我が国経済の戦後の高度成長の過程で、加速度的に環境汚染が進み、生活環境の悪化のみならず国民の生命、健康にまで大きな影響が生ずるに至った。また、かけがえのない自然の改変が進行した。このような危機的な状況の中で、環境汚染の防止を求める社会的要請が高まり、環境政策は、40年代に入り本格的に整備されることとなった。特に、46年に環境庁が設置されるなど行政体制が整備され、環境政策がより強力に推進され、環境の状況は、一時期の危機的状況からは一応脱することができ、近年、全般的には改善を示してきている。
しかし、汚染因子の中にはその改善状況が頭打ちになっているものもあり、特に、人口、産業の集中した大都市等では、環境汚染の改善の進んでいないところが多い。また、環境基準の維持・達成のためには更に一層の努力が必要な汚染因子も多い状況にある。このような中で、自動車交通に起因する騒音等の交通公害あるいは湖沼などの閉鎖性水域の水質の汚濁など緊急に対策を要する問題も生じている。
自然環境についても、50年の歴史をもつ「自然公園法」、10年目を迎える「自然環境保全法」等により、その保全・整備が図られてきているが、人間にとっても野生生物にとっても重要な環境である各種の天然林や湿原、自然の湖岸、海浜等が次第に改変されていく状況がみられる。
本章では、環境汚染と自然環境について、中長期的変化を踏まえつつ、その現状を明らかにしていくこととする。