2 閉鎖性水域の水質保全対策
(1) 総量規制の実施
広域的な閉鎖性水域の水質改善を図るためには、その水域の水質に影響を及ぼす汚濁負荷量を全体的に削減することが肝要であるが、水質汚濁防止法による従来の規制方式では、
ア その水域の水質に関係する汚濁発生源の全体(臨海県だけでなく上流県を含めて)を捉えることができないこと
イ 特定施設を設置する工場や事業場だけを対象としているため、下水道整備などの遅れた現状では、大きな負荷量をもつ生活排水への配慮が十分でないこと
ウ 濃度規制であるため、特定施設の新増設や稀釈排水による汚濁負荷量の増大に有効に対処できないこと
等の制度的限界があった。このため、これらの問題を解決し、広域的な閉鎖性水域の水質保全を図るため、53年の水質汚濁防止法等の改正により水質総量規制を制度化し、現在、東京湾伊勢湾及び瀬戸内海について化学的酸素要求量に係る総量規制を実施している。
これら三海域の関係都府県においては、55年3月18日に定められた化学的酸素要求量に係る総量削減計画における削減目標量(第1-6-5表)の達成のため、生活排水、産業排水等からの汚濁負荷量の削減対策が実施されている。 生活排水については、下水道整備を促進するとともに、し尿処理施設の整備、し尿浄化槽の設置及び管理の適正化等の施策を推進している。
工場及び事業場については、適切な総量規制基準を定め、その遵守を図ることとし、総量規制基準は55年5月に関係20都府県において告示され、新設の工場及び事業場については55年7月1日から、既設の工場及び事業場については、56年7月1日から適用されている。
総量規制基準の適用されない工場等からの排水、一般家庭からの生活雑排水等を含めた小規模の生活排水等からの汚濁負荷については、その汚濁負荷量の総量に占める割合が相当程度あることから、関係都府県知事は適正な汚水の処理方法等について総量削減計画を達成するため必要な指導等を行っている。また、この指導等を的確に実施するため、関係都府県知事は、特定事業場を設置する者以外の一定のものについて汚水等の処理の方法等に関し、報告を求めることができることになっている。
水質総量規制の実効をあげるためには、汚濁負荷量の測定を的確に行うことが不可欠であり、水質汚濁防止法においては、総量規制基準が適用されている指定地域内事業場から排出する者は汚濁負荷量を測定し、その結果を記録することが義務付けられている。
このため環境庁では、55年度から指定地域内の事業者を対象に測定機器の設置、維持管理に関する講習会等を実施している。
一方、関係地方公共団体において水質テレメータ監視システムの整備が進められているが、環境庁では54年度よりこれらの整備に対して助成を行っている。
(2) 富栄養化対策
富栄養化は、元来、流域からの窒素、燐等の栄養塩類の供給により湖沼が徐々に肥沃化される現象を指すものであったが、近年、人口、産業の集中等により、湖沼に加えて内湾等の海域においても窒素、燐等の栄養塩類の流入が増大し、藻類その他の水生生物が増殖繁茂することに伴い、その水質が累進的に悪化する現象がみられるところがあり、水質保全上問題となっている。
このため、湖沼においては透明度の低下や水色の変化による美観の劣化のほか、水道におけるろ過障害や異臭味問題、水産における魚種の変化等種々の障害が生じている。また海域においては赤潮による漁業被害等が問題となっている。
このような富栄養化に伴う障害の発生にかんがみ、環境庁においては、次のような施策を講じている。
富栄養化対策を実施するに当たっては、その要因物質に関する環境上の目標を明らかにすることが必要である。このため、環境庁においては、湖沼について、富栄養化の要因物質である窒素及び燐に係る水質目標の検討を行ってきたが、科学的知見が集積されてきたこと等から、57年4月、中央公害対策審議会に対し「湖沼の窒素及び燐に係る環境基準について」諮問し同年11月答申を得た。この答申を踏まえ、同年12月に、環境庁告示「水質汚澗に係る環境基準について」の一部を改正し、生活環境保全に関する環境基準として湖沼の窒素及び燐に係る環境基準を告示した。環境庁においては、引き続き海域について窒素及び燐に係る水質目標の検討を行っている。
排水処理技術については窒素・燐に係る排水処理技術の指導指針を策定するための調査検討を行っているところである。また、中央公害対策審議会は58年1月に環境庁長官から「窒素及び燐に係る排水基準の設定について」諮問を受け、湖沼の富栄養化の防止に係る窒素・燐の排水基準の設定につい審議を行っている。
瀬戸内海の富栄養化による被害の防止のため、関係府県は55年5月までに、瀬戸内海環境保全特別措置法に基づき燐及びその化合物に係る削減指導方針を定め、これにより59年度を目標として燐の削減指導を行っている。
伊勢湾・東京湾については富栄養化対策連絡会において、関係都府県等と情報交換、連絡調整等を行った結果を踏まえ関係都県で、伊勢湾では57年4月から、東京湾では57年7月から富栄養化防止対策を行っている。
また、閉鎖性水域の富栄養化を防止するためには下水道の整備等各種の施策を講じていく必要があるが、燐の負荷を極力削減するため生活排水対策の一環として、さらに、石けん等無燐洗剤使用の推進についての啓蒙も行った。
赤潮対策として、これまで実施してきた赤潮発生の予察技術の開発研究の諸成果を踏まえ、光化学的リモートセンサーによる調査を引き続き実施するとともに瀬戸内海において多発している赤潮プランクトンを対象としてその発生機構等を明らかにするため、現地調査及び室内実験を行った機構総合解析調査を行った。また、湖沼におけるプランクトンの異常発生の原因、メカニズム、被害防止の方法等について総合的な調査検討を行うため淡水赤潮対策調査を実施した。
(3) 湖沼の環境保全対策
湖沼は、閉鎖性の水域であり、水の滞留時間が長く汚濁物質が蓄積しやすいため水質汚濁の影響を受けやすく、また、河川や海域に比して環境基準の達成状況が悪い。また、富栄養化に伴い、水道のろ過障害や異臭味問題、水産被害等の障害が生じている。
このような状況は、特定の地域の湖沼だけではなく、全国的にみられるものであること、湖沼の水質汚濁の要因が工場、事業場によるもののみではなく生活系、農畜水産糸など多岐にわたっており、従来からの水質汚濁防止法による規制のみでは十分でないこと等にかんがみ、新たな施策を含め諸施策を総合的に講じることが必要である。
このため、環境庁としては、前述した富栄養化対策のほか、下水道の整備、生活雑排水処理対策等の生活排水対策、工場等の排水対策、畜・水産業等に係る対策、しゅんせつ等の浄化事業及び湖沼の自然環境保全対策を総合的、計画的に推進することとしている。
この一環として、湖沼の特性に応じたきめ細かな対策立案に当たっての基礎とするため、55年度より「湖沼水質管理指針策定調査」を実施している。
一方、地方公共団体においては、滋賀県において「滋賀県琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例」が施行されたのに続いて、「57年9月から茨城県において「茨城県霞ケ浦の富栄養化の防止に関する条例」が施行されたほか、富栄養化の進行した湖沼をもつ各地方公共団体において湖沼保全に関し活発な取組みがなされている。
なお、「琵琶湖総合開発特別措置法」について10年間の期限延長等を内容とする改正が行われ、これを受けて琵琶湖総合開発計画を変更し、畜産環境整備施設、農業集落排水処理施設、ごみ処理施設及び水質観測施設の4事業を追加する等水質保全対策の充実を図った。