1 都市における自然環境の保全
都市及びこれら周辺の地域における樹林地域、草地、耕地、水辺地などの自然環境は、大気浄化、気象緩和、無秩序な市街地化の防止、公害、災害の防止等に大きな役割を果たすとともに、レクリエ―ション空間の供給、美しい街並の形成等快適な都市環境づくりの不可欠な要素となっており、その積極的な保護育成あるいは復元を図らなければならない。そのため、55年度においては以下の施策が講じられた。
(1) 国民公園及び墓苑の整備
旧皇室苑地の皇居外苑、新宿御苑及び京都御苑は国民公園として、46年以降は環境庁が管理し、広く一般に利用され親しまれている。
皇居外苑は森林公園として整備された旧江戸城北の丸地区を加えた114.9haに及び、一般の利用に供されている。皇居前広場はクロマツと芝生を中心に整備されており、利用者は年間約800万人に及んでいる。近年クロマツ等の樹木が衰弱してきたので、年次計画として樹木の整備をはじめ芝生地の土壌改良、凱旋濠の水門の改修等のほか、外苑濠の漏水及び水質浄化対策のための検討調査を行った。
このうち、北の丸地区は、19.3haの園内に、灌木類を含めて約200種、13万本に及ぶ樹木が植えられており、年間利用者は約350万人に達しており、55年度においては、灌木、喬木及び芝生手入れ、芝生地の土壌改良、排水管敷設等の整備を行った。
新宿御苑は、明治時代における和洋折衷の代表的庭園であり、面積58.3haの苑内には約1,800本の桜樹のほか、四季にわたり花を観賞できるよう全苑にわたり花木の整備が行われており、年間利用者は約145万人に及んでいる。55年度においては、身体障害者用便所、四阿の新築、御苑大温室の改修工事、菊日除柵の設置、菊上屋新造、苑内樹木の手入れ、芝生張替等を行った。
京都御苑は、京都御所を含む面積65.3haの苑地で、御所の環境を保持し、京都市の中央公園的役割を果たしており、年間利用者は約600万人に及んでいる。55年度においては、門修繕、切通口舗装、排出管改修、倉庫改築、苑地整備等を行った。
千鳥ヶ淵戦没者墓苑は、面積1.6ha余りの苑地で、戦後海外各地から収集された遺族に引き渡すことのできない戦没者の遺骨約321,000柱が(56年4月現在)安置されており、年間約15万人に達する人が訪れている。55年度においては、人口門扉の新設、樹木整備等を行った。
(2) 緑のマスタ―プランの策定
51年7月の都市計画中央審議会の答申に基づき都市化の進展に伴う都市環境の悪化を防止し、より快適な都市環境の形成を図るため、都市計画区域ごとに都市における緑とオ―プンスペ―スの総合的な整備及び保全を図るための計画である「緑のマスタ―プラン」の策定を図った。
(3) 都市公園の整備
都市公園は、都市を緑化し、都市公害を緩和し、災害時の避難場所として機能するばかりでなく、住民のレクリエ―ションの場を提供し、人工的な都市景観に潤いを与える等都市への過度の集中による種々の弊害を防止するとともに、都市生活環境の改善に資する基幹的な生活環境基盤施設である。
しかるに、我が国の都市公園の整備状況は53年度末において、1人当たり都市公園面積3.8?と欧米諸国に比べ低いレベルにある。また近年における国民の所得水準の向上、余暇時間の増大等に伴う都市生活環境に対する国民意識の変化により、都市公園等の整備は緊急に対処しなければならない課題となっている。
このような背景から、「都市公園等整備緊急措置法」に基づく第1次都市公園等整備5箇年計画(47〜50年度)更に第2次都市公園等整備5箇年計画(51〜55年度、事業費総額1兆6,500億円)を策定し、整備を推進しているところである。55年度は、その最終年度として国費830億5,400万円(事業費、1,884億2,000万円)をもって、積極的な事業の推進を図った(第8-6-1表参照)。
(4) 都市の緑地保全
都市の緑とオ―プンスペ―スを確保するため、「都市緑地保全法」に基づき、都市計画区域内の樹林地、草地、水辺地等の良好な自然環境を形成している土地のうち、一定の要件に該当するものについて都市計画に緑地保全地区を定めている。54年度末現在緑地保全地区約1.569ha、うち首都圏及び近畿圏の近郊緑地特別保全地区が13地区、約1,247ha、近郊緑地特別保全地区以外の緑地保全地区が16都市で71地区、約322haが指定されている。
緑地保全地区については、緑地の保全を図るため一定の開発行為について許可制を採るとともに、その規制により土地利用に著しい支障を来した場合、土地所有者からの土地の買取り申出により土地を買い入れることとなっており、近郊緑地特別保全地区を除いた緑地保全地区について54年度までに約20.6haを買い入れ、55年度において約5.6haを買い入れた。
また、都市緑化の推進を図るため、都市計画区域内の相当規模の一団の土地又は相当の区間にわたる道路、河川等に隣接する相当の区間にわたる土地の所有者等の全員の合意により緑化協定を締結することが、54年度末現在、50都市200区域で実施されている。
(5) 近郊緑地の指定
東京、大阪等の大都市近郊における緑地を保全し、もって良好な都市環境を確保するとともに、地域住民の健全な心身の保持増進と公害及び災害の防止に資するため、「首都圏近郊緑地保全法」及び「近畿圏の保全区域の整備に関する法律」に基づき、24区域約9万7,000haの近郊緑地保全区域が指定され、緑地保全に影響を及ぼす行為について届出の義務が課されている。更に、この区域のうち、特に保全を図るべき枢要な地区については、近郊緑地特別保全地区として既に13地区、約1,247haの指定が行われている。
近郊緑地特別保全地区については、一定の開発行為について許可制を採るとともに、その規制により土地利用に著しい支障を来した場合、土地所有者の申出により土地を買い入れることとなっており、54年度までに約86.0haを買い入れ、55年度においては約4.7haの土地を買い入れた。
(6) 風致地区の指定
都市の風致を維持するため、「都市計画法」に基づき、風致地区が定められている。これは自然的要素に富んだ土地について良好な自然的景観と建築行為等との調和を図る制度である。風致地区内における規制については、都道府県又は指定都市の条例により定められており、建築物の建築、宅地の造成等を都道府県知事又は指定都市の長の許可に係らしめる等の必要な規制を行い、都市の風致の維持を図っている。54年度末現在、風致地区は全国で214都市、約16万haが指定されている。
(7) 生産緑地区の指定
市街化区域内において環境機能及び多目的保留地機能の優れた農地等を計画的に保全し、もって良好な都市環境の形成に資するために、「生産緑地法」に基づき、市街化区域のうち土地区画整理事業の施行に係る区域及び開発行為が行われた土地等の区域を除く区域にある農地等で、次の要件に該当するものについて、都市計画で第1種生産緑地地区を定めている。?公害又は災害の防止等良好な生活環境の確保に相当の効用があり、かつ公共施設等の敷地の用に供する土地として適しているもの、?おおむね1ha(森林若しくは果樹、茶その他の永年性植物が栽培されている農地にあっては0.2ha)以上の規模の区域、?農林漁業の継続が可能な条件を備えているもの。また、市街化区域の土地区画整理事業の施行に係る区域、開発行為が行われた土地等の区域内にある農地等で、前記?及び?に該当し、かつ、おおむね0.2ha以上の規模の区域について第2種生産緑地地区を定めている。
生産緑地においては、建築物の新築等、宅地の造成、水面の埋立て等を市町村長の許可に係らしめる等の必要な規制を行っている。
54年度末現在第1種生産緑地地区については、21都市3特別区、約329ha、第2種生産緑地地区については、18都市6特別区、約19.3haを指定している。
(8) 都市緑化の普及啓もう
都市公園等の公的施設整備の推進とともに、地域住民等の協力を得て総合的は都市緑化を推進するため、都市緑化月間における広報活動等、都市緑化の普及啓もうに努めた。
また、都市住民の緑化意識の高揚、植栽知識の普及等を図るために都市緑化植物園(みどりの相談所)の整備を全国28か所で積極的に推進した。
(9) 財団法人都市緑化基金の発足
都市における緑豊かな生活環境を確保するためには、都市公園等の公的施設の整備を推進するとともに、市街地の約5割を占める民有地の緑化を積極的に推進することが不可欠である。
このため、都市緑化の意義と必要性を広く一般に普及啓もうするとともに、国民の積極的な参加と協力により民有地緑化の財源として基金を造成するために、56年4月1日財団法人都市緑化基金を設立した。