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第3節 

2 自然公園における自然保護

(1) 自然公園内における行為規制
 自然公園の優れた風致景観を保護するため、自然公園内に特別地域、特別保護地区及び海中公園地区(都道府県立自然公園の場合は特別地域のみ)を指定し(第7-3-1表参照)当該地域地区内における風致景観を損なうおそれのある一定の行為は、環境庁長官又は都道府県知事の許可を受けなければならないこととされている。また、普通地域においても一定の改変行為を都道府県知事に届け出させ、必要な規制を加えることができることとされている。
 国立公園及び国定公園の特別保護地区、特別地域及び海中公園地区内における各種行為については「国立公園内(普通地区を除く。)における各種行為に関する審査指針」の適用により、保護の適正化と事務処理の円滑化に努めている。
 国立公園内の特別地域及び特別保護地区における工作物の新・改・増築、鉱物の掘採、土石の採取等の行為の環境庁長官に対する許可申請件数は第7-3-2表のとおりである。
 また、自然公園内における行為として従来から問題となっていたものについては次のとおりである。
 まず、いわゆる「南アルプス・スーパー林道」北沢峠部分の開設問題については、自然環境保全審議会自然公園部会において審議され、53年4月、これに関する意見が提出された。環境庁は、この意見をもとに、自然環境への影響等につき慎重に検討するとともに、開設後における自動車利用の規制、危険防止施設等の必要な措置、周辺地域における自然保護の強化等について、関係方面と調整を図ったところ、十分な理解と強力が得られたため、53年8月、森林開発公団に対し、道路幅員の縮小、一部路線の変更、土砂崩壊の防止等の留意事項を付して開設を認めた。
 次に、本州四国連絡橋児島・坂出ルートの建設問題については、自然環境保全審議会自然公園部会本四連絡橋問題小委員会において審議され、53年6月、本ルートの建設はやむを得ない旨の見解が示されるとともに、連絡橋建設に伴う周辺の自然環境への影響の防止等について所要の措置を講ずることの必要性が指摘された。
 環境庁は、この意見をもとに運輸省、建設省等の関係者と協議した結果、児島・坂出ルート周辺の自然環境の保全を図るため講じられる具体的な対策について意見の一致をみたことから、53年9月、本州四国連絡橋公団に対し、自然環境の保全について諸条件を付し建設に同意した。この意見の一致をみた具体的な対策の概要は次のとおりである。
? 事業用地等の修景緑化
 本州四国連絡橋公団は、児島・坂出ルートのうち、島しょ部の事業用地内において、環境保全上必要な修景緑化を行うものとする。
? 鷲羽山地区等の道路整備
 鷲羽山地区等の自然公園の適正な利用を図るため、道路事業として実施できる範囲において、道路、駐車場等の道路整備を行うものとする。
? 自然環境保全基金の設置
 児島・坂出ルートに係る自然環境保全対策を実施するために「本州四国連絡橋(児島・坂出ルート)自然環境保全基金(仮称)」を設置するものとする。
? 連絡協議会の設置
 児島・坂出ルートに係る自然環境保全問題について、その対策等を協議するため、関係者で構成する連絡協議会を設置する。
 第三に、自然公園等における土石採取問題については、自然公園及びその周辺地域の自然環境の保全、治山治水効果の維持増進の一層の強化を図るため、これら地域での砂利採取、採石等の規制、管理等のあり方について関係省庁からなる連絡協議会を開催した。


(2) 管理体制の強化
 国立公園内における風致景観を保護管理するとともに、公園事業者に対する指導、公園利用者に対する自然解説等広範な業務を行うため、阿寒、十和田八幡平、日光等、10公園の主要な地区に国立公園管理事務所を置き、その他の公園の各地区についても単独で駐在する国立公園管理員を配置している。53年度末現在の国立公園管理員定数は96人である。
(3) 国立・国定公園内指定植物の改定調査
 国立公園及び国定公園の特別地域内に生育する植物については、風致景観の重要な構成要素であることから、環境庁長官の指定する植物は許可を受けなければ採取できないこととされているが、全国一律指定であったこと、また、亜熱帯性、暖帯性の特徴的な植物が指定の対象からもれている等必ずしも各国立・国定公園の実情に合った指定がなされていないことから指定植物の改定を行う必要が生じ、52年度より2か年計画で改定のための調査を行った。
 なお、54年度においては、この調査結果に基づき、各国立・国定公園別に実態に合わせた指定植物とするよう改定を行うこととしている。
(4) 自然公園におけるごみ処理体制
 近年、自然公園は利用シーズンには過剰利用の状況を呈しており、主要利用地域においては、空きかん等による汚れが目立ってきている。
 これらのごみは、地理的特性からその収集と終末処理が極めて困難であり、単に美観の損傷のみならず悪臭などの汚染を引き起こすことがある。
 国立公園内の総理府所管の集団施設地区とその周辺の美化については、従来から国立公園集団施設地区等美化清掃事業を関係都道府県の協力の下に実施してきた。
 また、それら以外の地域においても日常生活圏の地域から遠隔地にあること及び数市町村にまたがる場合が多いこと等により、その清掃活動に円滑さを欠いている。そこで、特に利用者の多い国立公園内の主要な地域の美化清掃を積極的に推進するため、民間を主とした現地の美化清掃団体の組織の強化を図るとともに、それらの団体が行う清掃活動について補助をを行っている。
 53年度においては、総理府所管の集団施設地区の清掃及び新たに富士山地区の清掃を直轄事業で行い、それ以外の重要な地区については清掃活動費補助金を交付して国立公園内の清掃活動の一層の充実を図った。
 また、富士山地区のごみ処理及び過剰利用問題について環境庁、静岡県、山梨県の三者で「富士山自然環境保全対策会議」を設立し、これらの抜本的対策の検討を開始した。
 更に、北アルプス等の冬山登山のごみ問題についても、山岳団体等へごみを持ち帰るよう、指導を行った。
(5) 自然公園内における自動車利用の適正化対策
 近年、自然公園内の優れた自然環境を有する地域への自動車の乗り入れが増大したことにより、自然公園の保護と利用の両面にわたり種々の支障が生じてきている。
 例えば、自然保護の面では、道路の拡幅、駐車場の拡張等による地形、植生の改変、道路外への違法な乗り入れによる植生の破壊、排ガス汚染等による植生の衰弱、夜間の通行による動物の殺傷、生息環境の悪化等の種々の問題が生じている。
 また、自然公園の利用の面では、多くの車の進入により静穏な環境や安全な利用が損なわれたり、交通渋滞により計画的、効果的な公園利用に支障を来す等の種々の問題が生じ、その対策が各方面から要請されている。
 このため、環境庁では、国立公園内における自動車利用の適正化対策を講ずることとし、十和田八幡平国立公園奥入瀬地区、日光国立公園尾瀬地区、中部山岳国立公園の上高地地区、立山地区及び乗鞍地区並びに富士箱根伊豆国立公園の富士山地区をモデル地区として選定し、警察等関係機関の協力の下にマイカーのこれらの地区への乗り入れの適正化を図ってきたが、53年度においてもこれらの地区について前年度に引き続き適正化対策を推進した。
 各地域における自動車利用の適正化対策は、関係機関の協力を得ながら国立公園管理事務所、地元関係機関及び関係団体で組織されている対策協議会で各地区の特性に応じた適正化方針が協議され、「道路交通法」に基づく交通規則や代替バス輸送などの対策が関係各機関により講じられている。
 各地区における適正化対策の概要は次のとおりである。
 十和田八幡平国立公園奥入瀬地区においては、国道102号線の夏期及び紅葉期の車利用に対処するため、渋滞箇所において交通整理及び駐車禁止を行ったほか、植生保護及び歩道利用者の安全、快適な利用確保のため、林内及び歩道への車両進入防止施設を設置した。
 日光国立公園尾瀬地区においては、群馬県三平峠口の大清水ですべての車両をストップし、大清水以奥は徒歩利用とした。また、富士見峠口、鳩待峠口もそれぞれ対策を実施した。一方、福島県側のルートでは、特に車利用の著しいいわゆる「ミズバショウシーズン」に、沼山峠駐車場が満車になる時点で御池で規制を開始し、代替輸送バスを運行させた。
 富士箱根伊豆国立公園富士山地区においては、スバルライン終点、五合目駐車場の利用状況に応じ、入口ゲートで乗り入れる台数を規制し、また車止め等の施設を設けることにより、駐車場以外の地域への車両の乗り入れを禁止した。
 中部山岳国立公園上高地地区においては、50年度から、7、8月の最盛期の1か月間、更に、52年度からは秋のシーズン時のうち、特に混雑の著しい10月の半月間、中の湯から上高地へのバス、タクシー等を除く車両の乗り入れを禁止するとともに、夜間はすべて車両の乗り入れを禁止するという措置を講じた。
 また、乗鞍地区においては、乗鞍スカイラインの鶴ヶ池、畳平を中心に夜8時から翌朝3時30分まで通行禁止したほか、終点部の公共駐車場以外における駐車禁止、園路への乗り入れ禁止などを実施した。
 立山地区においては、山ろく桂台から上部の美女平、室堂方面へは、定期バス及び観光バスに限り乗り入れを認めた。
 以上の対策は5年目を迎え、次第に自動車利用適正化対策の趣旨の浸透及び事前の広報の効果が現れ、マイカー利用者数が減少し、踏圧、盗採などによる自然植生の破壊の減少、野生鳥獣の生息環境の破壊の排除、宿泊地周辺の静穏の維持、歩行者の安全確保、快適な利用の維持など直接的な効果が見られた。
(6) 特殊植物等の保全事業
 国立公園等内に生育している貴重な植物等でその保護を生育環境の保全と一体として行う必要のあるものの保護増殖対策等を総合的に実施するため、尾瀬湿原(日光国立公園)、大瀬崎ビャクシン樹林(富士箱根伊豆国立公園)、白馬連山高山植物帯(中部山岳国立公園)等について植生復元、環境等調査、病中害防除に要する経費を関係県市町村に対し補助した。
(7) オニヒトデ駆除事業
 国立公園、国定公園の海中公園のサンゴ礁景観を保護するため、オニヒトデが異常発生している吉野熊野国立公園、足摺宇和海国立公園、西表国立公園、奄美群島国定公園等の海中公園地区についてオニヒトデの駆除に要する経費を関係県に対し補助した。

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