第6節 環境保健対策、公害紛争処理等及び環境犯罪対策


1 健康被害の救済及び予防


(1)公害健康被害の補償・予防等
ア 大気汚染系疾病
(ア)既被認定者に対する補償給付等
公害健康被害の補償等に関する法律(昭和48年法律第111号。以下「公健法」という。)に基づき、従来どおり被認定者に対し、1)認定の更新、2)補償給付(療養の給付及び療養費、障害補償費、遺族補償費、遺族補償一時金、療養手当並びに葬祭料)、3)公害保健福祉事業(リハビリテーションに関する事業、転地療養に関する事業、家庭における療養に必要な用具の支給に関する事業、家庭における療養の指導に関する事業、インフルエンザ予防接種費用助成事業)等を実施しました。平成18年12月末現在の被認定者数は47,721人です。なお、昭和63年3月1日をもって第一種地域の指定が解除されたため、新たな患者の認定は行われていません(表7-6-1)。

表7-6-1公害健康被害の補償等に関する法律の被認定者数等

なお、認定又は補償給付の支給に関する処分に係る審査請求を審査するため、公害健康被害補償不服審査会が設置されていますが、第一種地域関係では、平成18年12月末現在298件の審査請求があり、これまで取消し27件、却下16件、棄却179件の裁決を行ったほか、取下げが62件ありました。

(イ)公害健康被害予防事業の実施
(独)環境再生保全機構(以下「機構」という。)により、以下の公害健康被害予防事業が実施されました。

1) 機構が直接行う事業
大気汚染による健康影響に関する総合的研究、局地的大気汚染対策に関する調査等を実施しました。また、ぜん息児水泳記録会、大気汚染防止推進月間等のキャンペーン、ぜん息等の予防、回復等のためのパンフレットの作成、ぜん息の専門医による電話相談事業等を行うとともに、健康被害予防事業従事者に対する研修を行いました。

2) 機構による助成金の交付
地方公共団体等に対して助成金を交付し、旧第一種地域等を対象として、ぜん息等に関する健康相談、乳幼児を対象とする健康診査、ぜん息キャンプ、水泳教室等の機能訓練、最新規制適合車の導入、大気浄化植樹等が行われました。

イ 水俣病
(ア)水俣病被害の救済
I 水俣病の認定
水俣病は、熊本県水俣湾周辺において昭和31年5月に、新潟県阿賀野川流域において40年5月に発見されたものであり、四肢末梢の感覚障害、運動失調、求心性視野狭窄、中枢性聴力障害を主要症状とする中枢神経系疾患です。それぞれチッソ株式会社(以下「チッソ」という。)、昭和電工株式会社(以下「昭和電工」という。)の工場から排出されたメチル水銀化合物が魚介類に蓄積し、それを経口摂取することによって起こった中毒性中枢神経系疾患であることが昭和43年に政府の統一見解として発表されました。
水俣病の認定は、現在、公健法に基づき行われており、平成19年3月末までの被認定者は、2,958人(熊本県1,776人、鹿児島県490人、新潟県692人)で、このうち生存者は、895人(熊本県468人、鹿児島県181人、新潟県246人)となっています。被認定者は、補償協定に基づき原因企業から直接補償を受けています。
II 水俣病総合対策事業
平成3年11月の中央公害対策審議会答申「今後の水俣病対策のあり方について」を受け、4年度から、水俣病にも見られる四肢末梢優位の感覚障害を有すると認められる者に療養手帳を交付し、医療費の自己負担分、療養手当等を支給する医療事業(受付期間 平成4年~平成7年3月)等を内容とする水俣病総合対策事業が開始されました。
III 平成7年の政治解決
公健法及び水俣病総合対策事業による対応が行われる一方で、公健法の認定を棄却された者による訴訟の多発などの水俣病をめぐる紛争と混乱が続いていたため、平成7年9月当時の与党三党(自由民主党、日本社会党及び新党さきがけ)により、最終的かつ全面的な解決に向けた解決策が取りまとめられました。同年12月までに、被害者団体と企業(チッソ及び昭和電工)はこの解決策を受入れ、当事者間で解決のための合意が成立しました。
また、この関係当事者間の合意を踏まえ、平成7年12月に「水俣病対策について」が閣議了解され、国及び関係県は、この閣議了解に基づき医療事業の申請受付の再開(受付期間 平成8年1月~同年7月)等の施策を実施しました。なお、医療事業について、医療手帳(療養手帳を名称変更)の交付の対象とならなかった者であっても一定の神経症状を有する者に対しては、保健手帳を交付し、医療費等を支給する事業が行われることになりました。
国及び関係県のこのような施策が実行に移されたことを受けて、関西訴訟を除いた国家賠償請求訴訟については、平成8年2月及び5月に原告が訴えを取り下げました。関西訴訟については、16年10月に、最高裁判決が出され、国及び熊本県には、昭和35年1月以降、水質二法・県漁業調整規則の規制権限を行使せず、水俣病の発生拡大を防止しなかった責任があるとして、賠償を命じた大阪高裁判決が是認されました(表7-6-2)。

表7-6-2水俣病関連年表


(イ)水俣病対策をめぐる現状
I 今後の水俣病対策について
平成18年に水俣病公式確認から50年という節目を迎えるに当たり、7年の政治解決や関西訴訟最高裁判決も踏まえ、17年4月に「今後の水俣病対策について」を発表し、これに基づき以下の施策を行っています(図7-6-1)。

図7-6-1水俣病被害救済の概要

1) 医療事業について、高齢化の進展等を踏まえ、拡充を図りました。また、保健手帳については、交付申請の受付を平成17年10月に再開しました。
2) 胎児性患者を始めとする水俣病被害者に対する社会活動支援、地域の再生・振興等の地域づくりの対策を実施しています。これについては、平成18年9月に水俣病発生地域環境福祉推進室を設置し、その充実に取り組んでいます。
II 水俣病問題に係る懇談会の提言
平成17年4月に環境大臣の懇談会として開催された水俣病問題に係る懇談会では、計13回にわたり議論が重ねられ、18年9月に、「いのちの安全」の危機管理体制、被害者の苦しみを償う制度づくり、「環境・福祉先進モデル地域」の構築等を内容とする提言が取りまとめられました。
III 認定申請等の増加
平成16年の関西訴訟最高裁判決後、19年3月末現在で5,095人(保健手帳の交付による取り下げ等を除く。)の公健法の認定申請が行われ、また、9,066人に新たに保健手帳が交付されています。
このような新たな救済を求める者の増加を受け、平成18年5月、与党(自由民主党及び公明党)に水俣病問題に関するプロジェクトチームが設置され、検討が進められています。

(ウ)普及啓発及び国際貢献
公害問題の原点、日本の環境行政の原点ともなった水俣病の教訓を伝えるため、教職員や学生等を対象としたセミナー及び開発途上国を中心とした国々の行政担当者を対象とした研修事業を実施しています。平成18年度は、熊本市でセミナーを開催するとともに、タイ、インドネシア、中国等から行政担当者を招聘し、水俣・新潟地域で研修を行いました。

ウ イタイイタイ病
富山県神通川流域におけるイタイイタイ病は、昭和30年10月に原因不明の奇病として学会に報告され、43年5月、厚生省が、「イタイイタイ病はカドミウムの慢性中毒によりまず腎臓障害を生じ、次いで骨軟化症を来し、これに妊娠、授乳、内分泌の変調、老化及び栄養としてのカルシウム等の不足等が誘引となって生じたもので、慢性中毒の原因物質としてのカドミウムは、三井金属鉱業株式会社神岡鉱業所の排水以外は見当たらない」とする見解を発表しました。44年12月、神通川流域が救済法の施行とともに指定地域として指定され、49年9月には、救済法を引き継いだ公健法により第二種地域に指定されました。平成18年12月末現在の公健法の被認定者数は4人(認定された者の総数191人)です。また、富山県は指定地域における要観察者1人(18年12月末現在)について経過を観察しています。

エ 慢性砒素中毒症
宮崎県土呂久地区及び島根県笹ヶ谷地区における慢性砒素中毒症については、平成18年12月末現在の公健法の被認定者数は、土呂久地区で53人(認定された者の総数173人)、笹ヶ谷地区で4人(認定された者の総数21人)となっています。

(2)アスベスト(石綿)健康被害の救済
石綿による健康被害の特殊性にかんがみ、健康被害を受けた方及びその遺族に対し、医療費等を支給するための措置を講ずることにより、健康被害の迅速な救済を図る、石綿による健康被害の救済に関する法律(平成18年法律第4号)が平成18年3月に一部施行されました(図7-6-2)。救済給付に係る申請等については、18年度末時点で3,925件を受け付け、うち2,389件が認定、281件が不認定、387件が取り下げられています。

図7-6-2石綿による健康被害の救済に関する法律の概要

救済給付に必要な費用は、石綿が産業基盤となる施設、設備、機械等に広く使用され、およそ事業活動を営むすべての者が石綿の使用による経済的利得を受けてきたと考えられることから、国及び地方公共団体のほか、労働者を雇用するすべての事業主が負担することとされています。事業主による負担については、平成19年度からの徴収に向け、18年12月20日に関係法令を公布しました。

(3)環境保健に関する調査研究
ア 環境保健施策基礎調査等
(ア)大気汚染による呼吸器症状に係る調査研究
引き続き、全国38地域で3歳児を、37地域で6歳児を対象とした環境保健サーベイランス調査を実施しました。また、16年度調査分のデータ解析を行い、取りまとめた結果を18年12月に公表しました。本調査結果によると、ぜん息の有症率の変化と大気汚染物質の濃度の変化に関連性は認められませんでした。
幹線道路沿道の局地的大気汚染と呼吸器疾患との関連を調べるため、局地的大気汚染と健康影響に関する大規模な疫学調査(そら(SORA)プロジェクト)として、既に実施している学童コホート調査に加え、平成18年度から幼児症例対照調査を開始しました。
機構においても、大気汚染の影響による健康被害の予防に関する調査研究を行いました。

(イ)新たな環境要因による健康影響に関する調査研究
花粉症対策には、発生源対策、花粉量予測・観測、発症の原因究明、予防及び治療の総合的な推進が不可欠なことから、関係省庁が協力して対策に取り組んでいます。スギ・ヒノキ花粉総飛散量予測及び花粉終息予測等の公表並びに花粉症と環境因子に関する調査研究を実施しました。また、これまでの調査研究の成果等を取りまとめ、花粉症のメカニズムや対策、保健指導のあり方等を盛り込んだ保健指導マニュアルを作成し、その普及に努めました。さらに、「花粉観測システム(愛称:はなこさん)」により花粉の飛散状況を環境省ホームページ上でリアルタイムで公開しています(http://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/index.html)。
電磁環境の健康影響については、引き続き調査研究を進めました。また、高温熱環境等の健康影響に関しては「熱中症保健指導マニュアル」及び「紫外線保健指導マニュアル」を作成し、その普及に努めました。
本態性多種化学物質過敏状態(いわゆる化学物質過敏症)に関連して、一般環境中の化学物質に関する極微量分析法の開発を実施しました。

(ウ)その他
公健法の被認定者の高齢化に伴い生ずる、認定疾病に起因する療養生活上の問題に対応するため、生活機能向上のためのプログラムの開発のための調査研究を行いました。

イ 重金属等の健康影響に関する総合研究
メチル水銀の毒性メカニズム等、いまだ十分に解明されていない課題も残っており、また、低濃度メチル水銀へのばく露による健康影響等の新しい課題も出てきています。これらに対応するため、基礎的研究及び応用的研究の推進、情報収集・整理等により、水俣病やメチル水銀に関する最新の知見の収集に努めました。
イタイイタイ病の発症の仕組み及びカドミウムの健康影響については、なお未解明な事項もあるため、基礎医学的な研究や富山県神通川流域の住民を対象とした健康調査などを引き続き実施し、その究明に努めました。

ウ 石綿による健康影響等に関する調査
石綿の健康影響に関する実態調査を、大阪府及び佐賀県において実施しました。また、平成17年度の調査においてばく露経路が特定できなかった者が相対的に多かった兵庫県尼崎市においては、より確度の高い疫学的調査を開始しました。さらに、石綿を取り扱っていた事業場周辺においては一般環境を経由した石綿ばく露による健康被害の可能性があるため、大阪府泉南地域、兵庫県尼崎市及び佐賀県鳥栖市において、健康リスク調査として、住民を対象とした胸部X線及びCT検査を実施し、石綿ばく露の地域的広がりや石綿関連疾患の発症リスクに関する実態把握を行いました。

2 公害紛争処理等


(1)公害紛争の処理状況
公害紛争については、公害等調整委員会及び都道府県に置かれている都道府県公害審査会等が公害紛争処理法(昭和45年法律第108号)の定めるところにより処理することとされています。公害紛争処理手続には、あっせん、調停、仲裁及び裁定の4つがあります。
公害等調整委員会は、裁定を専属的に行うほか、重大事件(水俣病やイタイイタイ病のような事件)や広域処理事件(航空機騒音や新幹線騒音)などについて、あっせん、調停及び仲裁を行い、都道府県公害審査会等は、それ以外の紛争について、あっせん、調停及び仲裁を行っています。

ア 公害等調整委員会に係属した事件
平成18年中に公害等調整委員会が受け付けた公害紛争事件は6件で、これらに前年から繰り越された11件を加えた計17件(調停事件1件、責任裁定事件8件、原因裁定事件7件、義務履行勧告事件1件)が18年中に係属しました。その内訳は、表7-6-3のとおりです。このうち18年中に終結した事件は4件で、残り13件が19年に繰り越されました。

表7-6-3公害等調整委員会に係属した事件

新たに受け付けた主な事件としては、茨城県神栖市で有機ヒ素化合物により汚染された地下水の飲用を通じて健康被害を生じたとして、住民が国及び同県に対して損害賠償を求めている『神栖市におけるヒ素による健康被害等責任裁定申請事件』や、和歌山県美浜町で同県が設置・運営する椿山ダムから放出される大量の濁質を含む放流水により漁業被害を生じたとして、損害賠償を求めている『和歌山県美浜町における椿山ダム放流水漁業被害原因裁定申請事件』などがあります。

イ 都道府県公害審査会等に係属した事件
平成18年中に都道府県の公害審査会等が受け付けた公害紛争事件は34件で、これに前年から繰り越された43件を加えた計77件(調停事件75件、義務履行勧告申出事件2件)が18年中に係属しました。このうち18年中に終結した事件は34件で、残り43件が19年に繰り越されました。

ウ 公害紛争処理に関する連絡協議
公害紛争の適切な処理を図るため、公害紛争処理連絡協議会、公害紛争処理関係ブロック会議等を開催し、公害等調整委員会及び都道府県公害審査会等の相互の情報交換・連絡協議に努めました。

(2)公害苦情の処理状況
ア 公害苦情処理制度
公害紛争処理法においては、地方公共団体は、関係行政機関と協力して公害に関する苦情の適切な処理に努めるべきものと規定され、公害等調整委員会は、地方公共団体の長に対し、公害に関する苦情の処理状況について報告を求めるとともに、地方公共団体が行う公害苦情の適切な処理のための指導及び情報の提供を行っています。

イ 公害苦情の受付状況
平成17年度に全国の地方公共団体の公害苦情相談窓口で受け付けた苦情件数は95,655件で、前年度に比べ1,334件増加しました(対前年度比1.4%増)。
このうち、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下及び悪臭のいわゆる「典型7公害」の苦情件数は66,992件で、前年度に比べ1,457件増加しました(対前年度比2.2%増)。
一方、廃棄物投棄など「典型7公害以外」の苦情件数は28,663件で、前年度に比べて123件減少しました(対前年度比0.4%減)。種類別に見ると、廃棄物投棄が14,424件(「典型7公害以外」の苦情件数の50.3%)で、前年度に比べて311件増加(対前年度比2.2%増)、その他が14,239件で、前年度に比べて434件減少しました(対前年度比3.0%減)。

ウ 公害苦情の処理状況
平成17年度の典型7公害の苦情処理件数のうち、受け付けた地方公共団体が処理した件数の76.2%が、1か月以内に処理されました。

エ 公害苦情処理に関する指導等
地方公共団体が行う公害苦情の処理に関する指導などを行うため、公害苦情の処理に当たる地方公共団体の担当者を対象とした公害苦情相談研究会及び公害苦情相談員等ブロック会議を開催しました。

3 環境犯罪対策


(1)環境犯罪対策の推進
環境犯罪について、特に廃棄物の不法投棄事犯等を重点対象として、組織的・広域的な事犯、暴力団が関与する事犯、行政指導を無視して行われる事犯等を中心に取締りを推進しています。平成18年中に検挙した環境犯罪の検挙件数は6,715件(17年中は5,541件)で、過去5年間における環境犯罪の法令別検挙件数の推移は、表7-6-4のとおりです。

表7-6-4環境犯罪の法令別検挙件数の推移


(2)廃棄物事犯の取締り
平成18年中に廃棄物処理法違反で検挙された5,918件(17年中は5,039件)の態様別検挙件数は、表7-6-5のとおりです。このうち不法投棄事犯が65.9%(17年中は65.6%)、また、産業廃棄物事犯が23.7%(16年中は31.1%)を占めています。

表7-6-5廃棄物処理法違反の態様別検挙件数


(3)水質汚濁事犯の取締り
平成18年中の水質汚濁防止法違反に係る水質汚濁事犯の検挙数は5件(17年中は6件)でした。

(4)検察庁における公害関係法令違反事件の受理・処理状況
平成18年中における罪名別公害関係法令違反事件の通常受理・処理人員は、表7-6-6のとおりです。受理人員は、廃棄物処理法違反の7,803人が最も多く、全体の約92.5%を占め、次いで、海洋汚染防止法違反(380人)となっています。処理人員は、起訴人員が5,528人、不起訴人員が2,582人となっており、起訴率は約68.2%となっています。起訴人員のうち公判請求された者は836人、略式命令請求された者は4,692人となっています。最近5年間に検察庁で取り扱った公害関係法令違反事件の受理・処理人員の推移は、表7-6-7のとおりです。18年中の通常受理人員は8,434人で、前年より1,211人増加しています。

表7-6-6罪名別公害関係法令違反事件通常受理・処理人員


表7-6-7公害関係法令違反事件通常受理・処理人員の推移



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