2 国立機関の公害防止等試験研究
(1) 概要
国立機関の公害防止等に係る試験研究費として昭和55年度に環境庁に一括計上されたものは、117テーマ、32億4,844万円(全年度17テーマ、32億4,844万円)で、これらの試験研究は、警察庁、科学技術庁、環境庁、大蔵省、文部省、厚生省、農林水産省、通商産業省、運輸省、郵政省、労働省及び建設省の12省庁に属する56試験研究機関等において実施された(参考資料24参照)。
一括計上による公害防止等の試験研究については、従来から当面する問題のみならず、長期的視野に立った対策推進の基礎を確保するよう配慮し、研究分野ごとに総合研究プロジェクトを編成してその推進を図っている。
(2) 総合研究プロジェクトの推進
55年度に実施した総合研究プロジェクトの数は10で、その内容は次のとおりである。
? 光科学スモッグ等都市型大気複合汚染防止に関する総合研究
各種の固定発生源や移動発生源から排出される一次汚染物質である窒素酸化物や炭化水素は、大気中で光化学反応を起こして複雑な二次汚染物質を生成する。このような光化学スモッグ等都市型大気複合汚染の防止対策の確立に資するため研究を総合的に推進するものである。
固定発生源については高温反応炉のNox等の排出防止技術、高SN燃料の無公害燃焼システム及び重油の脱硫触媒の被毒因子の除去技術のほか、大気中のガス―粒子状物質不均一反応、大気汚染の実時間予測手法及び下層大気の局地循環と大気汚染物質の長距離輸送に関する研究を行った。
また、移動発生源についてはジェットエンジンからの窒素酸化物排出低減及びディーゼル機関の燃料改変等による大気汚染の防止技術のほか、大型ジーゼル自動車の排出ガス性能評価法、自動車排気系における粒状物質の挙動・排出特性及び低公害自動車の使用過程の排出ガス特性の把握法に関する研究を行った。
? PCB等新汚染物質の評価並びに汚染防止に関する総合研究
PCB等の難分解性物質は、生物濃縮、食物連鎖等を通じて人体内に取り込まれ、蓄積し、人の健康に影響を与えるおそれがある。また、鉱業等に起因する重金属による土壌汚染、工場排水中の重金属や船舶からの投棄油による海洋汚染も、農作物や魚介類等の食物を通じて人の健康に影響を与えるおそれがある。この総合研究においては、合成化学物質や重金属等についての生体影響、解毒排斥作用機構、生態系内における挙動等に関する研究を推進するものである。
PCB等新汚染物質の生体影響については、各種環境汚染物質の遺伝毒性を定量評価するための変異原性試験法の研究、重金属等の動植物体内における存在形態による毒性評価の研究及び有機塩素系農薬をモデルとして残留化学物質の新たな視点から安全性評価法の開発、化学物質の蓄積について精度良く効果的な人体汚染モニタリング方式の確立の研究を行った。
有害物質に対する解毒、排泄作用機構については、低濃度のカドミウム等の長期間投与によるアミノ酸代謝及び尿素サイクル代謝への影響、金属性元素の発汗による代謝機能と健康維持に寄与する効果の研究を行った。
汚染物質の生態系における挙動については、石油化合物、農薬等の生体内への取り込み、代謝について、人工水棲生態系を用いて研究を行った。
? 排水処理の高度化に関する総合研究
工業の発展と人口の都市集中化に伴い公共用水域に排出される工場排水及び生活排水は水域の浄化能力を超え、排水中に含まれる汚染物質の多種多様となった。
この総合研究においては、各種産業排水等に含有する有機性物質及び有害物質の処理を中心とし、多量の薬剤の消費及び多量の処理沈殿物の生成等を考慮した処理技術の改良、開発、更に有用物質の回収再利用、処理水の用水化等排水処理の高度化に関する研究を推進するものである。
有機性排水については、含油排水の高度化処理及び各種酸化法の組合せによる高度処理システムの物理化学的処理法、食品工業の処理施設の小型化、回収物の有効利用並びに家庭用合併浄化槽の高度処理、寒冷地における処理、余剰スラッジ生成抑制等の生物化学的処理法の研究を行った。
重金属含有排水については、懸濁電解による処理及び鉱山排水の無殿物処理等の研究を行った。
このほか、工業団地排水の高度処理による水の再利用、リンの除去技術、熱可逆的吸着作用を持つ高分子材による処理及び観光地における下水処理法並びに活性汚泥による生分解性の評価の研究を行った。
? 瀬戸内海等沿岸海域の汚染防止に関する総合研究
我が国の沿岸海域は、産業排水、生活排水の増大及び船舶からの排出油等による水質の汚濁が問題となっている。なかでも瀬戸内海、東京湾、伊勢湾等の閉鎖性海域においてはその汚染は著しい。この総合研究においては、これら海域の浄化対策を究明するため、汚濁現象および海域生態系における物質の循環と変化の解明、汚濁の制御並びに浄化のための技術開発を中心に推進するものである。
汚濁現象等については、大型水理模型実験等による瀬戸内海の海水交換性の解明、東京湾をモデルとした沿岸海域の広域的長期汚濁予測技術の開発及び汚染底質の堆積機構の解明、底質からの重金属、窒素、リン等の汚染物質の溶出現象等二次汚染機構の解明の研究を行った。また、富栄養化物質の内湾生態系における動態解明、大規模赤潮の形成及び被害抑止、生態系数理モデルによる工場排水の影響評価の予測手法確立の研究を行った。
汚濁防止については、臨海工業地帯の排水を対象にした総合的自動管理システム開発、イナートガスシステムからの排出処理方式の研究を行った。
汚濁防止については、付着油のはく離技術及び回収技術の開発の研究を行った。
? 廃棄物の処理と資源化技術に関する総合研究
廃棄物の処理は、その質の多様化、量の増大、二次汚染の発生及び施設用地確保に問題がある。このため、適正処理の一層の推進を図るとともに減量化の観点から、廃棄物の有効利用が重視されている。この総合研究においては、廃棄物を適切、無害に処理した最終処分量を減少し、更に資源として有効利用する技術の開発等を推進するものである。
埋立地からの二次汚染防止については、海面埋立地からの保有水の浸透防止工法の開発及びヘドロの効率的脱水工法地盤の早期改良の研究を行った。
各種汚泥の処理と有効利用については、排煙脱硫石こうの建材等への有効利用及び各種スラッジ中の有害物質の除去技術の研究を行った。また、タンカー等から発生する油性スラッジ抑制のためのタンクの原油洗浄技術の研究を行った。
難分解廃棄物の処理については、それを分解する微生物の検索及び水熱反応による分解の研究を行った。
都市廃棄物については、農業利用に適したコンポスト化技術、貯蔵、運搬を含む農業利用技術の研究を行った。
このほか、し尿処理施設の処理システム、最適操作条件確立及び超微粒粉じんの粗粒化再利用技術の研究を行った。
? 自然環境の管理及び保全に関する基礎的技術開発のための総合研究
自然環境の管理と保全についての基礎的技術の開発を図るため、この総合研究においては、環境の悪化が生物や生態系に与える影響、耕地における水質保全機構の解明、自然環境の調査、監視手法の開発等に関する研究を推進するものである。
大気汚染の植物影響については、光化学オキシダントが農林作物の生育収量に与える生理、生化学的影響の解明と被害の定量化手法の開発の研究を行った。
環境汚染物質や開発行為の生態系への影響については、有機リン殺虫剤が森林、耕地、水系等の動物に与える影響の解明と昆虫誘引物質の開発の研究、微量元素の土壌―植物―家畜系への移行吸収過程における生物濃縮の解析及び森林の広域的環境保全機能を維持するための管理手法、森林の環境変化に伴なう大型野生動物の生息動態解明並びに海岸林について、生育環境の変化に応じて、環境保全機能の維持強化を図るための手法に関する研究を行った。
耕地生態系における水質保全機構については、耕地水系での水質汚濁物質の動態及び生体影響の解明とともに水質環境保全に必要な水利用形態の改善等の研究を行った。
自然環境の調査手法等の開発については、樹木の活力度及び水域の透明度を指標として、広域の環境変化をリモートセンシング技術により監視する手法の研究を行った。
? 環境汚染の生物に与える慢性影響の解明に関する総合研究
比較的高濃度の環境汚染物質が生物に与える急性、亜急性の影響についてはかなり解明されているが、微量汚染物質が生物に与える長期的、慢性的影響については、未解明に近い。この総合研究においては、微量の重金属や農薬等による環境汚染が動植物に与える遺伝的、生理的、生態的影響や各種環境要因と障害発現との関係等の解明を推進するものである。
遺伝的な影響の解明については、農薬・重金属等の環境汚染が動植物の耐性・形質等に及ぼす遺伝影響の解明、汚染地における昆虫の系統的変化に関する研究を行った。
生理的な影響の解明については、重金属の生体蓄積と排泄促進因子の解明、複合汚染による生体影響の評価法、培養細胞を用いる難溶性物質の毒性評価法、水生生物に与える慢性障害評価法の開発、低沸点有機塩素化合物の生体影響等に関する研究を行った。
生態学的影響の解明については、重金属等が水田雑草の種社会に及ぼす影響、汚染地における昆虫の群落的変化に関する研究を行った。
各種環境要因と障害発現との関係では、重金属の慢性毒性を増幅する環境因子に関する研究、汚染物質によるアレルギー発症、免疫機構、感染等に及ぼす影響の解明についての研究を行った。
? 都市における環境保全計画手法の開発に関する総合研究
人口の急激な都市集中の結果、都市は無計画に膨張し、大気、水の汚染、交通混雑、緑地空間の減少と質の低下、廃棄物処理の困難化等悪化した状況にある。この総合研究においては、都市活動の制御や緑地空間の配置、物質流の負荷の低減化による都市環境の保全手法の開発及び廃棄物の処理再利用面からの都市計画手法の開発の研究を推進するものである。
都市環境の保全手法の開発については、都市の土地利用特性、緑地系の効果分析による都市内の地区環境評価手法の開発の研究を行った。また、都市環境の保全に重要な役割を果たす樹林地については、都市化環境の及ぼす影響、都市環境下における育成法の検討等樹林地の維持・管理手法の研究を行った。
物質流としての交通流・廃棄物流については、道路交通公害と交通流の関係の予測と実際的な交通制御論理に関する研究、廃棄物の流れを制御し、循環させるのに適した都市空間を形成する廃棄物を中心とした都市計画手法の開発の研究を行った。
? 騒音・振動の防止及び評価に関する総合研究
工場機械設備の大型化、新幹線鉄道や、航空機等の大型高速輸送機関の普及、建設工事の頻繁化と大型化等に伴い、騒音・振動は大きな社会問題となっている。このため、騒音・振動の防止に資するため研究を総合的に推進するものである。
発生源対策については、ジェットエンジンの排出側の騒音の低減化、道路橋上から発生する低周波空気振動の防止、機械の地面振動防止技術及び道路交通振動の防止に関する研究を行った。
伝搬防止技術については、複数の機械から発生する振動を相殺低減する研究および地盤境界を伝搬する騒音の特性に関する研究を行った。
計測技術については、複合騒音の分離定量、騒音の積分効果の評価法及び実走行状態と等価な単純走行モデルによる自動車騒音の測定法に関する研究を行った。
予測評価技術については、建設工事に伴う騒音・振動の予測評価手法の研究及び道路交通振動の予測評価手法に関する研究を行った。
環境解明については、騒音が生体に与える病的状態や失調状態の解明、騒音と振動の複合影響及び過度振動の生体影響に関する研究を行った。
? 環境汚染物質に係る計測技術の高度化に関する総合研究
現行の計測技術を評価改良し、その精度を高めるとともに、測定対象の特性にみあった新たな計測技術を開発して分析値の信頼性の確保を図り、近年注目されてきた立体的な環境計測を行える広域計測技術の開発にも積極的に取り組む等計測技術の高度化を総合的に推進するものである。
標準物質の作成並びに評価については、標準窒素ガス中の極微量Nox測定法を確立するため標準ガス測定精度の研究、分析阻害物質等に関する研究を行った。
排出源における計測手法の評価、改良については、排ガス流量測定法について、適正な測定法の確立を図る。総量規制に適応した、排水流量計の計測の向上を図るとともに、船舶から油水排出に伴う油分濃度計、油水界面計を開発した。
ポイント計測技術の評価、改良、開発に関する研究については、環境中に存在する粉じんの粒径分布の計測法を開発し、発生源ダストとの相異を究明する。衝撃波を利用した金属成分の発光分析法の研究、オキシダントの生成に密接な関係のある活性炭化水素を選択的に連続測定しうる装置の研究を行ったほか、半導体レーザーを光源とする赤外分光分析計を開発した。また、悪臭の心理的類型化と許容限界について究明する。
プラズマ発光法等の新しい分析技術の研究、リンの形態別自動計測装置の研究を行った。また、浮遊懸濁物質の連続測定のための研究を行った。水中の金属をキレート剤との反応速度差を利用した分析法の研究を行った。
環境汚染物質の監視、識別手法の開発に関する研究については、大気中に存在するニトロソアミンの分析方法の研究、船舶から排出される油等について組成等を解明し、排出源の究明に資する。
広域計測技術の開発に関する研究については、赤外線やレーザー等を用いて、Nox等を航空機等より、計測するための技術開発を行った。
また、音波を利用したラス・レーダーにより、水平風速成分の測定の研究を行った。
海面の油についてマイクロ波の特性を利用して遠隔的に計測する技術の開発を行った。
また、海中のプランクトン等を迅速に計測しうるレーザーを利用した機器を開発する研究を行った。
昭和55年度においては、以上10の総合研究プロジェクトを推進したほか、触媒燃焼方式による悪臭防止技術に関する研究を実施し、低濃度の悪臭ガス除去のための高効率の脱臭用触媒の開発並びに前処理技術を含めた小型高性能の触媒燃焼装置の開発を行った。