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第2節 

2 悪臭防止法案の概要

(1) 目的
 本法案の目的は、工場その他事業場(以下、事業場という。)における事業活動に伴って発生する悪臭物質の排出(漏出を含む。以下同じ。)を規制することにより、生活環境を保全し、国民の健康の保護に資することである。
 なお、本法案では、悪臭そのものの定義は直接には置いていないが、「悪臭とは、生活環境をそこなうおそれのある不快なにおいをいう」ものと考えている。
(2) 規制地域
 本法案においては、都道府県知事が事業場における事業活動に伴って発生する悪臭物質の排出を規制する地域を指定する方式をとっている。
 規制地域として指定する地域は、都道府県知事が「住民の生活環境を保全するため悪臭を防止する必要があると認める住居が集合している地域その他の地域」である。規制地域の指定にあたっては、その地域を管轄する市町村長等の意見をきかなければならないものとしている。
(3) 規制基準
 悪臭のある気体は、一般に、多種類の悪臭を有する物質によって構成されているが、この法案では、通常、悪臭の発生源として問題になっているクラフトパルプ工場、化製場等の事業場から排出される悪臭の代表的な構成成分であるメチルメルカプタン、アンモニアなどを悪臭物質として政令で指定するとともに、規制基準は、悪臭物質の種類ごとに悪臭物質の感覚に対する刺激の強度とそのときの悪臭物質の大気中の濃度との関係を基礎として国が定めた基準の範囲内で、都道府県知事が定めることとしている。これは、ガスクロマトグラフなどの機器を用いて測定分析のできる悪臭物質の濃度により悪臭全体の強さを評価しようという考えに基づくものである。国が定める基準の範囲は、おおむね臭強度?から?に対応する悪臭物質の濃度の範囲を考えている(第3-9-1表参照)。
 本法案では、悪臭物質が、?特定の煙突等がなく、事業場の建物全体から漏出しているような場合 ?煙突その他の気体排出施設から排出される場合 ?排水口等から敷地外に排出される汚水に含まれてくる場合、の3種の悪臭物質の排出形態の区分に応じ、それぞれ規制基準を定めることとしている。さらに、規制地域については画一的な規制基準を設定するのではなく、地形、気象、土地利用状況等を総合的に考慮して地域の実態、実情にあったきめの細かい規制基準を定めようという趣旨から、都道府県知事は、規制基準の設定にあたってはあらかじめ市町村長の意見をきかなければならず、また、規制地域の自然的、社会的条件を考慮し、必要に応じて当該地域を区分して、規制基準を定めることとしている。


(4) 改善勧告および改善命令
 規制地域内に事業場を設置している者は、当該規制地域についての規制基準を遵守しなければならない。鉱山、都市ガス製造工場、発電所、畜産業、石油化学工場、ごみ処理場等、どのような種類の事業場であってもその規模を問わず、規制地域内に立地しているすべての事業場が規制の対象となる。
 都道府県知事は、規制地域内の事業場における事業活動に伴って発生する悪臭物質の排出が規制基準に適合しないことによりその事業場の周辺地域における住民の生活環境がそこなわれていると認めるときは、その事業場の設置者に対し、悪臭物質を発生させている施設の運用の改善、悪臭物質の排出防止設備の改良その他悪臭物質の排出を減少させるための措置をとるべきことを勧告することができ、また、その勧告を受けた者がこれに従わないときは、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
 また、都道府県知事が小規模の事業者に対して改善命令を出すときは、その事業者の事業活動に及ぼす影響についても配慮しなければならないものとしている。
(5) 都道府県知事に対する要請
 市町村長は、当該市町村の住民の生活環境を保全するため必要があると認めるときは、関係都道府県知事に対し、規制地域の指定、規制基準の設定または強化、悪臭物質を排出する事業場に対する改善勧告および改善命令の発動を要請することができる。
(6) その他の規定
 以上のほか、事故時の措置、悪臭の測定義務、河川等の水路等における悪臭の防止の責務、悪臭が生ずる物の野外における焼却の禁止、関係行政機関等の協力、国の援助、研究の推進等、検査および報告、罰則等について所要の規定が置かれている。
(7) 市町村長への委任
 この法案により都道府県知事の権限に属するものとされた事務のうち、規制地域の指定および規制基準の設定以外の事務、たとえば改善勧告および改善命令等の実施の権限は、政令で市町村長に委任することを予定している。
(8) 条例との関係
 この法案に直接規定されていない事項については、市町村または都道府県は当然に、条例で、悪臭の原因となる物質に関し必要な規制を定めることができる。たとえば、規制地域内の事業場については政令で指定された悪臭物質以外の悪臭の原因となる物質の排出に関し、規制地域外の事業場については悪臭物質およびそれ以外の悪臭の原因となる物質の排出に関し、また、事前計画段階での指導を行ないうるようにするため悪臭物質等の大口発生源の設置等について事前の届出制・認可制等をとることなどに関し、必要な規定を定めることなどが考えられる。

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