対策が強力に推進された。加えて、近年、経済成長の安定傾向が定着するとともに、産業構造が変化し、省資源・省エネルギー化が進展してきた。こうしたことを背景として、環境の状況は、全般的には改善を示してきているが、大都市圏を中心に、窒素酸化物による大気汚染、閉鎖性水域における水質汚濁、交通騒音等の分野で改善が遅れており、環境基準の達成に向けて一層の努力を要する状況にある。
 環境汚染の発生源、発生形態をみると、都市化の一層の進展、産業活動の変化等を背景に、工場、事業場に起因するものに加えて自動車などの移動発生源や、生活排水、生活騒音等家庭生活に起因するものが問題となっている。
 さらに、経済社会の進展に伴い使用が増加している化学物質については、地下水の汚染の問題が生じ、また、ある種の化学物質の環境中への蓄積が明らかになるなど、環境汚染の動向に十分な留意が必要な状況となっている。
 自然環境についてみると、自然の改変が進む中で、原生的な自然や優れた景観を形成する自然がますます貴重になるとともに、都市地域における樹林地、水辺などの身近にふれあうことのできる自然も地域の住民にとって大切なものとなっている。また、自然の改変、乱獲等により、野生生物の生存が脅やかされており、その保護が国際的にも国内的にも重要となっている。
 環境問題は、世界各国においても発生しており社会問題となっているが、近年は欧州や北米における酸性雨のように国境を越える広域的な環境汚染や、大気中の二酸化炭素濃度の上昇、熱帯林の減少等の地球的規模の環境問題が生じており、環境保全の重要性に対する国際的認識が高まっている。
 本章では、このような環境問題の現状を明らかにする。

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