第3節 調査研究、監視・観測等の充実、適正な技術の振興等

1 調査研究及び監視・観測等の充実

(1)研究開発の総合的推進

 第3期科学技術基本計画、分野別推進戦略及び長期戦略指針「イノベーション25」に基づき、持続可能な社会の構築に資する観点及び環境と経済の統合的向上に資する観点から、我が国の環境問題への対応及び国際社会への貢献に資する研究開発を推進します。主な施策例は表7-3-1のとおりです。


表7-3-1 研究開発の総合的推進に関する施策の例

 環境分野の研究開発の推進では、総合科学技術会議がリーダーシップを発揮しつつ、環境プロジェクトチームにおいて、分野別推進戦略に沿って積極的に実施するほか、平成19年度の進ちょく状況についてフォローアップを実施します。

 また、科学技術連携施策群のテーマとして推進している「バイオマス利活用」と「総合的リスク評価による化学物質の安全管理・活用のための研究開発」は、府省間の連携を強化し、効率的かつ総合的に研究開発を推進します。

 さらに、イノベーション25に基づき、社会還元加速プロジェクトのテーマの一つとして、「バイオマス資源の総合利活用」の推進を図ります。

 また、環境研究・環境技術開発の推進戦略の取組状況のフォローアップを引き続き行い、その円滑・着実な推進を図ります。


(2)環境省関連試験研究機関の整備と研究の推進

 ア 独立行政法人国立環境研究所

 第2期中期計画に基づき、4つの重点研究プログラムを進めるほか、基盤的調査・研究、知的研究基盤の整備等の環境研究を推進します。また、適切な環境情報の提供を進めます。

 イ 国立水俣病総合研究センター

 国立水俣病総合研究センターにおいては、水銀汚染問題に関する我が国の経験の蓄積を活用し、WHO協力センターとしての活動、海外の水銀汚染に関する調査研究等の国際協力を行うとともに、水俣病発生地域に所在するという特性をいかした研究を実施しており、特に、水俣病被害者やその家族の高齢化が進展する中で喫緊の課題となっている介護予防や胎児性水俣病患者に対する取組を引き続き進めます。また、水俣病情報センターにおいては、水俣病関連資料の収集、整理及び提供を実施します。


(3)公害防止等に関する調査研究の推進

 環境省に一括計上する平成20年度の関係行政機関の試験研究機関の地球環境保全等に関する研究のうち、公害の防止等に関する各府省の試験研究費は、総額7億4,233万円です。8府省25試験研究機関等において、環境の現状の的確な把握、環境汚染による環境変化の機構解明、環境汚染の未然防止、汚染された環境の修復等幅広い領域にわたり、58の試験研究課題を実施します。その内容は表7-3-2のとおりです。


表7-3-2 公害防止等に関する調査研究

 また、「環境技術開発等推進費」において、募集課題を整理・統合し、基礎から実用化までを取り扱う「戦略一般領域」及び環境省が主体的・戦略的に行政主導の研究開発を行うため予め研究課題を指定して公募する「戦略指定領域」に対する支援を行い、環境研究・技術開発の推進を図ります。


(4)地球環境研究に関する調査研究等の推進

 「地球環境研究総合推進費」については、引き続き学際的、国際的な観点から地球環境研究の総合的な推進を図ります。平成20年度からは、重点施策として、[1]低炭素社会の構築に向けた多様な研究と[2]地球温暖化への効果的・効率的な適応(賢い適応)の研究を強力に推進し、低炭素社会作りの研究を加速するとともに、温暖化影響に強い持続可能な国土・社会の形成の基盤となる知見を提供することとしています。

 また、地球温暖化の防止に関する研究の中で、各府省が中長期的視点から計画的かつ着実に関係研究機関において実施すべき研究を、「地球環境保全試験研究費」により効果的に進めます。


(5)地球環境に関する観測・監視

 気候の観測・監視については、世界気象機関(WMO)及び全球気候観測システム(GCOS)の枠組みに基づき、地上及び高層における定常観測を引き続き推進するとともに、その推進に向けた国際的な取組に積極的に参画します。また、WMOの全球大気監視(GAW)計画の一環として、温室効果ガスCFCオゾン層、有害紫外線等の定常観測を引き続き実施するとともに、日本周辺海域及び北西太平洋海域における洋上大気・海水中の二酸化炭素等の定期観測、エーロゾルライダーを用いたエーロゾルの高度分布の測定を継続します。また、黄砂に関する情報及び有害紫外線に関する情報を引き続き発表します。

 陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)の運用を継続するほか、温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)(平成20年度打上げ予定)、全球降水観測(GPM)計画主衛星に搭載する二周波降水レーダ(DPR)、気候変動・水循環を全球規模で継続的に観測する地球環境変動観測ミッション(GCOM)衛星、日欧共同の雲エーロゾル放射ミッション(EarthCARE)衛星に搭載する雲プロファイリングレーダ(CPR)の研究開発等、人工衛星による観測・監視技術の開発利用を一層推進します。また、海洋地球研究船「みらい」等を用いた観測研究、観測技術の研究開発を引き続き推進するとともに、深海地球ドリリング計画を推進し、地球規模の諸現象の解明・予測等の研究開発を推進します。さらに、地球規模の高度海洋監視システムを構築するARGO計画を引き続き推進します。「地球観測システム構築推進プラン」では、競争的研究資金制度のもと、地球観測システムの構築に貢献する研究開発事業等に効果的に取り組んでおり、地球温暖化・炭素循環分野及びアジア・モンスーン地域の水循環・気候変動分野等における研究開発事業を推進し、対流圏大気変化観測分野の研究開発事業を行います。

 第49次南極地域観測隊が昭和基地を中心に、海洋、気象、電離層等の定常的な観測のほか、南極地域において、地球環境や地球システムに関する各種のプロジェクト研究観測とモニタリング研究観測を実施します。また、南極地域観測の継続のため、南極地域観測船「しらせ」後継船等の建造を引き続き推進します。

 地球温暖化対策に必要な観測を、統合的・効率的なものとするため、環境省と気象庁が共同で運営する「地球観測連携拠点(温暖化分野)」の活動を通じて、関係府省・機関間の観測の連携を推進します。また、温暖化影響に対して脆弱なアジア太平洋地域の途上国における監視・影響評価を推進することにより、途上国の取組に寄与し、気候変動対策に係る将来の国際的な枠組みの構築に貢献します。

 地球変動予測研究については、引き続き、世界最高水準の性能を有するスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を活用した地球温暖化予測モデル開発等を推進します。

 地球温暖化の原因物質や直接的な影響を的確に把握する包括的な観測態勢整備のため、「地球環境保全試験研究費」において「地球観測モニタリング支援型」の課題を継続して実施します。全国の気象官署における観測開始以降の観測資料の利用を促進するなど、地球温暖化の状況等に関する調査研究を推進し、地球温暖化予測の精度向上を図ります。また、国内の影響・リスク評価研究の更なる進展のため、日本付近の詳細な気候変化の予測精度を高めるための技術開発を引き続き推進します。また、GPS装置を備えた検潮所において精密型水位計による地球温暖化に伴う海面水位上昇の監視を行い、海面水位監視情報の提供を継続します。


(6)廃棄物処理等科学研究の推進

 第3期科学技術基本計画の政策目標「環境と調和する循環型社会の実現」を目的とし、総合科学技術会議が定めた「製品のライフサイクル全般を的確に評価し3Rに適した生産・消費システムを設計する科学技術」、「効率的にエネルギーを得るための地域に即したバイオマス利用技術」等の戦略重点科学技術を中心として、引き続き競争的研究資金を活用し広く課題を募集し、研究事業及び技術開発事業を実施します。

 研究事業については、「3R推進のための研究」、「廃棄物系バイオマス利活用推進のための研究」、「循環型社会構築を目指した社会科学的複合研究」、「アスベスト問題解決をはじめとした安全、安心のための廃棄物管理技術に関する研究」、「漂着ごみ問題解決に関する研究」を重点テーマとするとともに「バイオマス特別枠」を設け、社会的・政策的必要性に応じた廃棄物処理等に係る研究を推進します。

 技術開発事業については、「アスベスト廃棄物の無害化処理技術開発」、「廃棄物系バイオマス利活用技術開発」、「廃炉解体工事の低コスト化のための技術開発」、「漂着ごみ問題解決に関する技術開発」、「3R・エネルギー回収の高度化技術開発」を重点テーマとし、実用性、経済性が見込まれる次世代を担う廃棄物処理等に係る技術の開発を図ります。


(7)環境保全に関するその他の試験研究

 ナノテクノロジーを活用した環境技術開発を引き続き推進し、10年以内の実用化を目指します。

 よりきめ細かな信号制御を行い交通の円滑化を図るため、引き続きプロファイル信号制御方式による信号制御高度化モデル事業を実施し、その結果を踏まえて全国整備の在り方について検証します。

 情報通信研究機構等を通じ、電波や光を利用した地球環境観測技術として、人工衛星から地球の降水状態を観測するGPM搭載2周波降水レーダ、同じく人工衛星から地球の雲の状態を観測する雲レーダの研究開発、ライダーによる温室効果ガスの高精度観測技術、風速や大気汚染物質等の環境情報を都市規模で詳細に計測するセンシングネットワーク技術、天候等に左右されずに被災状況把握を可能とするレーダを使用した高精度地表面可視化技術の研究開発等を引き続き実施します。さらに、情報通信ネットワーク設備の大容量化に伴って増大する電力需要を抑制するため、光の属性を極限まで利用するフォトニックネットワーク技術による低消費電力光ネットワークノード技術等、極限光ネットワークシステム技術の研究開発を引き続き推進します。

 国産バイオ燃料の利用促進を図るため、バイオエタノールの生産コストを大幅に削減する技術開発を進めるとともに、これまでのイネゲノム研究の成果を活用し、転換効率が高いなどバイオ燃料生産に適した作物開発に着手します。また、地球温暖化が将来の農林水産業に与える影響を的確に予測する技術や生産現場において短期的に解決すべき高温障害等に適応する技術の開発、農林水産業と生物多様性の関係を定量的に計る指標及びその評価手法の開発を推進します。さらに、これらの研究開発に必要な生物遺伝資源の収集・保存や特性評価等を推進します。

 経済産業省では、植物機能や微生物機能を活用して工業原料や高機能タンパク質等の高付加価値物質を生産する高度モノ作り技術の開発や微生物群の制御等による産業廃水等の高効率バイオ処理技術の高度化を引き続き実施します。また、バイオテクノロジーの適切な産業利用のための遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律カルタヘナ法)の適切な施行や、海外の遺伝資源の円滑な利用を促進するため関係者との協議を行う等、事業環境の整備を引き続き実施します。

 国土交通省では、地域の実情に見合った最適なヒートアイランド対策の実施に向けて、様々な対策の複合的な効果を評価できるシミュレーション技術の実用化や、地球温暖化対策に資するCO2の吸収量算定手法の開発等を引き続き実施します。下水道技術開発プロジェクト(SPIRIT21)においては、下水汚泥有効利用の新技術開発を図る下水汚泥資源化・先端技術誘導プロジェクト(LOTUS Project)により、集中的に技術開発を行います。また、超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)や次世代内航船(スーパーエコシップ)の普及を引き続き図ります。海運からのCO2の排出削減に向け、船舶の計画・建造段階で実運航時のエネルギー効率を示す評価指標(実燃費指標)を開発することにより、エネルギー効率の良い船舶の普及を目指します。さらに、船舶からの大気汚染防止に関する国際規制強化の動向に対応するため、排出ガスに含まれるNOx等を大幅削減する環境に優しい舶用エンジンの実用化に向けて、排出ガス後処理装置(SCR触媒)及び燃料噴射系の改良等の研究開発を引き続き推進します。また、他の化石燃料と比較して環境負荷が少ない天然ガスの安定供給の確保に資する天然ガスハイドレート(NGH)輸送船の開発を支援します。

2 技術の振興

(1)環境技術の開発支援

 環境技術開発等推進費では、「戦略一般領域」において「次世代大気モニタリングネットワーク用多波長高スペクトル分解ライダーの開発」等、「戦略指定領域」において「クリーン開発メカニズム適用のためのパームオイル廃液(POME)の高効率の新規メタン発酵プロセスの創成」等に対する支援を行います。

 地球温暖化対策技術開発事業では、イノベーション25において推進が図られている、社会還元加速プロジェクトの一つである「バイオマス資源の総合利活用」、及びその研究開発ロードマップに位置づけられた「安全な革新的水素貯蔵・輸送技術」を戦略的温暖化対策技術開発と位置づけ、重点テーマとして実施します。また、「家庭・業務部門における消費エネルギーの低減のための省CO2化システム」などを重点テーマとして支援を行います。それ以外の地球温暖化対策として重点的に取り組むべき分野や製品開発段階に移行した温暖化対策技術についても引き続き支援します。経済産業省では、省エネルギー、新エネルギー、原子力、クリーンコールテクノロジー及び二酸化炭素回収・貯留(CCS)の技術開発を引き続き実施します。

 5年間の試行期間を経た環境技術実証モデル事業は、環境技術実証事業として、引き続き先進的環境技術の普及に向けた取組を推進します。

 また、更なる環境測定分析の精度向上等を目指して、引き続き地方公共団体の環境測定分析機関等を対象とした環境測定分析統一精度管理調査を実施します。


(2)技術開発等に際しての環境配慮及び新たな課題への対応

 「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」に基づき、事業者の作成した浄化事業計画が本指針に適合しているか否かについて、事業者の求めに応じて確認を行う等、引き続き適切な制度の運用を行います。

3 国における基盤整備等

 文部科学省においては、大学共同利用機関法人人間文化研究機構総合地球環境学研究所が実施する人文・社会科学から自然科学までの幅広い学問分野を総合化する研究プロジェクトや科学研究費補助金による研究助成など、大学等における地球環境問題に関連する幅広い学術研究の推進や研究施設・設備の整備・充実への支援を行います。また、戦略的創造研究推進事業、私立大学との環境分野等の共同研究を支援する私立大学戦略的研究基盤形成支援事業等により、環境に関する基礎研究を推進します。

 環境省においては、大気粉じん等の環境試料や絶滅のおそれのある生物の細胞・遺伝子を長期保存し、環境研究の知的基盤としていくための「環境試料タイムカプセル化事業」を引き続き実施します。

4 地方公共団体、民間団体等における取組の促進

 「地域の産学官連携による環境技術開発基盤整備モデル事業」を実施し、地域で不足する情報交換体制及びネットワークの強化を図り、地域における産学官連携による環境技術開発の基盤整備を推進します。

 地方公共団体の環境関係試験研究機関は、監視測定、分析、調査、基礎データの収集等を広範に実施するほか、地域固有の環境問題等についての研究活動も活発に推進しています。これらの地方環境関係試験研究機関との緊密な連携を確保するため、地方公共団体環境試験研究機関等所長会議を開催するほか、環境保全・公害防止研究発表会を開催し、研究者間の情報交換の促進を図ります。

5 成果の普及等

 地球環境保全等試験研究費、環境技術開発等推進費、地球環境研究総合推進費及び廃棄物処理等科学研究費補助金の競争的研究資金により実施された研究成果について、引き続き、広く行政機関、民間企業等に紹介し、その普及を図ります。



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