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第1節 大気汚染の概況

 産業活動その他の人間の活動に伴つて、すす、ふんじん、いおう酸化物等の種々の物質が大気中に排出される
 これらは気象や地形等の自然条件に応じて、大気を汚染し、どんよりとけむつて視程を減少させたり、あるいは人体に各種の障害をひきおこすことになる。このような大気汚染は、大規模な産業活動の展開や人口の都市への集中などに伴つて、今日における最も重大な社会問題の一つとなっている
 歴史的にみると、明治中期以降におけるわが国近代産業の発展に伴う生産の増加とともにエネルギー源として石炭の消費量が飛躍的に増大するにつれてばい煙が問題となり、都市への人口集中も加わつて大気汚染が都市の公害として取り上げられるようになつた。
 しかし、第二次世界大戦と終戦後の空白期間を経た昭和25年ごろまでは、一部の都市を除いて大気汚染の実態のは握すら十分でなかつたといつてよく、今日のような広域にわたる深刻化した大気汚染の問題は発生しなかつた
 その後、わが国経済の成長発展に伴つて産業が急速に発展し、広域的な大気汚染が問題化してきた。特に30年代にはいり高度成長による産業の大規模化、高度化が進行するとともに、エネルギー源の石炭から石油への転換に伴い、石油燃料の燃焼による排気ガスに含まれるいおう酸化物による汚染が注目されるに至つた
 このような大気汚染の概況を、汚染物質ごとにみてみると、まず、おもに石炭の燃焼に伴つて発生する降下ばいじんによる汚染については、40年以降は横ばいないし減少の状況にある。特に既成の工業地域をひかえた大都市に降下ばいじん量の減少が目だつている。こうした傾向は、石炭から石油への燃料転換が特に影響しており、さらに、これに、ばい煙規制法による規制の効果や工場等における集じん装置の積極的な取り付けによる除去効果が加わつたものといえる。
 一方、いおう酸化物による汚染は、前述の燃料転換に伴う石油中のいおうの燃焼生成物として燃料使用量に比例して増加する傾向を示し、生産活動の活発化、石油化学コンビナートの出現等に伴つて局地的には予想を上回る高濃度が測定され、重要な問題となつてきた
 特に、中小規模の発生源によつて都市公害が著しく進行している大都市の周辺に立地した臨海コンビナート地域、新たに大規模の工場が立地した新産業都市、工業整備特別地域等ではいおう酸化物の濃度が急激に増加しつつある。
 降下ばいじん、いおう酸化物以外は浮遊ふんじん、一酸化炭素、窒素酸化物等が問題になる
 浮遊ふんじんは、大気中に放出された物質のうち、特に粒子の小さいものであつて、大気中にただよつている状態にあるものである。その組成は発生源の状態により異るが、燃料のもえがらであるすす等の灰分、炭化水素系の有機物および燃料その他に含まれている微量重金属等がおもな成分である。この浮遊ふんじんは、特に粒子が小さい場合には、肺や気管支等の奥深くに達し、各種の障害を与える一因となるのでその濃度および質について注意深く監視する必要がある
 自動車排出ガスは、最近における自動車の急激な増加に伴い、特に都心部においては深刻な大気汚染問題を起こしている。自動車排出ガスの成分としては一酸化炭素、窒素酸化物、炭化水素、アルデヒド等があり、道路交通事情の悪い交差点等の周辺においては、頭痛、目の刺激、吐き気等の障害をひき起こしている

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