2 自動車排出ガス対策
我が国の大気汚染は、経済の高度成長に伴う石油系燃料の消費量の増大等により、大きな社会問題となったが、特に、大都市及び幹線都路の周辺地域においては、30年代以降の急速なモータリゼーションの進展により、自動車排出ガスによる大気汚染が深刻な問題となった。
自動車の保有台数は、35年度末に約340万台であったものが、42年度に1千万台を超えた後、53年度末には約3,520万台に達し、10数年間で10倍以上の普及を遂げた。
中でも、乗用車の普及は著しく、35年度末に全保有車両の14%、約49万台にすぎなかったものが、46年度には全保有車両の半数以上に達し、53年度末には、全保有車両の61%、約2,141万台が乗用車で占められるに至った。
このような自動車の急速な普及と道路網の整備に伴い、全輸送機関に占める自動車の輸送分担率も飛躍的に高まり、貨物輸送(トンキロ)では、35年度の15%から53年度38%に、旅客輸送(人キロ)では、35年度の23%から53年度54%に達している。
自動車は、国民の日常生活、経済活動にとり不可欠な輸送機関に成長したが、反面で、大気汚染、騒音振動等の公害問題を惹起し、40年代半ばには、深刻な社会問題となるに至った。自動車排出ガスの規制は、この様な社会的背景の下に40年代初めに導入され、逐時規制の強化が図られてきたが、43年には大気汚染防止法が制定され、自動車排出ガス規制に関する法体系が整備された。
自動車の排出ガス規制は、大気汚染防止法に基づき、環境庁長官が自動車から排出される一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物及び粒子状物質(ディーゼル黒煙)について許容限度を定めるとともに、運輸大臣が道路運送車両法に基づく道路運送車両の保安基準によりこれを確保することとして行われている。また、関係省庁では、自動車排出ガスによる大気汚染の著しい地域について、長期的観点に立って自動車交通量を抑制し、又は減少させるとともに、自動車を取り巻く環境を整備するための対策の強化を図っている。
このほか、大気汚染防止法は、都道府県知事が自動車排出ガスによる大気汚染の著しい道路の周辺区域について、その環境濃度の測定を行い、濃度が一定の限度を超えた場合に都道府県公安委員会に対し交通規制の要請を行うとともに、必要に応じ道路管理者や関係行政機関に対し、道路構造の改善その他の自動車排出ガスの濃度の減少に資する事項について意見を述べることができる旨規定している。
(1) 自動車排出ガス規制の経緯
自動車の排出ガス規制は、41年の一酸化炭素に対する濃度規制に始まり、その後ブローバイガス、燃料蒸発ガス等の炭化水素に対する規制、ディーゼル黒煙に対する規制等が逐次実施された。48年度規制においては、ガソリン又はLPGを燃料とする自動車に対して、一酸化炭素規制のほか、排気管から排出される炭化水素、窒素酸化物の規制を加えた本格的な3物質規制が始められ、また、49年度には、ディーゼル車に対して同様の3物質規制が始められた。
その後、乗用車については、50年度規制によって一酸化炭素、炭化水素及び窒素酸化物の規制強化が行われ、一酸化炭素が未規制時に比べ90%以上削減されるとともに、窒素酸化物についても51年度規制を経て53年度規制により未規制時に比べ90%以上削減されることとなった。
ガソリン乗用車以外の車両(トラック、バス等)については、50年度には軽中量ガソリン車からの排出ガスの規制が強化され、52年度には重量ガソリン車及びディーゼル車から排出される窒素酸化物の規制が強化された。また、52年12月には中央公害対策審議会より答申がなされ、これを踏まえてトラック、バス等から排出される窒素酸化物に係る第1段階の規制が54年規制として実施された。更に、軽量・中量ガソリン車については、第2段階の規制を56年規制として実施することとし、54年8月に許容限度の改正の告示が行われた。残りの重量ガソリン車、ディーゼル車等についても、答申に基づく第2段階の規制をできるだけ早期に実施するため、引き続き技術評価が行われている(各物質ごとの規制については本章第3節155/sb2.2.3>及び参考資料14参照)。
このような段階的な排出ガス規制の強化の結果、一酸化炭素濃度は40年代中頃をピークに年々減少しており、また、炭化水素も45〜46年に測定が開始されて以来、減少ないし横ばいの傾向にある。しかし、窒素酸化物については、一酸化窒素の濃度は減少傾向にあるものの、二酸化窒素の濃度は未だ充分な改善傾向を示しておらず、一層の改善が必要な状況にある。
このため、重量ガソリン車、ディーゼル車等の第2段階目標値を50年代中のできるだけ早い時期に達成するとともに、大気汚染の著しい大都市地域や幹線道路の周辺においては、道路構造の改善、沿道整備事業、交通規制等も含め、総合的な対策を講ずる必要があると考えられる。
(2) 交通管理
警察庁においては、交通管制システム等により交通流の安定、円滑化を図るとともに、交通流の適正化及び自動車交通総量の削減等を図る都市総合交通規制を推進し、交通管制センターを設置し、信号機の広域制御を行うとともに、信号機の系統化等を図り、交通渋滞の緩和等による自動車排出ガス量の削減に効果を挙げている。
また、都市総合交通規制は、都市の適正な交通容量を超えた自動車交通総量を削減し、道路の機能に応じた交通の合理的配分を行い、交通公害をはじめとする交通上の障害の防止を図るものであり、49年度から人口10万人以上の都市を対象とし、その後52年度からは人口10万人未満の都市にも拡大実施してきたが、更に54年度からは従来の対象都市を含め、人口3万人以上の619都市を対象に生活ゾーンの設定を行い生活ゾーン規制を中心とした都市総合交通規制の拡充を図ったほか、人口3万人未満の小都市地域についても交通の実態に即した適切な交通規制を実施している。
(3) 道路構造の改善等
道路の面からの環境対策においては、機能的な道路網計画に基づき体系的な道路整備を進めることが基本的に必要であることから、建設省においては、この一環として、人家の連担した市街地を避けて郊外にバイパス又は環状道路を整備するとともに、都市の骨格となる各種街路を適切に整備することにより住宅地域における通過交通や重量車等の排除を図っている。また、幹線道路の新設等に当たっては公害を防止し、沿道における良好な生活環境を保全するため、必要に応じ環境施設帯を設置する等の措置を講じている。
一方、自動車交通需要の一部を転換させるため、地下鉄、バス等の大量公共輸送機関の整備に加えて都市モノレール等の新交通システムについても事業が進められているほか、流通業務市街地、トラックターミナルの整備を進めることにより物質流通の合理化及び自動車交通量の削減を図っている。