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第4節 

4 海水浴場の水質保全対策

 近年、わが国の海水浴場水質汚濁の現状をみると、河川等から流入する汚水等による汚濁化が進むとともに、全国的に広がる傾向にある。厚生省としても、昭和31年来、保健衛生上大腸菌群MPNについて50,000以上の海水浴場では遊泳させないよう指導してきたところであるが、とくに、近時、大都市近郊の海水浴場においては、水質の汚濁が著しく、健全なレクリエーションの場としての機能を急速に失ないつつある。この結果、都市生活者は年を追って遠隔の地に海水浴場を求めて出かけざるを得なくなっているのが現状である。これらにより、必要な地に適当な海水浴場を保全し、育成することが必要である。このため、海水浴場の水質汚濁に係る環境基準を定めるべく努力がなされると同時に、その対策を早急に実施する必要に迫られていた。
 このような情勢にあって、45年4月14日に厚生省の生活環境審議会の公害部会、水質に係る環境基準専門委員会から「海水浴場の水質環境基準案」に関する中間報告がとりまとめられた。この報告の内容は、次のとおりである。
? 透視度は、30以上であること。
? アルカリ性過マンガン酸カリウムによる化学的酸素要求量(COD)は2mg/l以下であること。
? 海水浴場水域において、油膜を認めないこと。
? 大腸菌群は、試料100ml当たりの最確数(MPN)が1,000以下であること。
 ただし、人口密集地帯が背後流域に存する海水浴場を環境基準に到着させるためには下水道の完備をまつほか、流域住民の格段の協力を必要とするものであり、ただちに究極目標基準のみを設定することは、かならずしも現実に即していないところもあると考えられるので、このような場合に限り大腸菌群についてのみ中間時点における改善目標値を定めるものとし、その数値は最確数10,000以下とすること。
 水質汚濁に係る環境基準は、45年4月1日に閣議決定され、引き続き5月29日に一部改正(項目追加)が行なわれたが、その際、上記の報告の内容を基礎資料とし、生活環境の一環として海水浴場の水質についても定めている。
 その環境基準値は、次のとおりである。
 水素イオン濃度(pH) 7.8以上8.3以下
 化学的酸素要求量(COD) 2ppm以下
 溶存酸素量(DO) 7.5ppm以下
 大腸菌群数 1,000MPN/100ml以下
 続いて、45年6月23日に、「海水浴場水質保全対策要綱」が閣議決定された。
 この対策要綱の概要は、次のとおりである。
(1) 水質保全の目標の設定
 主要海水浴場について、水域類型へのあてはめをすみやかに行ない、各海水浴場の水質保全の目標を明らかにすることとする。
(2) 目標達成のための対策の実施
 海水浴場の水質の主要汚濁源であるし尿排水、家庭雑排水、油性汚水、工場排水等を対象として、次の対策を重点的に実施することとする。
ア 排出等の規制の実施
(ア) 水質保全法に基づき所要の水質基準を設定し、同法の関係法令による排水水質規制を実施する。
(イ) 清掃法、海水油濁防止法等によるし尿、油等の海上投棄の規制、監視を強化する。
イ 下水道、し尿処理施設等の整備
 下水道、し尿処理施設等の水質汚濁防止施設の整備を促進する。
(3) 応急的な対策の実施
 海水浴場の水質保全の目標達成のためには、(2)に定める対策を計画的かつ総合的に実施する必要があるが、その達成には相当の期間を要するものと考えられる。しかし、海水浴場の著しい水質汚濁は、遊泳者の健康に悪影響を与えるおそれがあるので、海水浴期間中主要海水浴場を対象として、国および関係地方公共団体が協力のうえ、塩素による大腸菌の滅菌、油等の流入防止等の応急的対策を実施し、公衆衛生の向上等に資することとする。
 この要綱に基づく応急措置を実施した結果、45年の主要な海水浴場の海水浴期間中の水質汚濁状況は、前年の状況に比較して大腸菌群数は激減することになったが、COD(化学的酸素要求量)等は、さらに十分な対策の実施が必要とされることを示していた。

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