1 環境影響評価の推進
(1) 環境汚染の未然防止を図るための措置として環境影響評価を行うことの必要性は、今日、広く認識されているところであり、その制度的確立についての国民の関心も強いものとなっている。
(2) 我が国においては、昭和47年6月の閣議了解「各種公共事業に係る環境保全対策について」以降、国では港湾法、公有水面埋立法等の個別法又は行政指導等による環境影響評価を実施する一方、地方公共団体でも、条例や要網等による環境影響評価を実施してきている。
(3) 特に55年春においては54年4月に出された中央公害対策審議会の答申等を踏まえ、政府部内において、環境影響評価の確立のための環境影響評価法の制定へ向けての砂上が進展した。55年3月には環境影響評価法案に関する関係閣僚会議が設置され法律が対象とする事業の範囲、地方公共団体の関与のあり方等について政府部内での調整が行われ、同会議において環境影響評価法案原案が了承され、次いで、5月には、政府としての法案がとりまとめられた旨閣議に報告された。同法案は、自由民主党政務調査会環境部会の了承を経て、党政務調査会において、引き続き、審議が行われた。なお、同法案については5月20日の閣議において環境庁長官から「第91回通常国会に提出するには至らなかったが、可及的速やかに党政務調査会党の了承を得て同法案を閣議決定の上、国会に提出し得るよう引き続き一層の努力をいたしたいのでご了解をお願いしたい。」旨発言がなされた。
(4) 地方公共団体においては、既に54年度までに制定された条例(北海道及び川崎市)及び要網等(宮城県、栃木県、三重県、兵庫県、岡山県、山口県、福岡県、沖縄県、横浜市、名古屋市、神戸市及び尼崎市)のほか、55年度においては新たに東京と及び神奈川県が条例を制定し、高知県、長崎県、千葉県、埼玉県及び滋賀県が要網等を制定した。
また、56年1月に環境庁が全国57都道府県、政令指定都市を対象として実施したアンケート調査の結果によれば、環境影響評価の制度化について検討中の団体は38団体(既に要綱等を制定しており、その改正等を検討中の3団体を含む。)となっている。
(5) 環境影響評価の技術手法の面については、従来から、その開発と精度の向上が図れてきているが、特に40年度からの産業公害総合事前調査その他各種の調査の成果や47年6月の閣議了解等に基づく環境影響評価の実績の積重ね等による知見の集積がある。また、49年6月の中央公害外策審議会防止計画部会環境影響評価小委員会の「環境影響評価の運用上の指針について(中間報告)」、52年7月の「児島・坂出ル―ト本州四国連絡橋事業の実施に係わる環境影響評価基本指針」、「本州四国連絡橋(児島〜坂出ル―ト)に係わる環境影響評価技術指針」等により内容の整備がなされている。
そして、これらの知見等を踏まえて、53年7月には「建設省所管事業環境影響評価技術指針(案)」が建設省によって作成され、また54年1月には「整備五新幹線に関する環境影響評価指針」が環境庁と連絡調整の上運輸省によって作成され、また54年2月には環境庁において「環境影響評価に係る技術的事項について(案)」が取りまとめられ、更に54年6月には「発電所の立地に関する環境影響調査要網」が環境庁と協議の上通産省によって作成される等、技術手法についての整備、向上が図られている。
環境影響評価の技術手法については、事業の実施に伴う環境汚染を未然に防止するという観点から、定量的な判断のみならず、不確定性が大きいものについても可能な限り、定性的な判断を行うことが重要であり、その時点において得られている科学的知見に基づき、可能な限り、客観的な調査、予測及び評価を行うということを基本的考え方として、今後もその整備、向上を図ることとしている。
なお、関係省庁において、それぞれの所管に係る問題について「環境影響評価予測技術マニュアル」の作成、「計画段階における環境影響評価技法」に関する調査研究をはじめとして、環境影響評価についての技術手法の向上のための調査研究が推進されている。
(6) また、環境庁においては、各種公共事業等のうち、法令等により、事業計画の決定又は認可に際し環境庁に協議等がなされることとなっているものについて、環境保全上の観点から所要の意見を述べる等の措置を講じているが、これらについて55年度において関与した主なものは、次のとおりである。
? 特定地域開発計画については、大分地域鉱業開発計画に係る環境影響評価が行われ、環境保全上の意見を述べた。
? 港湾計画については、55年度は港湾審議会計画部会が3回開催され、横浜港、広島港、中城湾港等の港湾計画について審議が行われ、環境保全上の意見を述べた。
? 公有水面埋立計画については、公有水面埋立法の規定に基づく糸満市字潮平地先、和歌山下津港及び紀の川河口、志布志港内、苫小牧港内、三島川之江港内等の公有水面埋立ての免許の認可に当たって、主務大臣に対し意見を述べた。
? 電源開発基本計画については、55年度は電源開発調整審議会が4回開催され、富津火力発電所、蛇尾川水力発電所、森地熱発電所等の計画に対して、環境保全上の意見を述べた。
? 地域振興整備公団事業については、地域振興整備公団法に基づく吉備高原都市開発整備事業に係る事業実施基本計画の認可に当たって主務大臣から協議を受け所要の調整を行った。
(7) 環境汚染の未然防止を図るためには、以上述べた環境影響評価を推進するほか、国土利用の適正化を図る必要がある。すなわち、これまでのような既存の土地利用の下での汚染物質の排出規制等の対策に加え、今後は地域の自然的特性を踏まえて、環境保全に配慮して行く必要がある。
55年度においては、土地利用基本計画の見直しが行われ、同計画に即し、公害の防止、自然環境の保全等に配慮しつつ適正かつ合理的な土地利用が推進されるよう、所要の検討を行った。このほか都市計画法に基づく市街化区域に関する都市計画についても環境汚染の未然防止の観点から所要の調整が行われている。