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むすび

−環境行政のより一層の進展を目指して−
 これまでの我が国の環境行政は、激化するに至った公害の防止、あるいは急速に失われつつあった自然環境の保護に全力を挙げてきたが、公害対策基本法制定以来10年余を経た今日、国、地方公共団体、国民の一体となった努力の結果、かつての危機的な状況の克服には、かなりの成果を挙げることができた。
 今日、このような経験と環境の現状を踏まえつつ、将来のよりよき環境を求めて、長期的展望の下に総合的な環境政策の展開を図る必要がある。
 まず、今後とも環境行政の基本となることは、公害の防除であり、また公害による被害の未然防止にある。
 今日、産業活動に起因する環境汚染はかなりの改善をみせ、防除の目途もたってきつつある。一方、生活排水、一般廃棄物、交通騒音、近隣騒音など国民の日常生活に起因する環境汚染要因にも高い関心が払われるようになってきた。
 これらの問題は、下水道や廃棄物処理施設等の社会資本の整備により先ず解決が図られるべきものである。しかし、こうした環境保全のための公共施設もその周辺住民にとっては必ずしも望ましい環境づくりに資する施設とは思われていない。また、近隣騒音などは国民各自が場合によっては加害者になりうるし、被害者にもなりうる性格のものである。したがって、これらの問題は、個人の日常生活における利益の追求と社会全体の公共的な利益の調整を必要とする問題でもある。今後、こうした問題を解決するためには単に加害者に対する規制にとどまらず、家庭同士ないし家庭と行政の役割分担等を含めた方策を検討する必要がある。
 また、現在の公害の防除にとどまらず、環境汚染の未然防止を一層推進する必要がある。そのためには、まず国土の利用に当たっては、地域の自然的特性を踏まえて、環境の保全に配慮していく必要がある。更に、開発行為等の具体化に当たっては、住民の意向を反映するとともに、必要に応じ適切な環境影響評価を効果的に実施することとし、環境影響評価の技術手法の一層の開発・向上を図るとともに効果的な環境影響評価を実施するための制度等の体制の整備を図る必要がある。
 なお、公害による健康被害者に対しては今後とも迅速かつ公正な保護を図る必要があることはいうまでもない。
 自然環境については、まず国民一人ひとりが自然は生命をはぐくむ母胎であり、限りない恩恵を与えるものであるという認識に立って保護・保全の精神を身につけることがなによりも肝要である。さらに、一度破壊された自然は容易に元に戻らないという自然環境の特質を理解し、先取り的なより積極的な姿勢をとる必要がある。
 また、自然環境保全施策の展開に当たっては、国民の理解と協力のもとに、地方公共団体と連携を図りつつ、強力に展開しなければならない。そのためには、土地のもつ公共的性格を配慮して開発行為に対する規制を行うと同時に国土保全その他の公益との調整に留意するとともに、保全のための負担の公平化、地域住民の生業の安定及び福祉の向上等のために必要な施策を総合的見地から講じていく必要がある。
 ところで、今日所得水準の向上、余暇の増大等に伴い人々の生活に関する価値観は、物質的な豊かさだけではなく、更に精神的なものをも含めた生活の豊かさ、快適さを求めるように変化してきた。すなわち、日常生活において人々の心にうるおいを与えるような快適な環境の積極的な確保・創造が求められるようになってきた。
 もとより人々にとって何が快適な環境であるのか、また、どの程度の費用、代償を払ってどのような快適な環境を創造していくのか、その判断は国民一人ひとりの価値観とその合意に委ねるべきものである。しかし、少なくともこれまであまり重視されてこなかった水辺環境の保全とか歴史的環境の保全などの動きが各地で起こっており、今後このような国民の意識や動きを積極的に育てていく必要があろう。
 都会にも田園にもそれぞれの地域の特性に適した快適な環境を現在及び将来の国民のために創造することは、我々の共通の願望であり、かつ責務であるが、今後とも国民の英知と努力を環境保全のための科学的知見の蓄積や快適な環境づくりに傾注すれば、それは達成可能なことである。

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