−幅広い環境政策の展開をめざして−
我々は、生活や生産の場を通じ、環境資源をさまざまな方法で利用している。環境資源の保全と賢明な利用により、良い環境を将来に伝えていくことは、環境政策の基本である。
近年、経済成長率は低下し、産業構造も加工組立型産業の比重が高まり、省資源・省エネルギーの動きも進むなど環境負荷の増大を抑制する面もみられるものの、なお解決すべき環境問題は多く、我々は多様な発生源から生じるさまざまな公害からの挑戦を受けている。すなわち、経済社会活動の拡大、都市の過密化、生活様式の変化等を背景に、広範な自動車の普及、道路整備の立遅れ等による交通公害、閉鎖性水域の水質汚濁、道路、公園等における空きカンの散乱、石油代替エネルギーの開発・導入に伴う環境問題などである。
また、個別の汚染因子についてみれば、いまだ環境基準の達成されていないものも多く、環境基準の達成されたものについてもその維持に努めなければならない。
自然環境の面においても、自然植生の減少、野生動物の生息適地の縮小、自然湖岸、自然海浜等の減少などの問題がある。
加えて、国際的観点からみても森林の減少、砂漠化の進行、フロンガスによる成層圏オゾン層の破壊の可能性及びそれに対する調査、対策など一国の努力だけでは解決できない地球的規模での環境問題も拡大している。
更に、環境に対する国民の意識も多様化してきている。近年の消費水準の上昇、定住化傾向の強まりを背景に、公害の防止、自然環境の保全にとどまらず身近な緑や水辺、美しい街並み、のびのび歩ける道や広場などの快適な環境への期待を次第に高めてきている。
環境政策は、このような環境問題の変化と広がりに的確に対応していくことが必要である。そのための課題は、環境のもつ多様な機能に留意しつつ、環境の総合的管理を進めていくことである。
環境の総合的管理は、経済社会諸活動の展開に伴う土地、水、生物等限りある環境資源の利用に対し、これを総合的、計画的な環境保全の視点に立って調整しようとするものである。その展開に当たっては、環境汚染、自然破壊を未然に防止していくことが重要であることは言うまでもない。そのためには、事業の実施に際しその影響を事前に調査、予測、評価し適切な対策を講じる環境影響評価制度の確立が急務である。
また、地域ごとに環境の特性を把握し、それを踏まえて望ましい地域環境を実現するため地域環境管理を進めていくことも重要である。このことは近年各地で展開されている快適な環境づくりにも応えるものである。
快適な環境づくりは、国民の身近な生活環境への深い愛着を基盤とするものであり、歴史的、文化的、自然的な地域環境への理解に根ざすものである。こうした認識に立った地域住民や地方公共団体の行う自主的な努力を中心とし、これに国や企業もそれぞれの立場から協力することにより快適な環境づくりが着実に進み、積極的に良好な環境を確保し、創造していくことが可能となる。
環境問題は国内にとどまらず、地球的規模でも問題となっている。
各国の環境問題に関する認識は、10年間のストックホルム人間環境会議を契機に急速に高まってきた。その後の10年間、我が国を始め各国は積極的に環境政策を進め、一応の成果を上げてきており、国連、OECD等の場を通じての国際協力も活発化してきている。昨年7月には、オタワで開催された主要国首脳会議で「我々の長期的経済政策を策定するに当たっては、地球の環境及び資源基盤を保全するよう配慮が払われなければならない。」と合意されるなど地球的規模で進行する環境問題への関心が各国間で強まってきている。
このような中で、自由世界第二位の経済規模をもつ我が国に対して、国際的、地球的規模での環境問題解決への貢献を期待する声が大きくなってきている。我が国としても、こうした期待に応え、これまでの環境保全のための努力の積み重ねのなかで培われてきた経験や科学的研究成果を積極的に活用して、国際協力を図っていくことが必要である。
将来の繁栄は環境へのきめ細かい配慮がなければ期待できない。経済社会活動の拡大、都市化の進展に際し環境問題に十分配慮するとともに、すべての生命をはぐくんできた地球環境を保全し、将来に伝えていくことは我々の責務である。
環境庁発足10年、「自然環境保全法」制定10年、自然公園制度発足50年、国連人間環境会議10年という大きな節目に立った今日、先人の努力と経験を踏まえ、将来により良い環境を伝えていくため多様化した環境問題の解決に向って幅広い環境政策の展開が求められている。