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第1節 環境保全施策の重点

 わが国においては、大気汚染、水質汚濁等の公害の発生と自然環境の破壊が急速に激化し、国民の健康と生活環境が脅かされるという深刻な事態が発生している。
 今日、国民は、経済成長の成果を享受しながらも、今まで営々と追い求めてきたものが何であったかに強い疑いをもちはじめ、金銭で購うことのできないきれいな空気と水、生き生きとした緑を求めており、国民の環境に対する価値観は大きく変ってきている。
 従来の環境行政は、公害が発生し、自然の破壊が深刻になってからようやく対策を講ずるという、いわゆる後追い行政であったことは否定できない。
 しかし、ひとたび破壊によって失われた環境をふたたび回復することは極めて困難なことであり、われわれの共通の資産である美しい国土、豊かな自然を破壊の手から未然に防止し、これを次の世代に伝えるのは、われわれの重要な責務である。
 このような基本的姿勢のもとに、昭和48年度においては、次の事項を施策の重点として、その積極的な推進を図っていくこととしている。
 なお、内容の詳細については、それぞれ以下の各章で述べることとしている。
(1) 環境保全総合施策の展開
 環境資源の稀少化に対応して、環境の適正な保持、管理という視点から、公害防止計画の策定および実施を推進するとともに、地域開発、大規模公共事業に係る環境アセスメントの手法開発を図る。広域的な環境汚染がますます深刻化し、社会的に重大な問題となっていることにかんがみ、広域汚染についての総合調査をさらに進める。環境問題を科学的、計画的に把握するために、汚染原単位、汚染による社会的費用等基礎的データの整備、環境問題の計量モデル化等基礎的分析研究の推進を図る。
(2) 自然環境保全対策の強化
 自然環境を全国的な立場から保護するため、全国的な自然の現状の把握を行なう。また自然環境保全の基本方針の策定、自然環境保全地域の指定等を進めるとともに、とくに保護すべき民有地や史跡等の買上事業、自然公園、都市公園等の公園事業、鳥獣保護対策事業、観光レクリエーション地区の整備事業等の自然環境保全対策の強化拡充を図る。
(3) 規制および監視体制の強化拡充
 公害被害の深刻化に対処して、現行規制の強化、未規制物質の規制の実施および総量規制方式の導入の検討を行なうとともに、公害監視測定機器の整備、分析測定方法の統一化、地方公共団体職員等の研修の充実等により、監視取締体制を強化する。
(4) 公害被害者保護対策の充実
 公害に係る健康被害者の救済の緊急性にかんがみ、現行被害者救済制度を強化拡充するとともに、公害に係る損害賠償保障制度の実施に備えて、各種の調査を実施する。
(5) 公害関係公共事業の推進
 生活環境整備のための社会資本の一層の充実を図るため、現行第3次下水道整備5カ年計画を大幅に繰り上げて実施することにより、都市汚水による水質汚濁に対処するとともに、都市の人口集中と生活の多様化に伴う都市廃棄物および工業の発展に伴う産業廃棄物の増大に対処するため、昭和47年度を初年度とする廃棄物処理施設整備4カ年計画の円滑な達成を期する。
 また、公害防止計画策定地域を中心として、緩衝緑地造成、河川港湾のしゅんせつ事業等各種公害防止対策事業の整備拡充を図る。
(6) 公害防止事業助成の充実
 公害規制の実効を確保するには、民間企業の公害防止施設の設置を促進することが必要であり、かつ急務である。とくに資金力の乏しい中小企業に重点をおいて、公害防止事業団等の貸付規模を大幅に拡充する。
 また、農畜水産業等に対しては、各種補助金を大幅に拡充する。
(7) 環境保全に関する調査研究の推進
 環境保全施策を効果的に進めるため、自然環境の保全に関する調査研究、汚染メカニズム、汚染物質の人体および動植物への影響の解明、治療方法の確立に関する研究、無公害技術を中心とした公害防止技術の開発等広範な分野にわたり調査研究の強化拡充を図ることとし、とくに各省庁試験研究の一括計上に当たっては、総合研究プロジエクトを構成し、各省庁の有機的連携のもとに重点的推進を図る。
 さらに、国立公害研究所を設立し、その研究体制の抜本的整備を図る。
(8) その他
 以上のほかに、PCB、光化学スモッグ等の新公害対策、航空機騒音防止対策、地盤沈下対策、休廃止鉱山鉱害防止対策等も積極的に推進することとしている。

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