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むすび

−恵み豊かな環境を将来に−
 工業化と都市化が進み、資源制約が強まりつつある現代の経済社会において環境保全の意義がますます高まってきている。今後の課題は、国民の健康を保護し、生活環境や自然環境を保全することはもとより、それにとどまらず、長期的・総合的、計画的な視野の下に、より高い質の環境の実現を目指して、幅広い政策の推進を図ってていくことである。その際、重要なことは、将来により良い環境を伝えていくという視点に立って、環境資源を適切に管理していくことである。
 森林、大気、水、土壌などの環境資源はその多様な機能によって、空気を清浄に保ち、水の動きを調整し、肥沃な土壌を維持するとともに、人間性を培い、人々の情緒を豊かにしてくれるものであり、賢明に保全、活用されれば、現在及び将来の世代にまで続く人類の繁栄の基盤となるのである。
 かつての農業社会では、環境資源がおおむね一定の周期で循環して利用されることで、社会の持続的な安定が保たれていた。近年の経済社会は化石燃料や鉱石などの再生できない資源を大量に費消し、加工して、拡大してきた。この結果、人々の生活水準は物的には大幅に向上し、その内容も便利で多様なものとなった。一方、この間の環境資源の利用の速度と密度は、しばしば再循環に必要な周期を超えるものであり、使用後のエネルギーや物質が浄化されず、環境中に残存することとなった。
 また、ある種の化学物質や重金属のように分解が非常に困難なまま環境中に長期間蓄積される可能性が持たれているものもある。
 このような残存物の処理、処分をめぐって環境保全上、多くの問題が生じている。中でも大気汚染や水質汚濁などの公害は、人々の健康を害し、生活環境の向上をさまたげる大きな要因となっている。四大公害事件といわれるイタイイタイ病、新潟水俣病、四日市ぜん息、熊本水俣病の発生や、光化学スモッグ、ヘドロ問題の表面化などはその代表的な例である。
 人々の健康を害し、生活環境の向上を阻害するような深刻な公害や自然環境の破壊に直面して、人々は次第に環境保全の意義や環境と人間との一体的な結び付きについての認識を新たにし、その防除のための社会的要請が急速に高まっていった。
 近年、こうした認識に沿って、個別規制を中心に環境政策が整備されてきている。このことに加え、経済成長率が低下し、省資源・省エネルギーの動きが進むなどの環境の負荷の増大を抑える動きもあり、環境の状況は、一時期の危機的状況からは一応脱することができ、近年、全般的には改善を示してきている。
 しかし、既に明らかなように多角的な取組を必要とする交通公害や閉鎖性水域の水質の汚濁は緊急に対策を要する問題である。
 また、計画的、予防的な対策を講じることも必要とされる。
 このため、まず急がれることは、公害の防止や自然環境の保全に当たって、環境がみずから備えている自律的な安定維持機能を科学的に明らかにしつつ、その上に立って、社会資本の整備、土地利用の調整、環境保全技術の向上などの諸対策を重層的、多角的に進めることであり、環境影響評価制度の確立を始め、環境汚染や自然破壊を未然に防止する体制を整備することである。
 このような努力を踏まえ、今後人々が限りない環境の恵沢を十分享受していくためには、国民の環境保全への熱意と参加意欲を基盤に、地域の特性に応じた地域環境管理を進め、快適な環境の創造を図っていくことが重要である。
 快適な環境づくりは、安全、衛生、利便などの確保はもちろんとして、さらに人々にやすらぎやうるおいを感じさせるような環境づくりである。このようなより質の高い環境が形成されることにより人々はより一層環境との触れ合いを深め、環境の恵み豊かなことを実感するであろう。それは今後においても人々の共通の目標となり得るものである。
 この共通の目標に向けて環境の利用を制御し、環境の創造を図ってこそ、環境と調和のとれた人間活動が可能となり、持続的な経済社会の安全と安定が得られることになる。
 そのためには、国、地方公共団体、事業者、住民がそれぞれの立場に応じて期待される役割を十分に果たしていくことが求められるが、とりわけ国が環境問題の特性と環境保全の意義を見究め、長期的視点に立って総合的、計画的に環境政策を展開していくことが重要である。
 また、環境保全への努力を国際社会においても進めていくことが地球的規模の環境問題の解決に貢献することとなり、ひいては、我が国の国際社会における地位の安定と向上に資することとなる。

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