―成熟化する社会における環境問題への新たな対応―
経済社会の各分野において成熟化が進行し、環境政策体系の一応の整備がされ、環境問題が構造的に変化していることなどを背景として、環境行政は今日までに築いた基礎の上に立って、施策の新たな展開が求められている。
今後、長期にわたり国民生活の向上や所得の拡大を図りつつ、よりよい環境を将来の世代に伝えていくため、環境保全に配慮した経済活動を実現し、健全な環境利用のルールを確立していくことが、21世紀を間近に控えた環境行政に課せられた重要な責務となっている。
振り返ると、高度経済成長の過程で人々の健康を害し、生活環境を損なう環境汚染や自然改変が生じた。四大公害事件と言われるイタイイタイ病、新潟水俣病、四日市ぜん息、熊本水俣病の発生や、光化学スモッグ、ヘドロ問題の表面化はその代表的な例である。このような深刻な公害や自然環境の破壊に直面して人々は次第に環境保全の意義や環境と人間との一体的な結びつきについての認識を新たにし、その防除のための社会的要請が急速に高まっていった。
こうした認識に沿って、個別規制を中心に環境政策が整備されてきたことに加え、安定成長への移行や、省資源・省エネルギーの動きが進んだことなどから、環境負荷の増大が抑制される傾向もあり、環境の状況は、一時期の危機的状況からは一応脱することができ、近年、全般的には改善を示してきている。
しかしながら、二度にわたる石油危機を経て、経済社会条件は大きく変わりつつあり、各種の人間活動が環境に及ぼす影響も複雑化、多様化する等環境問題は従来と異なる様相を示している。都市化の進展や生活様式の変化等を背景として、自動車交通等による交通公害問題、あるいは閉鎖性水域の水質汚濁など緊急な対策を要する問題が生じており、多角的な取組が必要となっている。また、近隣騒音や生活排水による水質汚濁、ごみ問題など日常生活に関連した問題が顕在化している。
さらに、産業の各分野で技術改心が進み、消費者のニーズの高度化に対応して多様な製品の生産、流通、消費が拡大している。こうしたことから、環境中に漏出する物質の中には、重金属や分解が非常に困難なある種の化学物質のように環境中に長期間蓄積される可能性があるものもあり、こうした物質による環境問題の発生が指摘されている。
他方、社会の成熟化を背景に国民の環境保全に対する意識も高まっており、公害の防止や自然環境の保全はもとより、より快適な環境に対する関心が高まっている。このため、国としても各地における快適環境づくりの動きを積極的に支援することにより、快適環境づくりを全国に広げていくことが望まれる。
今日、21世紀に向けて進展する経済社会の変化に対応し、国、地方公共団体、事業者、住民が環境保全に関し、それぞれの立場に応じて期待される役割を十分に果たしていくことが求められる。とりわけ国や地方公共団体が環境問題の特性と環境保全の意義を見極め、長期視点に立って総合的、計画的に環境対策を展開していくことが重要である。
このためには、地域ごとの環境の特性の把握と理解に基づき、環境を利用するに際し配慮することが望ましい事項を明らかにするとともに、社会資本の整備、土地利用の整理、環境保全技術の向上などの諸対策を重層的、多角的に進めることが重要である。さらに、環境影響評価制度の確立を始めとした環境汚染や自然破壊を未然に防止する体制の整備、湖沼水質保全のための制度の整備も急がれる。
また、事業者においても、公害の防止に努めることはもちろんのこと、民間部門における環境改善技術の開発など積極的な貢献が期待される。
さらに、国民が自らの生活様式を見直し、環境に配慮した生活をおくることも重要となっている。また、国民の自主的な環境改善運動への意欲も高まりをみせており、公共部門において自主的な活動の条件整備を図ることも課題となっている。
このような、より質の高い環境の実現を目指す環境保全への各般の努力を国内的にも国際的にも続けることにより、環境のもたらす恵みを長期的に享受し、長続きする繁栄と安定の基礎が確保された「環境保全型社会」が形成されるのである。