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第4節 

1 健康被害

 健康被害を引き起こす物質としては、水銀、カドミウムなどの重金属その他の有害物質がある。この汚濁は、その微量毒性が問題であって、一見美しい水域を形成していても、たとえば、熊本県および新潟県での水俣病あるいは富山県におけるイタイイタイ病等の深刻な健康被害をもたらす場合がある。このため、事件以来、事前防止に重点をおき、常時監視の体制を進め、監督の強化を図るとともに、少しでも疑わしい地域が発見されたときには、早急に詳細な調査を行ない必要な対策を実施しているので、幸い上述の事件以来同種の有毒物質による新たな事件の発生はみられていない。その他、シアンなどの有毒物質による漁業被害等が発生したこともあるが、健康被害に至るケースは発生していない。
(1) 水銀化合物による健康被害
 水俣病は、メチル水銀化合物により汚染された魚介類を長期にわたり大量に摂取することにより引き起こされる中枢神経系の疾患である。熊本県水俣湾周辺一帯、新潟県阿賀野川下流流域に発生した本疾患は、魚介類摂取の制限および原因と目される工場の操業中止によって、水俣においては昭和36年以来、新潟においては41年以来新たな患者の発生はみられていないが、発生当時中毒患者が明確に現れていない要観察者の中から、年とともに中毒症状が現れてくる者があり、たとえば、新潟においては44年10月、新たに9人を水俣病患者として認定している。44年12月末における患者発生状況は、第2-2-5表のとおりである。
 事前防止の調査中、魚類中の水銀濃度が比較的高く検出された水域として富山県小矢部川、神通川、奈良県芳野川の3水域であったが、いずれも現在までの調査の結果、本疾患の発生は心配ないとされている。なお、神通川と芳野川については、引き続き調査研究を進めている。


(2) カドミウムによる健康被害
 カドミウムによる環境汚染と関係のある健康被害としてこれまでに明らかにされたものは、富山県神通川流域に発生したイタイイタイ病が唯一のものである。その認定患者は、44年12月末現在、第2-2-6表のとおり96人であって、この1年間に3人が新たに患者に認定され、8人が死亡した。
 イタイイタイ病の本態は、カドミウムの慢性中毒によって腎尿細管の病変が起こり、その再吸収機能が阻害されてカルシウムが失われ、体内カルシウムの不均衡をきたして骨軟化症を引き起こすものであり、その際各種の条件が誘因として作用しているというのが現在までにほぼ定着した医学的見解となっている。その後、宮城県鉛川・二迫川流域、群馬県碓氷川・柳瀬川流域、長崎県佐須川・維根川流域、大分県奥岳川流域等でカドミウムによる環境汚染が明らかにされ、これら住民の健康への影響が懸念されたので、43、44年度において厚生省では関係県と協力して精密な住民健康調査を実施してきたが、これまでのところ、これらの地域においては、カドミウムと関係があると判断される健康障害は確認されていない。この間、カドミウム中毒症等の早期診断方法の研究はとくに努力が払われ、診断技術、検査法、さらに、これら疾患の本態に関する知見が急速に集積されている。

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