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第1節 

10 複雑化した問題

 環境問題は、近年、複雑、多様化している。ここでは、交通公害の問題と閉鎖性水域の状況をみてみる。
(1) 交通公害問題
 わが国は、人口の過密化、交通量の増大等を背景として、幹線道路、新幹線鉄道、空港などの大規模な交通施設の周辺の市街地等において重大な交通公害問題が発生している。
 また、各種の交通施設周辺での公害問題に対し、差止め、損害賠償を求める訴訟が提起されるなどの紛争や苦情がみられる。
ア 自動車交通騒音、大気汚染等
 自動車の著しい普及に伴い、自動車による国内旅客輸送量及び国内貨物輸送量は、57年度にはそれぞれ4,521憶人キロ、1,877憶トンキロと30年度の16.4倍、19.7倍に増加している。このような状況を背景として、特に大型トラックの交通量の多い幹線道路を中心とした道路周辺において、自動車交通騒音、大気汚染等が大きな問題となっている。
 都道府県等が当該地区の騒音を代表すると思われる地点又は騒音に係る問題を生じやすい地点で57年度中に測定した自動車交通騒音の結果でみると、3,847測定地点のうち、朝、昼、夕、夜の4時間帯のいずれにおいても環境基準を達成している地点の割合は、15.2%(585地点)と低い。
 また、57年度の二酸化窒素による大気汚染の状況をみると、環境基準のゾーンの上限である0.06ppmを超過している測定局が、一般測定局の2.0%に対し、自動車排出ガス測定局では27.1%に達している。
 さらに、窒素酸化物を中心にする排出ガス、大型車等による騒音等のほか、ディーゼル車の増加に伴い、ディーゼル黒煙等ディーゼル排出ガスによる環境への影響が問題となっている。また、近年、積雪寒冷地におけるスパイクタイヤの使用に伴う粉じん等が問題となっている。
イ 新幹線鉄道騒音・振動
 新幹線鉄道は39年の東海道新幹線開通以来、57年の東北新幹線及び上越新幹線の開業により延長約1,800キロメートルに達している。旅客輸送量も40年度の107憶人キロから57年度には461億人キロに増加している。
 新幹線鉄道は我が国の旅客交通の発展に大きく寄与しているものの、その一方で一部の沿線地域においては、騒音、振動が環境保全上大きな問題となっている。
ウ 航空機騒音
 ジェット機が就航し、その運行回数が増加したことにより、交通の利便が良くなった反面、ジェット機の発着回数が多く付近に住宅が密集している空港周辺地域においては航空機騒音が大きな問題となっている。
(2) 閉鎖性水域の状況
 水の交換が少なく、汚濁物質が蓄積しやすい湖沼、内海、内湾等の閉鎖性水域では、依然として環境基準の達成状況が低く、中でも後背地に大きな汚濁源がある水域では、水質保全のための条件は厳しい。
 湖沼について、環境基準の達成率をCODでみると、全体としては海域(COD)や河川(BOD)に比べ著しく低く、琵琶湖(滋賀県)、霞ヶ関(茨城県)、諏訪湖(長野県)などの代表的な湖沼において未達成となっている。特に、環境基準が達成されていない湖沼の中には、手賀沼(千葉県)を始めとして環境基準を数倍以上も超えるような著しい汚濁状態にあるものもみられる。
 海域について、広域的閉鎖性水域における環境基準の達成率をCODでみると、東京湾及び瀬戸内海は横ばいであるが、伊勢湾では達成率が低下した(第1-1-10図)。
 また、生活排水や工場排水などに含まれる窒素、りんなどの栄養塩類の流入により、プランクトンや藻類などの水生生物が増殖・繁茂し、いわゆる富栄養化が生じている。
 このため、湖沼では水道水の異臭味や浄水場のろ過障害の発生、魚介類のへい死、透明度の低下等による景観の悪化などがみられ、瀬戸内海、伊勢湾などの内海、内湾では、赤潮の発生などによって漁業被害や海水浴の利用障害、悪臭の発生、海浜の汚染、低質の貧酸素化など広く生活環境への被害が生じている。
 閉鎖性水域においては、一たび汚濁が進行すると、水質の改善を図ることは容易なことではなく、自然の浄化能力に期待するだけでは将来的にも改善の見込みは薄いと考えられる。

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