第3節 国際的な循環型社会の形成と我が国の役割

前節までに、我が国の廃棄物を巡る以前の状況と、その克服のための廃棄物・リサイクル対策の改革を見てきました。今日、経済活動がグローバル化する中で、資源の需要が世界的に高まりつつあり、廃棄物・リサイクル対策は国際的な側面を持つようになりました。こうした状況を踏まえ、本節では、循環型社会を国内だけでなく国際的にも構築していく必要性と、その構築に当たっての基本的な考え方、そして東アジアの循環型社会形成に向け、我が国が果たすべき役割について見ていきます。また、こうした取組の国際的な方針として、国内及び国際的な循環型社会構築に向け、我が国の小泉総理から提案し、G8サミットにおいて、3Rの推進に向けた国際的な合意となっている「3Rイニシアティブ」とその後の取組について紹介します。
現在国際的な循環型社会の形成の流れは、「3R」を中心に形成されてきています。その端緒は、平成16年に合意された3Rイニシアティブであり、G8各国が主導的に3Rの推進を図っていくことを始め、3Rの取組で目指すべき方向性を示しました。これを受け、G8以外の国も含め、各国は平成17年に我が国で開催された「3Rイニシアティブ閣僚会合」において、このイニシアティブに基づくそれぞれの国での取組を開始し、さらに、その進捗状況についての情報交換などを通じて一層取組を推進させるため、平成18年には、我が国で「3Rイニシアティブ高級事務レベル会合」を開催しています*60

写真	3Rイニシアティブ閣僚会合


写真	3Rイニシアティブ高級事務レベル会合

なお、本節では、前節でみた我が国の循環型社会基本法の枠組みにより、基本的には、廃棄物などを中心とした「循環資源」を取り上げています。その内容は、循環型社会基本法において「廃棄物などのうち有用なもの」(第2条第3項)と定義されており、廃棄物などについて、有価・無価を問わず資源の観点からとらえた概念です。
ただし、国際的な統計など、特に廃棄物のみを指している場合には、廃棄物との表記を行います*61。また、循環資源には含まれないものの、使用されずに循環資源と同様に取り扱われているものや、中古製品と称して偽装貿易の対象となるものなど、循環資源と密接に関係するものとして、実質的に循環資源と同じように対応を検討していくことが必要との指摘のある物品もあります*62

*60 このほか、中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会に国際循環型社会形成と環境保全に関する専門委員会(委員長:田中勝 岡山大学教授)が設置され、平成18年2月に中間報告を作成しています。
*61 廃棄物については、我が国では廃棄物処理法により定義がなされていますが(廃棄物処理法第2条)、国際的には統一された定義がなく、各国で独自の定義による相違があることに留意する必要があります。本節では、特に記述がない限り、こうしたものを含めて広く廃棄物の内容をとらえています。
*62 このほか、循環資源と類似の概念として、資源の有効利用の促進に関する法律(平成3年4月法律第48号(資源有効利用促進法))上の「再生資源」がありますが、これは、原材料としての利用の観点から、循環資源の一部をとらえたものと考えられます。

1. 循環資源をめぐる国際的な状況

アジアを中心とした国際的な経済成長と人口増加に伴って、循環資源の発生量が地球レベルで増加し、その質も多様化しています。また、リサイクルなどを目的にした循環資源の国際移動が活発化しています。そして、これらに伴う環境汚染などが懸念される状況にあります。

(1) 世界的な廃棄物の量の増大と質の多様化
昨年4月に我が国で開催された3Rイニシアティブ閣僚会合で、各国は、地球規模の共通の課題として、廃棄物発生量の増加と持続可能でない廃棄物管理に直面していることを強調しました。世界の廃棄物発生量について、岡山大学では、人口やGDPの将来予測を用いた将来予測を行っています。その予測によれば、2000年(平成12年)現在で世界の廃棄物の総排出量は約127億tであり、2025年には約190億t、2050年には約270億tと見積もっています(序-3-1図)*63。その中でも、特に、アジア地域における伸びが大きくなっています。

序-3-1図	世界の廃棄物排出量の将来予測

また、東アジア諸国における今後の廃棄物の発生量を、国民一人当たりのごみ発生量でみると、平成7年からの30年間で、我が国、韓国、香港以外の東アジア諸国で大幅に増加することが予測されています(序-3-2図)*64

序-3-2図	東アジア諸国の1人当たりのごみ排出量の将来予測

さらに、発生する廃棄物の質も多様化しています。生ごみなど従来からの廃棄物に加え、最近では、有害物質を含む廃電気電子製品(E-waste)や医療施設からの感染性廃棄物の適正処理が特に途上国において大きな課題になっています。

*63 吉沢佐江子、田中勝、Ashok V. Shevcarの試算(岡山大学大学院)による。
*64 バーゼル条約事務局資料による。

(2) 国境を越えて移動する循環資源
ものやサービスがグローバルに移動する現在、廃棄物を含めた循環資源もまた、国境を越えて移動しています。バーゼル条約加盟国間における有害廃棄物の越境移動の動向を見ると、平成5年から平成13年までの8年間に有害廃棄物の越境移動量は約5倍以上増加しています(序-3-3図)*65

序-3-3図	有害廃棄物の越境移動量の推移

また、鉄鋼くずやスラグ、古紙などの循環資源の我が国からの輸出量は、平成12年から16年までの4年間に約2.5倍に急増しています(序-3-4図)。一方、植物性油かすやスラグなど循環資源の我が国への輸入量は、この十年来緩やかに減少しています(序-3-5図)。循環資源の輸出先の大半が東アジア諸国であり、こうした傾向は、アジアの急速な経済成長による資源需要の増大を背景に今後も継続していくものと考えられます。

*65 バーゼル条約事務局資料による。

序-3-4図	循環資源の我が国からの輸出量


序-3-5図	循環資源の我が国への輸入量


(3) 廃棄物の増加と循環資源の越境移動がもたらす課題
こうした廃棄物・循環資源をめぐる情勢の中で、我々はいくつかの重要な課題に直面しています。
第1の課題は、廃棄物の発生量の増加や質の多様化、循環資源の輸入量の増大に対応した適正処理の体制が、特に途上国において、財政、組織の両面で十分に追いつかず、環境汚染を起こすおそれが生じていることです。岡山大学の試算では、2000年(平成12年)において世界全体の都市ごみの約60%が、最も初歩的な処理方法である開放投棄(オープンダンピング)により処理されており、2050年においても開放投棄による処理の割合は約44%と依然高い結果となっています*66。途上国では、インフォーマル・セクターと呼ばれる、公的な位置づけを持たない事業者がリサイクルの相当部分を担っており、不適正な処理による環境汚染が懸念される状況にあります。さらに、環境負荷を有する循環資源の越境移動は、それ自体が不慮の事故などによる環境汚染の危険性を有しているともいえます。
第2の課題は、循環資源の輸出に伴う国外への資源流出と国内の廃棄物処理・リサイクル体制への影響です。廃プラスチックなど有価で無害な循環資源については、その越境移動について、我が国では特段の貿易規制を設けていません。このため、我が国から中国を始めとした東アジア諸国への輸出量が近年急増しています(序-3-6図)。例えば、中国へのプラスチックくずの輸出量は、平成10年から平成16年までで6倍以上と急増しています。こうした市場原理による循環資源の越境移動は、我が国からの資源の流出とも考えられます。この結果、国内のリサイクル産業の停滞・空洞化にもつながりかねず、これまでみたとおり、長年かけて構築してきた我が国の廃棄物処理・リサイクル体制の安定的な維持・強化に支障を及ぼすことが懸念されています。

*66 吉沢佐江子、田中勝、Ashok V. Shevcarの試算(岡山大学大学院)による。

序-3-6図	主要な循環資源の国別輸出量の推移

循環資源の輸出においては、国外での受入停止などの不測の事態への対応も求められます。平成16年5月には、我が国からリサイクル目的で中国に輸出されたプラスチックくずの中に、リサイクルできない質の低いものが含まれており、中国国内法などに違反するとして、中国政府が我が国からの廃プラスチックの輸入手続きを停止するという事案が発生しました。これを受け、環境省では地方公共団体に対しごみの不適正な輸出を防止するための取組を働きかけました。また、廃棄物処理法の改正により廃棄物の無確認輸出に関する未遂罪及び予備罪を新設するなどの措置が講じられました。中国は、昨年9月、日本からの廃プラスチック輸入停止措置を解除しましたが、この事例は、我が国の廃棄物・リサイクル政策が国内だけでは完結しなくなっていることを示しています。
第3の課題は、中古製品やリサイクルされた製品の貿易上の問題です。家庭用電気電子製品や自動車などの中古製品は、輸入国において安価で利用でき、資源の有効利用が図られる反面、短期間で廃棄物となることから潜在的には廃棄物の越境移動と同視しうる要素を持っている上、途上国での産業発展を阻害しかねないといった点も指摘されています。このため、途上国の中には、環境保全と産業振興の観点から、中古製品の輸入制限を行っている例があります。また、有害廃棄物の越境移動については、「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」(バーゼル条約)とその国内実施法である「特定有害廃棄物などの輸出入などの規制に関する法律」(バーゼル法)*67及び廃棄物処理法により規制されていますが、中古製品と称して、バーゼル法の規制対象となる循環資源の偽装貿易が行われるといった不法行為も生じています。
こうした課題が存在しますが、循環資源の越境移動は、負の側面だけを持つものではありません。循環資源の越境移動により、リユースやリサイクルが、より安価かつ効率的に実施できる可能性があります。3Rイニシアティブ閣僚会合においても、循環資源の越境移動は、適正な仕組みが備わった場合には、資源の有効利用及び環境汚染の防止に貢献することが指摘されました。こうしたプラスの効果をもたらす具体例として、途上国において環境上適正な処理が困難な有害物質を含む循環資源について、我が国の高度な技術を用いた処理により、希少資源などの資源回収が可能となる場合があります。また、テレビのブラウン管ガラスカレットのように生産拠点の海外への移転が進み、日本国内では廃棄物として処分せざるを得ないものが海外の製造工程では循環資源として有効な利用が可能となる場合もあります。循環資源の越境移動によるプラスの効果を重視して、3Rイニシアティブ閣僚会合では、循環資源の越境移動に対する高い税率や非関税障壁などの貿易障壁を低減する必要性が指摘されました*68

*67 平成4年12月法律第108号。
*68 3Rイニシアティブ閣僚会合、議長サマリーを参照。

2. 国際的な循環型社会の構築

廃棄物・循環資源をめぐる国際的な課題を克服するために、循環型社会を国内だけでなく国際的にも構築していく必要があります。特に、我が国は、国際的な循環型社会の形成に向け、前節で述べた廃棄物・リサイクル対策の改革の実績を基に、積極的に国際社会に貢献していくことが求められています。

(1) 国際的な循環型社会の構築に当たっての基本的な考え方
循環型社会基本法では、「循環型社会」について、製品などが廃棄物などとなることを抑制し、排出された廃棄物などについてはできるだけ資源として適正に利用し、最後にどうしても利用できないものは適正に処分することが徹底されることにより実現される、天然資源の消費が抑制され、環境への負荷が低減される社会と定義しています*69
国際的な循環型社会とは、この定義を国際的に拡げたものと考えることができます。ただし、この場合の地理的境界は、廃棄物・循環資源の移動の範囲を考慮すると、日本、韓国、中国に東南アジア諸国を加えた東アジア地域をまず念頭に置くことが適当と考えられます。また、廃棄物・循環資源の越境移動は、途上国での環境悪化や移動中の不慮の事故による環境汚染、国内の廃棄物処理・リサイクル体制への影響といった課題を克服する必要があり、そのためには環境汚染を未然に防止することを前提とする必要があります。一旦環境汚染が生じると、その除去に膨大な費用を要することは、我が国が経験したことであり、その経験を生かした国際的な貢献が求められます。
こうした前提に基づき、国際的な循環型社会構築に当たっての基本的な考え方として、まず1)各国の国内で循環型社会を構築し、次に2)廃棄物の不法な輸出入を防止する取組を充実・強化し、その上で3)循環資源の輸出入の円滑化を図ることの三点が挙げられます。これらの基本的な考え方を図示すると、序-3-7図となります。

*69 循環型社会基本法第2条において、循環型社会の定義がなされています。

序-3-7図	国際的な循環型社会のイメージ

ア 国内での循環型社会の構築
3Rイニシアティブ閣僚会合では、廃棄物は発生した国において最小化することを最優先すべきであることが指摘されました。国際的な循環型社会の構築のためには、まず各々の国で循環型社会を構築する必要があります。すなわち、廃棄物の発生を抑制し、排出された廃棄物はできるだけ資源として利用し、どうしても利用できないものを適正に処分する3Rの取組は、各国においてまず実施される必要があります。そのためには、各国内において、再生利用を含め、その適正処理能力の向上などを図っていくことが重要となります。また、国内の廃棄物処理・リサイクル体制を将来にわたって安定的に維持していくために、リサイクル制度に基づき国内で回収された循環資源については、まず国内での再商品化を優先することが必要です。
イ 廃棄物の不法な輸出入を防止する取組の充実・強化
各々の国で循環型社会を可能な限り構築した上で、ある国では実施不可能な廃棄物・循環資源の有効な利用・処分を他の国で行うことにより、有害物の管理も含め東アジア地域全体の環境負荷低減に資する場合が考えられます。このような廃棄物・循環資源の越境移動を実現するためには、これを適切に管理していくこと、特に廃棄物の不法な輸出入を防止する取組を充実・強化していくことが必要です。こうした取組の充実・強化により、廃棄物の輸出入による環境汚染が未然に防止され、バーゼル法の規制を逃れるための不法行為が減少するものと考えられます。
ウ 循環資源の輸出入の円滑化
各国の国内で循環型社会が構築され、廃棄物の不法な輸出入が防止される要件を満たすことによって、環境汚染の防止が十分に確保されるとともに東アジア地域全体の環境保全に資する場合には、補完的に循環資源の越境移動により資源としての有効利用を進めることが可能となります。具体的には、優れた技術を有する国が他国では困難なリサイクルを引き受ける場合や、低コストでのリサイクル、生産拠点の立地に対応したリサイクルが可能な場合において、循環資源の越境移動を円滑化していくことは、地域全体の環境保全と資源の節約に貢献するものと考えられます。

(2) 循環資源の性質に応じた対応
国際的な循環型社会構築に当たっての基本的な考え方を踏まえて、具体的な対応を進めていく際には、全ての循環資源を一律に扱うのではなく、それぞれの性質を踏まえた複線的な対応を図っていくことが重要です。このため、循環資源などについて、環境負荷の程度を表す有害性と、経済的価値を表す無価性に即して分類したものが、序-3-8図です。こうした循環資源などの性質に応じた対応を整理すると、次のとおりとなります。

序-3-8図	循環資源の性質に応じた分類

まず、バーゼル条約の規制対象物を始めとした有害物については、環境や健康に対する深刻な悪影響が生じうることから、発生国内での処理を原則とすべきです。3Rイニシアティブ閣僚会合では、廃棄物の越境移動は、受入国において安全・適切に利用され、適正に処分される場合に限って実施されうるとの見解が示されました。また、現状では途上国で処理できない有害物について、我が国の高いリサイクル・処理技術を活用しリサイクルがなされる場合には、国内での適正処理が確保されることを前提に、その受け入れを円滑化していくことも考えられます。
次に、無価物(廃棄物処理法上の廃棄物)は、有害物質を含まない場合でも、その適正処理を行う経済的なインセンティブがないことから、不適正な処理がなされ、生活環境上の支障を生じる可能性が高いものと考えられます。このため、その処理は発生国内で行うことが基本となります。一方、我が国では埋立処分せざるを得ないものでも、輸出先国ではリサイクル資源として活用される場合など、越境移動によって資源の有効利用が促進される場合については、輸出先国において適正処理が確保されることを前提に、その輸出を円滑化していくことも考えられます。
廃プラスチックなどの有価・無害な循環資源については、現状では、その越境移動についての枠組みが整備されておらず、基本的には通常の製品と同様に取り扱うことが適当と考えられます。ただし、その場合にも、輸出先国での不適正な処理による二次的な環境汚染の可能性や、資源の急激な国外流出による国内の廃棄物・リサイクル体制への影響を十分考慮し、激変緩和のための措置を検討するなど、状況に即した対応を図っていくことが重要です。
最後に、中古製品や再製造物品、とりわけ、通常の製品と同等の安全性・耐久性を有する製品については、貿易ルール上も通常製品と同様の扱いをしていくことが考えられることから、国際的な移動を通じて、その再使用、再生利用を促進していくことにより、資源の有効利用に貢献していくことが考えられます。一方、中古製品などは、短期間で廃棄物となることから、その耐久性などを勘案して、それぞれに含まれる循環資源の性質に即して、循環資源となった場合と同様に関係国が相互に理解できる取扱いを進めていくことも検討していく必要があります。

(3) 東アジア循環型社会ビジョンの形成と我が国の役割
このように、国際的な循環型社会構築の基本的な考え方に沿って、循環資源の性質を考慮しながら、東アジア地域で循環型社会を形成していくことは、東アジアの各国にとって便益をもたらすのみでなく、地域全体の持続的発展の観点からも意味があるものです。我が国は、3Rイニシアティブ閣僚会合に際して、「3Rを通じた循環型社会の構築を国際的に推進するための日本の行動計画」(ゴミゼロ国際化行動計画)を発表しました。この行動計画の中で、ゴミゼロ社会を世界に広げるための国際協調の一環として、「東アジア循環型社会ビジョン」を平成24年までに策定することとしています。東アジア諸国の共通ビジョンとなりうる「東アジア循環型社会ビジョン」の策定に向けて、我が国には、以下の取組を進めていくことが求められています。
ア 各国の循環利用・処分の能力向上への貢献
各国の国内で循環型社会を構築していくために、我が国は日本国内での循環型社会の実現はもとより、東アジアの各国においても廃棄物が適正に処理され、3Rが実現されるよう、各国の循環利用・処分の能力の向上に貢献していくことが挙げられます。そのために、日中韓三ヵ国環境大臣会合など既存の枠組みなども活用して、各国との政策対話を重ね、そのニーズを把握し、各国が抱える問題の解決に協力していくことが必要です。その際には、我が国の廃棄物・リサイクル対策におけるこれまでの改革の積み重ねを東アジア各国の貴重な財産として活用していくことが考えられます。
また、各国において循環型社会が実現されるためには、その形成に向けた3Rの取組に関する計画やビジョンが策定されることが重要です。そのために、我が国が持つ優れた技術・システムの知見を活かして、こうした計画やビジョンの策定に対して支援していくことにより、大きな効果を挙げていくことが可能です。例えば、ベトナムでは、国レベルでの3R推進戦略を策定中であり、こうした取組を支援していく必要があります。

コラム 9 ベトナムにおける3R推進の戦略づくり

国レベルで3Rを推進し循環型社会を構築するためには、目標や各主体の役割などを定めた計画や戦略が必要になります。日本の場合、循環型社会形成推進基本計画がこれに該当します。
環境省では、アジア各国における3R推進のための計画や戦略の策定を支援しています。その最初のケースがベトナムです。経済成長著しいベトナムでは、持続可能な発展を目指して3Rを積極的に推進しようとしています。ベトナム政府の要請により、国連地域開発センター(本部:名古屋)が中心となって、ベトナム政府などとともに3R推進戦略づくりを進めており、環境省もこれに協力しています。
現在検討されているベトナムの3R推進戦略では、農業や鉱工業、生ごみなど3Rを推進していく分野を抽出し、3Rの推進を目標に掲げて、法令の制定やパイロットプロジェクトの実施、キャパシティビルディングの推進、関係者(政府、企業、NGO、研究機関)の間のパートナーシップ構築といった政策措置を講じることになっています。また、これらを進めていくメカニズムとして、省庁間の調整・協力の仕組みや財政措置を設けることにしています。
ベトナムに続き、インドネシアも3R推進のための戦略策定に関心を寄せています。こうした動きが広がってアジア全体で3Rが普及していくことが期待されます。

コラム9	写真	ハノイでのごみ回収


さらに、国際協力機構(JICA)などによる既存の技術協力や研修などを通じて、廃棄物の適正処理や3Rに関する技術・システムの整備を図るための人材育成や組織の整備を実施していく必要があります。この他に、3R政策の立案・実施の基盤となる科学的な知見や技術的な情報を共有するための研究者・専門家のネットワークの構築や、循環型社会の主要な担い手となる地方公共団体やNGO・NPOの取組を推進していくことも重要です。
こうした途上国支援の一例として、バーゼル条約の下で進められている「アジア太平洋地域における廃電気電子製品の環境上適正な管理プロジェクト」があります。使用済みのテレビ、パソコン、冷蔵庫などの廃電気電子製品(E-waste)*70には鉛などの有害物質が含まれていますが、近年これら廃電気電子製品の発生量が増加しており、リサイクルや処分を目的とした輸出入も急増しています。バーゼル条約のプロジェクトは、これらの廃電気電子製品が環境上適正に管理されることを目指したものであり、昨年11月にそのキックオフとなるワークショップが環境省やバーゼル条約事務局などの主催により東京で開催されました。このワークショップでは、E-wasteに関する情報の共有や国別プロジェクトについて議論がなされ、プロジェクトの実施に関する行動計画が合意されました。

*70 「E-waste」とは、テレビ、コンピューター、エアコン、冷蔵庫、携帯電話などの電気電子機器から生じる廃棄物で、これらの製品には、鉛、カドミウム、水銀などの有害物質が含まれていることから、その適正処理が重要となっています。

イ 循環資源の不法な輸出入を防止する取組
次に、有害廃棄物などの循環資源の不法な輸出入を防止する取組として、1)循環資源の国際移動の把握・分析の高度化、2)規制対象物品の明確化、3)トレーサビリティーの向上、4)不法輸出入防止のネットワークの充実、5)我が国の知的財産権の保護などを図っていくことが重要となっており、我が国が以下に示すような取組を進め、国際的に貢献していくことが必要となっています。
例えば、循環資源の国際移動の現状把握・分析の高度化のためには、現在の輸出入管理を行う国際的な物品コード(HSコード)*71の細分化により中古家電やリサイクル目的の循環資源の輸出入が把握できる仕組みを検討していくことなどが考えられます。
また、個別の物品について、適正な輸出入を確保していくための取組も重要です。規制対象物品の明確化の点では、各国におけるバーゼル条約の規制対象物品の判断基準の差異を狭めていくためのガイドラインの策定が具体的な取組として挙げられます。トレーサビリティーの向上のためには、東アジア諸国の間で循環資源などの移動、保管、リサイクル、処分などに関する情報を電子データとして交換し、地域全体で管理していくシステムの構築などを検討していく必要があります。
さらに、我が国は、平成15年に「有害廃棄物の不法輸出入防止に関するアジアネットワーク」を提案し、アジア諸国などと連携した不法輸出入防止の取組を進めてきていますが、その一層充実・拡大していくことや、我が国の優れた廃棄物・リサイクル技術が海外で違法に侵害されることのないよう、知的財産権侵害の問題に対する我が国事業者への意識啓発などを図っていくことが重要となっています。

*71 HSは、「Harmonized Commodity Description and Coding System」の略であり、それぞれの物品ごとに、6桁目まではHS条約に基づいて国際的に統一されているほか、7桁目から9桁目までの数字については、国内で細分化しています。また、バーゼル条約事務局では、世界関税機関(WCO)に対し、中古家電製品の位置付けなどを行うHS条約の改正案を提案しています。

ウ 循環資源の輸出入の円滑化のための取組
循環資源の輸出入の円滑化のための取組として、バーゼル条約上の有害物質の捉え方に各国の間で相違が生じている現状を考慮して、アジア共通の有害廃棄物のデータベースを構築することや、環境保全効果が確認された再製造物品などに対する貿易障壁を低減していく方策の検討が挙げられます。3Rイニシアティブ閣僚会合においても、リサイクル目的の循環資源と規制対象となる廃棄物を区別するため、先進国と途上国間及び二国間における経験の共有の必要性や、判断基準などとその能力の必要性が認識されました。
このほか、我が国の優れた3R技術を活かし、途上国では適正に処理できない有害性を持つ循環資源について、国際的な3Rの推進やアジア地域全体での環境負荷の低減、我が国の希少資源の確保などの観点から、我が国で円滑に受け入れていくための措置など、環境保全に資する形での貿易の円滑化の方策を検討していくことが重要になっています。
なお、こうした取組を進めていく際には、途上国などのニーズを十分に踏まえることや、国内の廃棄物処理・リサイクル体制への影響を考慮すること、世界貿易機関(WTO)での議論や、経済連携協定(EPA)など貿易政策全体との整合性を図ることが必要となります。また、こうした国内及び国際的な循環型社会構築の取組は、地球温暖化対策など他の環境分野との相乗効果により、より一層の充実が図られるものと思われます。

3. 3Rイニシアティブの推進

我が国の環境イニシアティブである3Rイニシアティブは、国内及び国際的な循環型社会構築に向けた道標でもあります。3Rイニシアティブは、小泉総理が、平成16年6月のG8シーアイランドサミットにおいて提案し、G8の新たなイニシアティブとして合意されたものです。
3Rイニシアティブを開始するための閣僚会合(小池環境大臣主催)は、G8を含む19か国と欧州委員会の閣僚などや4つの関連国際機関の代表の参加を得て、平成17年4月に東京において開催され、国際的な協力の下、3Rの取組を一層充実・強化していくことについて合意が得られました。
そして、3Rイニシアティブをフォローアップする高級事務レベル会合が、平成18年3月6~8日に、日本政府の主催により東京で開催されました。同会合には、G8を含む20ヶ国と欧州委員会、7国際機関の担当部局長他が出席し、3Rイニシアティブ閣僚会合以降の各国・国際機関における3Rの取組の進展(序-3-1表)や優良事例の紹介を行い、情報を共有しました。また、1)各国における3Rの推進、2)国際的な3Rの推進(循環資源などの国際的な移動)について議論しました。
3Rイニシアティブ高級事務レベル会合では、3Rに関する良好事例(グッドプラクティス)として、廃棄物の電子マニフェストシステムや、3Rとリサイクルに関する法制化、拡大生産者責任、廃棄物の削減とリサイクルについての明確な目標の設定などが挙げられました。これらを進める鍵として、上流側(製品設計・製造時)及び下流側(廃棄物管理時)を含めた包括的取組やリサイクル・熱回収を進めるための取組、3Rのための効率的/最適な費用負担の仕組みなどが指摘されました。また、3Rは廃棄物の環境上適正な管理と統合されうることが指摘されました。さらに、政策の裏づけとなる具体的な措置として、1)規制的な措置、2)市場メカニズム、3)市民団体の参加と意識の向上、4)技術開発と協力が挙げられました。
循環資源の国際的な移動に関して、3Rイニシアティブ高級事務レベル会合では、例えば、有害廃棄物と非有害廃棄物の内容のように、規制対象物品とそうでないもので区別することが困難であることが指摘され、これに関して技術的、実践的なガイドラインやデータベースの整備が適切であるとの意見がありました。この会合で、我が国はアジア国際会議の開催などアジア地域で3Rを推進していくことを提案し、歓迎されました。また、サイドイベントでの発表や展示などにNGO、産業界、関係団体などの関係者が参加し、3Rの取組を幅広いレベルで展開する機会となりました。
各国・国際機関の取組の進展に見られるように、3Rの推進に対する気運は国際的な盛り上がりを見せており、各国・国際機関は、日本のイニシアティブを高く評価しています。我が国は、G8議長国となる平成20年を目指して、国内での3Rの充実・強化に加え、国際的にもリーダーシップを発揮して3Rの取組を推進していくこととしています。

序-3-1表	各国における3Rの取組



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