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第5節 

1 廃棄物処理の現況

 近年における生活水準の向上、産業活動の発展は廃棄物の質の多様化と量の増大という結果をもたらしている。廃棄物はし尿、ごみ等人の日常生活に伴って生ずる「一般廃棄物」と事業活動に伴って生ずる「産業廃棄物」とに大別されるが、それらの現況は次のとおりである。
(1) 一般廃棄物
 一般廃棄物は、住民の生活系から排出されるごみ、粗大ごみ、し尿及びし尿浄化そう汚でいの4種がその代表的なものであるが、これらの処理は原則として市町村が一般廃棄物処理事業として行っている。
 し尿の衛生的処理は、水洗便所から排出されたものを下水道終末処理施設又はし尿浄化そうで処理する方法と汲み取ったし尿をし尿処理施設又は下水道終末処理施設に運搬して処理する方法があるが、この衛生的処理の人口は、45年度末においても6,740万人で、計画処理区域人口に対する比率は79%であり、これを50年度末においては100%にすることを目標として施設整備が進められている。
 水洗化人口は年々増加しているが、欧米と比較して我が国の下水道の普及は立ち遅れているため、し尿浄化そうによる水洗化の伸びがかなりの部分を占めている。とりわけ家庭向きの小規模なし尿浄化そうが増加している。水洗便所に係るし尿は公共下水道(流域下水道も含む。)又は大規模なし尿浄化そう(し尿と雑排水とを合併処理するもの)に導いて処理することが水質保全上極めて有効であるが、小規模なし尿浄化そうの増加に対応してその維持管理についての設置者及び使用者への啓もうと、し尿浄化そう清掃業者等の活用による維持管理体制の強化とが必要になってきている。
 ごみ処理の状況についていえば、ごみの総排出量は1人1日当たり排出量と処理対象人口の相乗積であるが、40年度以降の1人1日当たり排出量の年平均伸び率は約6%となっており、また処理対象人口も年々拡大しているので結局ごみの総排出量の伸びは年平均約11%となっている。また、50年度を推定すると、1人1日当たり排出量は約1,200グラムで、総排出量は日量12万5,300トンになる見込みである。
 ごみの質についてみると、粗大ごみの増大とプラスチック混入率の上昇が問題である。粗大ごみは耐久消費財を中心とした大型の廃棄物であるが、これらは買替え時期の到来、モデルチェンジによるライフサイクル短命化、狭小な住宅事情等も加わって廃棄が促進され、定期収集を行う都市が増えている。しかも、粗大ごみは不燃性のもののみならず可燃性のものであっても直接に焼却することは困難であり、焼却、埋立処分又は有価物回収の前処理のために破砕施設及び圧縮施設の整備が緊急の課題となっている。
 PCB使用部品を含む家電製品の処理については、環境汚染防止に万全を期するため、市町村、家電メー ーとの協力体制のもとにPCB部品の取外しの体制の整備が進められている。
 一方、プラスチック系廃棄物は市町村で処理しているごみのうちに5〜10%の割合で混入しており、このうち6〜8割が家庭から排出されるものと推定されている。
 市町村の保有する約1,500か所のごみ焼却施設の性能からみて、プラスチック系廃棄物の混入率は約10%が限界といわれているので多角的な対策が必要とされるが、その方策としてプラスチック容器の事業者による回収や排出者の協力による分別収集のほか、炉の耐久性の増強、排ガス及び排水の処理施設の設置等の処理施設の高度化が要請されてきている。
 また、一般廃棄物の増量、高層建築物の増加、交通の混雑等による問題に対処するため、ごみのパイプ輸送、中継基地の設置による積換えと大量輸送化が検討されなければならない。
 更に、ごみ焼却施設用地、最終処分地の確保も極めて重大で、このための一方策として、これら周辺地域の整備を図っていくこと、例えば施設周辺をグリーンで囲い公園化するほか、ごみ焼却により発生した余熱利用による温水プール、サウナヒーターの設置とその公開等を行うことが重要となってきている。
(2) 産業廃棄物
 産業廃棄物は、事業活動に伴って生ずる燃えがら、汚でい、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類等の廃棄物であるが、その排出量の調査は47年度末現在で44都道府県において終了し、3県において調査中又は調査準備中である。調査の結果は参考資料8に示すとおりである。
 産業廃棄物の処理は原則として排出事業者が行うべきこととされているが、産業廃棄物処理に関する実態調査を終了した都道府県の報告書によれば、事業者自らによる産業廃棄物の処理は必ずしも適正に行われているとは認められず、廃棄物の保管不備、不適正な処理又は無許可の業者による不法投棄等により生活環境の保全に影響を与える事例が頻発している状況である。
 特に中小企業においてはその資金的、技術的能力からみて自己責任を直ちに完遂することが困難な状況となっている。
 企業の自家処理を代行する産業廃棄物処理業者の進出状況については、48年8月末現在で2,281の業者が許可されており、そのうち1,709の業者が収集運搬部門に集中している。
 一方、地方公共団体の行う産業廃棄物の処理事業はあくまで事業者の行う事業の補完的なものであるが、大阪府、愛知県、長野県、高知県が処理公社を、また、長崎県が株式会社を設立して事業を行い又は事業を開始しようとしている。
 国においては、当面都市の公共活動によって生ずる廃棄物、例えばし尿処理施設、上下水道の処理施設等から発生する汚でいの処理施設の整備に対して国庫補助を行うほか、産業廃棄物処理施設に係る租税の減免措置、特別償却等の諸制度を設けている。
 なお、産業廃棄物を適正かつ効率的に処理するための新たな制度、技術面のシステムの開発、また、これに基づく処理体制の整備に関して広く各界の意見を求め、所要の施策を講じる必要があるので、厚生大臣の私的諮問機関として産業廃棄物処理問題懇談会を設置するとともにプロジェクトチーム的な組織として厚生省環境衛生局に「産業廃棄物対策室」を設け、種々の観点から検討を行っている。また、通商産業省においては、産業廃棄物処理対策の円滑な推進を図るため、産業廃棄物の収集、運搬、資源化、処理に関する基本計画の策定を、コンビナート別に行うとともに産業廃棄物処理技術指導書を作成した。

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