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第5節 野生鳥獣の保護

 野生鳥獣は、自然環境を構成する重要な要素であり、その存在は豊かな生活環境を形成する上で不可欠である。このような野生鳥獣の持つ価値がバードウォッチング等を通じて認識され、国民の野生鳥獣保護に関する関心は急速に高まってきた。一方、各種の開発等によって、鳥獣の生息環境が減少しつつあることも広く国民の関心の的となっている。
 このような気運は国際的なものとなっており、渡り鳥や絶滅のおそれのある鳥獣の保護のための各種国際条約が締結され、国際協力が要請されている。
 また、野生鳥獣は農林業等の振興の面においても害虫の駆除等多くの恵沢をもたらすが、反面、一部の鳥獣は農林水産業に被害を及ぼしている。一方、狩猟についてみると、狩猟鳥獣の数は減少する傾向にある。
 こうした近年の鳥獣保護及び狩猟の実態に対応するため鳥獣保護の一層の充実を図るとともに、狩猟の適正化を図っている。
(1) 第5次鳥獣保護事業計画の推進
 第5次鳥獣保護事業計画(57年度〜61年度)に従って、各都道府県においてそれぞれの実態に応じて鳥獣の生息状況の把握、鳥獣保護区の設定等を行い、事業計画の推進に努めた。
(2) 鳥獣保護区の設定等
 環境庁長官又は都道府県知事は、鳥獣の保護繁殖を図るため、鳥獣保護区を設定するほか、特に必要とする場合には保護区内に特別保護地区を指定している。
 国設鳥獣保護区の設定は、55年度から特に絶滅のおそれのある鳥獣の生息地、主要な渡り鳥の経路上にある渡来地等で、全国的視野から鳥獣保護上重要な地域について重点的に行うこととしている。
 58年度においては、ヒメクロウミツバメ、カンムリウミスズメ等の集団繁殖地となっている福岡県沖ノ島97haを国設鳥獣保護区に指定するとともに、同区域94haを特別保護地区に指定した。
 また、天然記念物クマゲラの生息の南限となっている秋田県の森吉山鳥獣保護区の区域拡大を行い6,062haとし、特別保護地区728haを指定した。このほか、カツオドリ等の集団繁殖地である鹿児島県の草垣島鳥獣保護区21haの区域を特別保護地区に指定した。
 なお、54年度までに設定されていた国設鳥獣保護区のうち、上記の条件を満たさないものについては都道府県の鳥獣保護区に設定替を行っている。
 57年度末の鳥獣保護区の設定状況は第8-5-1表のとおりである。


(3) 特定鳥獣の保護管理
 絶滅のおそれのある鳥獣等の保護管理及び増殖対策を進めるため、次の保護措置等を講じた。
ア トキについては自然条件のもとでは繁殖が困難であることから、56年1月に全鳥を捕獲し、人工増殖事業に着手した。58年4月にメスが産卵寸前で死亡したが、引き続き増殖に向けて3羽の飼育を行った。
イ イリオモテヤマネコについては49年度から3か年にわたる調査研究によって、30〜40頭が生息すると推定された。54年度以来増殖対策の一環として給餌を実施しているが、更に、その恒久的保護対策を検討するため57年度から生息分布、生息数及び生態に関する調査を実施した。
ウ ハヤブサ等ワシタカ類、ハハジマメグロ等の特殊鳥類について生息状況等の調査及び生態映画の製作を行った。
エ エゾシカ、ホンシュウジカ及びツキノワグマについてその個体群分布、行動様式、個体群構造等の調査及びセンサス手法の開発のための基礎的研究を行った。
オ 下北半島のサル、ライチョウ、ニホンカワウソについて、前年度に引き続き、監視、生息環境の保全等の保護措置を講じた。
(4) カモシカの保護及び被害防止対策の推進
 カモシカについては、文化庁、林野庁及び環境庁が協議の上定めたその保護と被害の防止を図るための方針に基づき、各種の措置がとられている。
ア 58年度は鈴鹿山地及び北奥羽山系をカモシカ保護地域に設定するとともに、南奥羽山系、紀伊山地等の保護地域設定の検討を進めている。
イ 特に、被害の著しい地域を中心に、前年度に引き続き防護柵の設置、ポリネットの装着等による被害防止策を講じるとともに、岐阜県及び長野県において個体数調整を認めた。
ウ カモシカの生息状況を的確に把握するため、全国を対象とした生息分布調査及び長野、岐阜両県における生息密度調査を実施した。
 また、森林被害防止に関する調査研究を前年度に引き続き実施した。
(5) 渡り鳥標識調査の実施
 渡り鳥の特に多く集まる渡来地、越冬地等のうち重要な地点を1級観測ステーションとして9か所、その他を2級観測ステーションとして46か所それぞれ選定し、標識調査を実施している。
 また、標識調査を充実するため、一部の県においても標識調査を実施した。
(6) 狩猟の適正化について
ア 狩猟鳥獣の猟法制限について
 我が国を代表する大型の狩猟獣、クマ、ヒグマに対し過度の捕獲圧が加えられることを防止するために、はこわなを使用してクマ、ヒグマを捕獲することを58年10月1日から禁止した。
イ 猟区の設定について
 人工増殖した狩猟鳥獣を放鳥獣し、これを捕獲することを目的とした放鳥獣猟区として、阿蘇放鳥獣猟区(熊本県)の設定を認可した。
 また、一般の猟区については、大迫(岩手県)、津久井町津久井(神奈川県)など8か所の再設定について認可した(第8-5-2表)。
ウ 違法捕獲の防止について
 カスミ網によるツグミ等の違法捕獲防止及びワシタカ類の違法捕獲防止の推進のため、環境庁、警察庁の連携の下に取締りの実効を図るとともに、都道府県に対し、その推進方を指導した。


(7) 鳥獣の適正管理
ア 飼養鳥類管理対策
 野生鳥類を飼養する場合は、都道府県知事の交付する飼養許可証を必要とするが、この運用の適正を期するため、許可証と鳥類との同一性を確保できる鳥類の個体識別用の標識(リング)の開発及び装置システムの検討を開始した。
イ 特殊鳥類の流通規制
 絶滅のおそれのある鳥類の種の保存を図るため、日本産としてオオワシ等6亜種、豪州産としてハシナガサシゲドリ1種を特殊鳥類に指定した。
(8) 鳥獣保護に関する国際協力の推進
 鳥類保護の分野における国際協力推進のため現在、米国、豪州及び中国との間で渡り鳥等保護条約等を締結しているが、渡り鳥保護に関する資料等の交換、標識調査に関する技術の交流等を行うため、58年度においては第2回日豪会議(58年12月、オーストラリア)を開催した。
(9) 鳥獣保護思想の普及啓蒙
 鳥獣保護思想の普及啓蒙を推進するため、愛鳥週間行事の一環として山梨県において「第37回愛鳥週間全国野鳥保護のつどい」を開催したほか、愛鳥モデル校を中心に行われる野生鳥獣保護の実践活動を発表する「全国鳥獣保 護実績発表大会」を前年度に引き続き開催した。

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