1 調査研究及び監視・観測等の充実
(1)研究開発の総合的推進
環境分野は、第2期科学技術基本計画において、日本の研究開発の重点分野の一つとされています。分野別推進戦略を踏まえ、重点課題として選定された地球温暖化研究、ゴミゼロ型・資源循環型技術研究、自然共生型流域圏・都市再生技術研究、化学物質リスク総合管理技術研究、地球規模水循環変動研究の5課題については、環境研究イニシャティブ研究会合等を開催し、省際的な研究開発の推進を図りました。
総合科学技術会議では、「環境研究開発推進プロジェクトチーム」において、上記の各重点課題の最新動向や関係府省における施策の取組・連携状況、不必要な重複及び実施中の施策の効果等について調査検討を行いました。また、今後の地球観測に関するわが国における取組の基本的な考え方を明確にするため、平成16年12月に「地球観測の推進戦略」を取りまとめました。
(2)環境省関連試験研究機関の整備と研究の推進
ア 独立行政法人国立環境研究所
環境大臣が定めた5年間の中期目標(平成13〜17年度)とこれを達成するための中期計画に基づき、重点研究分野を中心に、特に重要な以下の課題についてはプロジェクトを形成し、環境研究の推進を図りました。
1) 地球温暖化の影響評価と対策効果
2) 成層圏オゾン層変動のモニタリングと機構解明
3) 内分泌かく乱化学物質及びダイオキシン類のリスク評価と管理
4) 生物多様性の減少機構の解明と保全
5) 東アジアの流域圏における生態系機能のモデル化と持続可能な環境管理
6) 大気中微小粒子状物質(PM2.5)・ディーゼル排気粒子(DEP)等の大気中粒子状物質の動態解明と影響評価
また、環境行政の新たなニーズに対応した以下の政策対応型調査・研究を2つの研究センターで実施しました。
1) 循環型社会形成推進・廃棄物管理に関する調査・研究
2) 化学物質環境リスクに関する調査・研究
重点研究分野をはじめ、長期的視点に立った基盤研究や創造的・先導的調査研究を6つの研究領域等で実施しました。
研究の効率的実施や研究ネットワークの形成に資するため、環境研究基盤技術ラボラトリーにおいて環境標準試料の作製等を実施するとともに、地球環境研究センターにおいて地球環境の戦略的モニタリング等を実施し、知的研究基盤の整備に取り組みました。
環境情報センターにおいては、環境の保全に関する国内外の資料の収集、整理及び提供を行い、国民等への環境に関する適切な環境情報の提供サービスを実施しました。
イ 国立水俣病総合研究センター
国立水俣病総合研究センターにおいては、水銀汚染問題に関する日本の経験の蓄積を活用し、国際共同研究等の国際協力に貢献していくなどの施策を実施しました。
(3)公害防止等に関する調査研究の推進
環境省に一括計上した平成16年度の関係行政機関の試験研究機関(国立機関及び独立行政法人)の地球環境保全等に関する研究のうち、公害の防止等に関する各府省の試験研究費は、総額16億4,360万円でした。8府省25試験研究機関等において、環境の現状の的確な把握、環境汚染による環境変化の機構の解明、環境汚染の未然防止、汚染された環境の修復等の領域にわたり、70の試験研究課題を実施しました。その内容は表7-6-1のとおりです。
(4)地球環境研究に関する調査研究等の推進
地球環境の保全を科学的知見に基づき適切に推進し、国際的な取組に貢献するため、平成16年8月に地球環境保全に関する関係閣僚会議が策定した「平成16年度地球環境保全調査研究等総合推進計画」等を踏まえつつ、総合的な調査研究等を実施しました。
関係府省の国立試験研究機関、独立行政法人、大学、民間研究機関等広範な分野の研究機関、研究者の有機的連携の下「地球環境研究総合推進費」により、学際的、国際的観点を重視しつつ地球環境研究を推進しました、平成16年度は、戦略的な研究課題として、脱温暖化社会に向けた中長期的政策オプションの多面的かつ総合的な評価・予測・立案手法の確立に関する総合研究に着手しました。中長期的視点から着実に推進すべき、関係行政機関の試験研究機関又は関係行政機関による研究については、「地球環境保全試験研究費」により、地球温暖化の防止に資する研究を行いました。また、海色監視衛星の観測データを利用して、沿岸域における赤潮・青潮等の常時監視を行い閉鎖性水域における水環境の改善に資する調査研究を推進しました。16年度に実施した主な調査研究は表7-6-2のとおりです。
(5)基礎的・基盤的研究の推進
次世代の環境保全技術の基礎となる「知的資産」を蓄積するため、「環境技術開発等推進費」の「基礎研究開発課題」において、「空間明示モデルによる大型哺乳類の動態予測と生態系管理に関する研究」等計5課題の研究に対して、また、「自然共生型流域圏・都市再生技術課題」において、主要都市・流域圏の自然共生化に必要なシナリオの設計・提示を目指した2課題の研究に対して助成し、研究の推進を図りました。
(6)地球環境に関する観測・監視
衛星による地球環境観測については、熱帯降雨観測衛星(TRMM)や米国地球観測衛星(Aqua)の改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR−E)から取得された観測データを、地球環境の観測・監視や環境問題の原因解明に活用しました。環境観測技術衛星(みどりII)から得られた観測データについては、最大限活用すべくデータの精度の向上を図るとともに、オゾン層破壊の現象解明等に活用しました。また、陸域観測技術衛星(ALOS)、環境省、国立環境研究所及び宇宙航空研究開発機構の共同による温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)搭載用センサ及び、全球降水観測(GPM)計画に貢献する二周波降水レーダ(DPR)の研究開発を行いました。
海洋における観測については、海洋地球研究船「みらい」等を用いた観測研究、観測技術の研究開発を推進しました。第46次南極地域観測隊が昭和基地を中心に、海洋、気象、電離層等の定常的な観測のほか、約100万年前の気候や二酸化炭素濃度を解明するために、ドームふじ基地において氷床下3,000mの氷床コアの採取を目指す第二期南極氷床深層掘削計画(3年計画の2年目)など、各種のプロジェクト研究観測とモニタリング研究観測を実施しました。
地球変動予測研究については、世界最高性能のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を活用した地球温暖化予測モデル開発等を推進しています。
地球規模の変動に大きく関わっている海洋における観測について、海洋の観測データを飛躍的に増加させるため、海洋自動観測フロート約3千個を全世界の海洋に展開し、地球規模の高度海洋観測システムの構築を目指すARGO計画を推進しています。
GPS装置を備えた検潮所において、精密型水位計による地球温暖化に伴う海面水位上昇の監視を行い、海面水位監視情報の提供業務を継続しました。また昨年に続き、国内の影響・リスク評価研究の推進に向けて、日本付近のより詳細な気候変化の予測結果を更新・提供したほか、それらの結果を取りまとめ、「地球温暖化予測情報」として発表しました。
地上観測としては、環境省及び気象庁により、それぞれ沖縄県波照間島や東京都南鳥島等で温室効果ガスの測定を行っています。さらに、気象庁ではWMO/GAW計画の一環として、温室効果ガス、CFC等オゾン層破壊物質、オゾン層、有害紫外線等の定常観測、エーロゾルライダーを用いたエーロゾルの高度分布の測定を引き続き実施しました。また、黄砂に関する情報を発表しています。
CLIMAT報の円滑な国際交換を推進するため、各国の気象局の担当者と直接連絡をとり技術的な問題について解決を目指すGSNデータのためのWMO基礎組織委員会(CBS)リードセンター業務を実施しています。
平成16年度に実施した主な観測・監視は表7-6-3のとおりです。
(7)廃棄物処理等科学研究の推進
総合科学技術会議の「平成16年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」で重点を置くとされた研究イニシアティブのうち、「ごみゼロ型・資源循環型技術研究」を推進するため、競争的研究資金を活用し広く課題を募集し、51件の研究事業及び12件の技術開発事業を実施しました。
研究事業については、「循環型社会形成推進のための社会システム分析・評価研究」「生産・消費段階における廃棄物発生抑制・資源循環システム化技術研究」「安全、安心のための廃棄物管理技術に関する研究」を重点テーマとし、廃棄物をとりまく諸問題の解決とともに循環型社会の構築に資する研究を推進しました。
技術開発については、「廃棄物適正処理技術」「廃棄物リサイクル技術」「循環型設計・生産技術」を公募分野とし、次世代を担う廃棄物処理等に係る技術の開発を図りました。
文部科学省では、廃棄物の無害化処理と再資源化を図るとともに、影響・安全性評価及び社会システム設計に関する研究開発を産学官の連携で行う「一般・産業廃棄物・バイオマスの複合処理・再資源化プロジェクト」を開始しました。
(8)環境保全に関するその他の試験研究
そのほかにも、各府省庁で以下のとおり環境保全に関する試験研究に取り組みました。 環境省では、ナノテクノロジーを環境分野に活用した環境モニタリング・健康生態影響評価・環境汚染防止対策に関する技術開発を行いました。
内閣府では、温室効果ガス削減の国際的な枠組みの問題、自動車等の個別排出源の対策などの問題等について、国内外の研究機関による国際共同研究を実施しました。その結果は(http://www.esri.go.jp/)に掲載しています。また、現状の日・米・EUの温暖化政策の違いを説明するため、国際的な枠組みとしての京都議定書への批准決定や国内の温暖化政策決定における圧力集団の行動原理を理論的・実証的に分析する研究をしました。
警察庁では、東京都と神奈川県の都県境付近をモデル地域として、「環境対応型交通管理プロジェクト」を、引き続き推進しました。
総務省では、地球温暖化対策と経済成長の両立を図る観点からユビキタス技術に着目し、「ユビキタスネット社会の進展と環境に関する調査研究会」を開催し、平成17年3月にユビキタス技術の活用による環境負荷を低減するモデルシステムの開発をはじめとした各種施策等について、報告書を取りまとめました。
また、電磁波を利用した地球環境観測技術の研究については、GPM搭載降水レーダの開発、宇宙からの雲観測技術、宇宙からの風観測のためのライダ技術、宇宙からの大気微量成分の三次元観測技術、極域大気環境の総合計測技術に関する国際共同研究、高分解能映像レーダによる地表面の高精度観測技術、亜熱帯環境計測技術の研究開発を実施しました。
農林水産省では、環境負荷を低減し、持続的農業を推進するための革新的技術の開発として、バイオマスをプラスチックや新エネルギー等に変換・利用する技術の開発、地球温暖化が農林水産業に与える影響の評価や温室効果ガスの排出削減・固定化技術の開発、流域圏における水・物質循環の機構及び農林水産生態系の機能の解明による流域圏環境の総合的管理手法の開発、野生鳥獣による農林業被害を軽減する管理技術の開発、農林水産生態系における有害化学物質の動態把握と生物・生態系への影響評価と分解・無毒化等を通じたリスク低減技術の開発、アジアモンスーン地域における水循環変動が食料生産、特に稲作に及ぼす影響を評価し、予測する技術の開発を実施しました。
経済産業省では、植物機能や微生物機能を活用して工業原料を生産する技術開発、廃棄物や汚染物質の生分解・処理技術の開発を実施しました。特に、生物機能を活用した物質生産に係る実用化開発を推進する観点から、「バイオプロセス実用化開発プロジェクト」に着手しました。また、これらの開発を支える基盤整備のための生物遺伝資源の収集に係る技術開発や、バイオテクノロジーの産業利用における安全管理充実のための遺伝子組換え体のリスク管理に関する基盤研究等を実施しました。さらに、愛・地球博における、バイオマス由来プラスチックの利活用の実証を開始しました。
国土交通省では、循環型社会及び安全な環境の形成のための建築・都市基盤整備技術の開発、シックハウス対策技術の開発、建築物の総合的な環境性能の評価手法の開発、自然共生型国土基盤技術の開発、社会資本ストックの管理運営技術の開発、地球温暖化防止施策の施策評価手法を確立しようとする地球温暖化に対応した国土保全支援システムに関する研究、微生物群制御による内分泌かく乱化学物質の分解手法に関する研究等について実施しました。
循環型社会の構築に向け、下水汚泥の建設資材利用や、他の有機質廃材と組み合わせた有効利用等の技術開発を推進しました。下水道技術開発プロジェクト(SPIRIT21)においては、下水汚泥有効利用の新技術開発を図る下水汚泥資源化・先端技術誘導プロジェクト(LOTUS Project)を平成15年12月に立ち上げ、16年12月に11技術(15団体)を開発技術として選定しました。
また、環境への負荷が小さく、新たな海洋空間の創造が可能な超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)の普及促進のための調査を行いました。さらに、窒素酸化物を大幅に削減できる環境低負荷型舶用推進プラント(スーパーマリンガスタービン)の実用化の促進を図るとともに、内航海運の活性化と物流における環境負荷低減に大きく貢献する次世代内航船(スーパーエコシップ)の研究開発、外航海運分野からの環境負荷(バラスト水問題等)の低減と採算性を両立した低環境負荷型外航船(グリーンシップ)の研究開発、船舶からの大気汚染の防止を図ることを目的とした活性炭素繊維(ACF)を活用した高機能排煙処理システム等新たな環境負荷低減技術の開発を実施しました。