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第2節 

1 現況

 公害の状況を示すものとしては、大気汚染におけるいおう酸化物濃度、ふんじん量、水質汚濁におけるアルキル水銀、クロム、カドミウム等の重金属量、生物化学的酸素要求量(BOD)、浮遊物質量(SS)等科学的、客観的な指標があり、今後これらの指標を整備することにより、汚染の状況を科学的には握し、これを基礎として的確な対策の実施に努めなければならないが、国民の生活環境の状態を単的には握するには、地域住民がその生活環境についてどのように感じているかを知ることも重要である。したがって地域住民の地方公共団体に対する苦情・陳情の状況は、公害の被害あるいは生活環境の状況を示す1つの重要な指標として大きな意味を持っている。


 昭和44年度における地方公共団体の公害に係る苦情・陳情の受理件数は、総計4万854件であり、昨年度の2万8,970件に比べて1万1,884件の増加をみせている。このような大幅な苦情・陳情の増加は、この1年間の公害問題の高まりのなかで、住民の公害に関する意識が急速に向上したことを反映したものといえる。
 苦情・陳情の増加件数1万1,884件の内容別内訳をみると、件数で増加をみせたのは、騒音・振動5,676件、悪臭2,361件、大気汚染1,715件、水質汚濁883件、逆に減少したものは、地盤沈下28件である。
 対前年度増減率は、騒音・振動1.47倍、悪臭1.42倍、大気汚染1.29倍、水質汚濁1.23倍で、地盤沈下は逆に0.32倍と1/3に減じている。
 苦情・陳情の受理件数は、?騒音・振動?悪臭?大気汚染?水質汚濁?産業廃棄物?地盤沈下の順になっているが、昨年に比較して、悪臭に対する苦情・陳情が大幅に増加し、大気汚染の苦情・陳情件数を上回り、騒音振動に次いで地域住民からの苦情・陳情が最多の公害となったことは、身近かな生活侵害についての住民の関心の高まりを示すものといえる。
 地域住民の苦情・陳情の対象となっている公害の発生源は、大気汚染については、6,335件のうち、5,181件(81.8%)が製造業であり、このうち鉄鋼・金属製品製造業1,083件(17.1%)、木製品製造業554件(8.7%)、石油・石炭・化学製品製造業494件(7.8%)がおもな苦情対象業種となっている。水質汚濁では、4,060件のうち製造業に係るもの1,975件(48.6%)、農林漁業に係るもの1,249件(48.6%)となっており、農林漁業に対する水質汚濁の苦情が意外に大きい比重を占めている。農林漁業による水質汚濁のうちそのほとんどは、養鶏養豚業によるものであり、1,249件のうち、1,072件(85.8%)がこの業種に対する苦情・陳情である。
 次に騒音・振動についてみると、1万4,947件のうち9,604件(64.3%)が製造業に係るもの、406件(2.7%)が都市生活に係るものとなっている。しかし、その他に係るものが4,839件(32.4%)あり、そのおもなものは、交通騒音・振動であると考えられるので、これを都市生活の分類に入れると、都市生活に起因する苦情・陳情は、合わせて5,245件(35.1%)となり、騒音・振動は、都市公害の面を強くみせている。


 これに対して悪臭に対する苦情・陳情は第2-8-3表からもわかるとおり、7,004件のうち農林漁業に起因するもの2,662件(38.0%)、製造業に起因するもの2,562件(36.6%)、都市生活に起因するもの605件(8.6%)となっている。すなわち悪臭の場合は、大気汚染、水質汚濁、騒音・振動と異なり、農林漁業に係るものが最も多く、しかも農林漁業に対する悪臭の苦情・陳情のなかでも、その91.9%を養鶏・養豚に係るものが占めている。また、製造業では、石油・石炭・化学製品製造業に対するものが最も多く、544件、次いで食料品製造業422件、鉄鋼金属製品製造業323件が大きな悪臭発生源となっている。
 産業廃棄物(事業活動に伴って生ずる廃棄物)に対する苦情・陳情は現在のところ175件と絶対数は少なく、産業別構成では、製造業80件、農林漁業54件、都市生活2件となっている。業種別にみると養鶏・養豚業22件、石油・石炭・化学製品製造業18件、食料品製造業15件、水産加工品製造業15件であり、魚腸骨等の廃棄に対する苦情が多い。
 また、各種公害のすべてを統括した対業種別の公害の苦情・陳情の状況をみると、鉄鋼・金属製品製造業(公害の苦情・陳情に対する比率15.00%)、養鶏・養豚業(9.45%)、パルプ・紙製品製造業(4.77%)、石油・石炭・化学製品製造業(4.18%)に対する苦情・陳情が目だっている。

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