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第1節 

1 共通的な施策の展開

 地域地域における多様な生態系の健全性を維持・回復するとともに、様々な場の中で自然と人間との豊かなふれあいを保ち、自然と人間との共生を確保するため、国土空間の自然的社会的特性を踏まえつつ、以下に掲げる施策を積極的に展開する。

(1)原生的な自然の保全

ア 原生自然環境保全地域の保全
 人の手が加わっておらず、原生の状態が保たれている原生自然環境保全地域の自然環境の適正な保護・管理を図るため、引き続き現況把握調査を行う。

イ 世界遺産地域の保全
 世界遺産一覧表に記載された屋久島、白神山地について、入山者の急増に対応した保全対策を講じるほか引き続き適切な保護・管理を図る。

ウ 自然公園の特別保護地区の保全
 自然公園の中でも特にすぐれた景観を有する特別保護地区において、適正な保護管理を図る。

エ 森林生態系保護地域の保全
 主要な森林帯を代表する原生的な天然林等を保存するため国有林野内に設定した森林生態系保護地域について、適正な保護・管理を図る。

(2)すぐれた自然の保全

ア 自然環境保全地域の保全
 自然環境の適正な保全を図るため、自然環境保全基本方針に則り、自然環境保全地域の指定を進める。また、すぐれた自然環境の維持に資するため、引き続き自然環境に係る現況把握及びモニタリングのための調査を実施する。

イ 自然公園の指定、公園区域及び公園計画の見直し等
(ア)公園の指定、公園区域及び公園計画の見直し
 国立公園を取り巻く社会条件等の変化に対応するため、自然保護の強化を基調として、公園区域及び公園計画の全般的な見直し(再検討)を行い、再検討を終了した公園については、おおむね5年ごとに公園区域及び公園計画の見直し(点検)を行う。また、国定公園については、都道府県から指定の要望のある地域について検討を行い、再検討等の作業を進める。
(イ)乗入れ規制地域の指定
 車馬若しくは動力船を使用し、又は航空機を着陸させることを規制する区域を必要に応じ国立・国定公園において追加指定を行う。

ウ 自然公園における自然保護
(ア)自然公園の管理の充実
 国立公園のそれぞれの地域の特性に応じた風致景観を維持するため管理計画の策定を推進し、自然公園法に基づく許可、認可等の適正な運用を図る。
 また、余暇の増大、交通手段の発達、探勝方法の変化、自然保護の強化の要請等の社会条件の変化に対応した国立公園のきめ細かな管理を進める。
 さらに、管理体制の強化を引き続き進めるとともに、(財)自然公園美化管理財団等の民間団体の育成に努める。
(イ)自然公園における環境保全対策
a 環境共生型施設の整備
 自然公園等において、二酸化炭素の吸収源である植生の復元、ソーラーなど自然エネルギーを利用した地球環境に優しい施設の整備を推進する。
b 自然景観修復事業等
 自然環境保全修復事業を含む自然公園核心地域総合整備事業(緑のダイヤモンド計画)や自然景観修復事業を実施する。
c 自然公園における美化清掃
? 国立公園の集団施設地区等については、関係道県及び市町村の協力の下に清掃活動を実施する。
? 自然公園クリーンデーにおける各種行事の実施等、美化思想の普及に努める。
d 特殊植物等の保全事業等
 国立公園に生育している貴重な植物の保護、復元を図るため、また、貴重なサンゴ礁景観をオニヒトデ等から守るため、調査、試験施工、モニタリング、又は駆除等事業を実施する。
e 特定国立公園重点管理等事業
 自然公園の特に優れた自然環境を有する地域において、保全のための事業、調査や、土地所有者の協力を得て管理事業を実施する。
(ウ)自然保護のための民有地買上げの推進
 優れた自然環境を保全していくため、引き続き民有地買上げの推進を図る。

エ 生息地等保護区
 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律に基づき国内希少野生動植物種の生息・生育地として重要な地域である生息地等保護区の指定を進め、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存を図る。

オ 鳥獣保護区
 鳥獣の保護を図る地域として鳥獣保護区を設定し、さらに必要に応じて特別保護地区を指定することとしている。また、新たな国設鳥獣保護区の設定及び特別保護地区の指定を進め、都道府県においても、第8次鳥獣保護事業計画に基づき都道府県設鳥獣保護区の設定等を引き続き行うよう助言する。

カ 史跡、名勝、天然記念物
 動植物種及び生態系を中心とした我が国を代表する自然を保全するため、文化財(史跡、名勝、天然記念物)保護に係る現状変更等の許可及び史跡等の公有化等の各種制度を活用する。

キ 保安林等
 保安林については、優れた自然環境の保全を含む公益的観点から、計画的な配備、適正な管理等を行う。国有林野においては、引き続き森林生物遺伝資源保存林、植物群落保護林、特定動物生息地保護林等の設定を行う。また、入林の影響等により植生の劣化がみられる保護林については、植生の回復のための事業を行う等、その適切な保護管理を行う。

ク 都市の緑地保全
 都市における緑地を保全するため、都市緑地保全法に基づき緑地保全地区の指定を推進するとともに、地方公共団体及び緑地管理機構による土地の買入れ等を推進する。また、首都圏近郊緑地保全法及び近畿圏の保全区域の整備に関する法律に基づき指定された近郊緑地保全区域内において、特に枢要な部分を構成している緑地は、近郊緑地特別保全地区の指定を推進するとともに、地方公共団体及び緑地管理機構による土地の買入れ等を推進する。さらに、風致に富むまちづくり推進の観点から風致地区指定の推進を図る。

ケ ナショナル・トラスト運動による保全
 全国各地において推進されているナショナル・トラスト活動は、国民自らが募金活動を通じて土地の買い取り等を行い貴重な自然環境等を保全していくもので、国民主体の自然保護活動として極めて有意義なものであり、引き続き普及啓発等の施策を通じその一層の推進を図る。

(3)自然とのふれあいの確保

ア 利用のための施設の整備
(ア)国立・国定公園の利用施設
a 自然公園核心地域総合整備事業(緑のダイヤモンド計画)
 国立・国定公園の核心となる特に優れた自然景観を有する広範な地域において、自然の保全や復元のための整備を一層強化するとともに、高度な自然学習や自然探勝のフィールドの面的な整備を引き続き推進する。
b エコ・ミュージアム整備事業
 国立・国定公園の主要利用拠点において、子供たちがいきものや自然の植生などとふれあい、自然を学ぶことができる自然ふれあい体験のための中核施設の整備を引き続き推進する。
c ふれあい自然塾整備事業
 国立・国定公園の大自然の中での暮らし、学び、冒険を通して、自然や地域との共生を体験するための参加・自主活動型の自然教育の拠点を、ソフト事業と連携を図りつつ整備する。
d 環境共生推進特別整備事業(共生プラン21)
 自然公園等において、二酸化炭素吸収源である植生の復元、自然エネルギーを利用した環境共生施設など地球環境にやさしい施設を整備する。
e 基幹整備
 国立・国定公園において、自然環境の保全に配慮しつつ、自然とのふれあいを求める国民のニーズにこたえ、安全で快適な利用を推進するため、歩道、野営場、園地等利用の基幹となる施設の整備を引き続き推進する。また、公衆トイレや野営場のうち緊急に改善を要するものについては、引き続き計画的な再整備を行う。
(イ)国民休暇村
 国立・国定公園の優れた自然環境の中で健全な野外活動を楽しむ等自然とのふれあいを求める国民の志向はますます増大すると予測されるため、国民休暇村において自然に親しむための各種施設の整備を引き続き推進する。
(ウ)ふるさと自然ネットワーク
 身近な自然を活用し、いきものとふれあい、自然の中で憩い、国民が自然との共生を実感できる拠点(?ふるさといきものふれあいの里、?ふるさと自然のみち、?ふるさとふれあい水辺、?ふるさと自然塾、?ふれあい・やすらぎ温泉地)の整備を「ふるさと自然ネットワーク」として推進する。
(エ)長距離自然歩道
 中部北陸自然歩道及び近畿自然歩道の整備を図る。また、利用情報提供、自然学習、簡易宿泊等の機能を備えた利用拠点(ウォーカーズ・パーク)の整備推進を図る。
(オ)ふるさと自然公園国民休養地
 都道府県立自然公園内において、都市住民が身近な自然とふれあい、自然を理解するために必要な博物展示施設、園地、歩道等を総合的に整備する。
(カ)国民宿舎、国民保養センター
 国民の余暇活動の多様化を迎え、国民宿舎に対する国民の要求はますます多様化することが予想されるため、設置主体である地方公共団体に対し、施設の整備について助成及び助言を行う。
 国民保養センターは主として地域住民の手近な日帰り休養施設として親しまれ活用されており、設置主体である地方公共団体に対し、施設の整備について助成及び助言を行う。
(キ)保健保安林、レクリエーションの森
 都市近郊等における生活環境保全機能及び保健休養機能の高い優れた森林である保健保安林等の安全快適な利用の促進を図るための施設整備につき助成する等のほか、環境保全保安林整備事業を推進する。また、国民が自然に親しみ得る森林環境の整備を行う森林空間総合整備事業等につき助成する。
 国有林野については、自然休養林等のレクリエーションの森において、森林及び施設の整備等を行うとともに、利用者にレクリエーションの森の整備等への協力を求める「森林環境整備推進協力金」制度を推進する。
 また、スポーツ施設、保健休養施設等の総合的な整備により、人と森林とのふれあいの場を創造し、併せて地域の振興等に資するヒューマン・グリーン・プラン及び家族等が気軽に自然とふれあえる場を提供する「森林ふれあい基地づくり整備モデル事業」を推進する。
 また、国民が中心となった森林の整備等の活動の場として「ふれあいの森」の設定を推進する。
(ク)森林の新たな利用の推進
 森林と人との豊かな関係を構築し、環境との調和や資源循環利用に果たす森林・林業・山村の役割への国民的理解の醸成を図る観点から、森林環境教育の推進、身近な森林における多様な活動の展開、森林づくりへの国民の直接参加、すべての世代の健康づくり等多様な目的に応じた森林・施設の整備と森林の新たな利用を推進する。
 具体的には、平成14年度からの完全学校週5日制等の導入に対応して森林環境教育、林業体験学習の場となる森林・施設の整備、共通プログラムの開発・普及、指導者の育成等を推進するとともに、子供達の入門的な森林体験活動を促進する「森の子くらぶ活動推進プロジェクト」を実施する。
 さらに、高齢化の進展に対応して森林浴等国民の健康の維持増進に資する観点から、森林総合利用施設等において、年齢や傷害の有無にかかわらず多様な利用方法の選択肢を提供するユニバーサルデザイン手法の導入を図る。
(ケ)家族キャンプ村
 家族キャンプ村については、周辺の観光レクリエーション施設や観光資源、自然・文化資源との有機的な連携を図りつつオートキャンプ施設を中核とした整備を推進する。平成12年度においては3地区の整備を継続する。
(コ)少年自然の家
 引き続き国立少年自然の家の施設設備等の充実を図る。
(サ)天然記念物整備活用事業
 天然記念物を国民の身近な存在とすることによって、その保存について国民の理解を一層増進するため、天然記念物の学術的価値や現況等に応じた学習施設・観察施設等を整備する天然記念物整備活用事業を引き続き実施する。
(シ)白砂青松の創出、エコ・コースト事業、海と陸の緑のネットワーク事業
 自然豊かな海岸づくりを推進するため、海岸事業と治山事業を一体的に行い、海と緑の豊かな海岸環境を確保する白砂青松の創出を実施し、また、自然と共生し、生物の豊かな生息環境を保全・創出するために生物の生息・繁殖場所となる砂浜、干潟等の保全や創出を行うエコ・コースト事業及び他の自然環境保全事業との連携を図り陸域から海岸域までのビオトープを形成するための海と陸の緑のネットワーク事業を実施する。

イ 自然解説活動等の展開
 人々の自然への理解を深め、自然に対する愛情とモラルを育成するため、ビジターセンター等において、自然観察会等自然とふれあうための各種の活動を実施する。
 各種の自然とふれあうための施設や自然研究路を活用し、4月29日の「自然とふれあうみどりの日の集い」、7月21日から8月20日の「自然に親しむ運動」、10月の「全国・自然歩道を歩こう月間」等を通じて、自然とのふれあいを積極的に推進する。
 なお、「自然に親しむ運動」の中心行事として室戸阿南海岸国定公園(徳島県海南町)において、第42回自然公園大会を開催する。
 また、全国の国立公園等において、国立公園管理官等の指導・協力の下、小中学生を「子どもパークレンジャー」として、国立公園等のパトロールやマナーの普及、自然環境の維持・復元活動等を行うプログラムを実施することにより、自然とのふれあいを推進し、環境の大切さ及び社会への貢献の心を学ぶ機会を提供する。
 さらに、公益信託自然保護ボランティアファンドを始めとする助成制度の発展・充実に努める。
 国有林野では、森林教室、体験セミナー等を通じて、森林とのふれあいを楽しみながら理解を深める森林倶楽部(森林ふれあい推進事業)等を実施する。

(4)森林、農地、水辺地等における自然環境の維持・形成

ア 森林
 林業生産との調和を図りつつ良好な自然環境を形成するため、森林計画制度に基づき、健全な森林を維持・造成するとともに、林地開発許可制度の適正な運用により、森林の無秩序な開発を防止し、森林の機能の維持に努める。特に保育・間伐の着実な実施、天然力も活用した多様性に富む育成複層林の造成、天然生林の的確な保全・管理等森林資源の質的充実を図るため、森林整備事業を計画的に推進する。
 また、持続可能な森林経営に関する基準・指標に係るデータ等を把握するとともに、その変化を継続的にモニターし、持続可能な森林経営の推進及び地域森林計画等の樹立に資するため、森林資源モニタリング調査を引き続き実施する。
 治山事業においては、豊かな環境づくりに配慮し、荒廃山地の復旧整備、機能の低位な森林の整備等を緊急かつ計画的に推進する。また、自然環境保全・改善効果の高い治山工法を開発、普及するためのモデル事業を実施するとともに、うるおいのある街づくりのため、新たに住民参加による生活環境保全林整備事業を実施する。
 保安林については、適正な配備、維持管理及び整備を推進する。
 一方、森林や林業への理解を深め、国民参加による森林の緑づくり活動を推進するため、森林ボランティアの指導者等の人材育成等を実施する。
 国有林野においては、平成10年10月に成立した国有林野事業改革関連法に基づき、公益的機能の維持増進を旨とした管理経営へ転換することとし、これまで国有林全体の5割を占めていた木材生産林を資源の循環利用林として2割に縮小する一方、山地災害の防止、水源のかん養等の機能を第1に発揮する森林については水土保全林に、森林生態系の保全、保健文化等の機能を第1に発揮する森林については森林と人との共生林に区分し、これらをいわゆる公益林として8割に拡大し、林木だけでなく下層植生や動物相、表土の保全等森林生態系全般に着目し多様な森林の整備を行う。その中で育成複層林・天然生林施業の推進や育成単層林の適正な整備、広葉樹林の積極的な造成等を図るなど、自然環境の維持・形成に配慮した森林施業を推進する。
 さらに、森林病害虫等の防除については、森林病害虫等防除法等に基づき松くい虫を始めとする森林病害虫等に対する各種防除措置等を、環境の保全に配慮しつつ総合的に実施する。
 このほか、保全管理水準の維持・向上を図るべき森林について、森林保全推進員等による森林パトロールや林野火災予防資機材の配備等の保全管理活動、防火森林・防火林道の整備等を行うとともに、全国山火事予防運動の実施等啓発活動を推進する。
 国民参加による森林づくりを図るため、分収林制度を積極的に推進するとともに、「緑と水の森林基金」を活用し、森林資源の整備、利用等に関する総合的な調査研究、普及啓発等を実施する。

イ 農地
 環境保全、自然に恵まれた美しい景観の提供といった農業・農村の持つ公益的機能を発揮させるという観点から適切な形での農地等の維持・形成を図る。ため池等の周辺において生態系空間(ビオトープ)を保全する事業や生活環境の整備等を生態系の保全に配慮しながら総合的に行う事業等に助成し、多様な生物相と豊かな環境に恵まれた農村空間(エコビレッジ)の形成を促進するほか、農村地域に存在する生物の生息・生育地(樹林、池等)と農業用施設とのネットワーク化等、生物多様性を確保するための手法を開発する。
 棚田等の有する国土環境保全、水源のかん養等の多面的な公益的機能を持続的に発揮していくため、棚田等の保全・利活用活動をするため都道府県が行う基金造成に助成するほか、農村地域の美しい景観や環境を良好に整備、管理していくために、地域住民、地元企業、地方公共団体等が一体となって身近な環境を見直し、自ら改善していく地域の環境改善活動(グラウンドワーク)の推進を図るための事業を行う。
 また、自然環境の維持・形成に資するため、農業集落排水事業を促進するとともに、地域の実情に応じ、特定環境保全公共下水道等の整備を進める。
 農業においては、土づくり等を通じ化学肥料、農薬の使用の低減等を図る環境保全型農業の全国的な展開の一層の推進を図るため、たい肥等の活用による土づくりと局所施肥、天敵利用等による化学肥料・農薬の使用の低減を一体的に行う生産方式である「持続性の高い農業生産方式」を導入しようとする農業者に対する金融・税制上の支援措置を講じる。また、この持続性の高い農業生産方式の普及・定着のため、生産方式導入の拠点となる技術確立ほ場や土壌診断施設の整備を進めるとともに、たい肥等を含めた適正使用指針の策定等の地力増進対策の実施、有機性資源の循環利用促進等を重点的に実施し、農業の持つ自然循環機能の維持増進を図る。また、家畜排せつ物の適正な処理と耕種農業におけるたい肥の利用を促進するため、畜産環境保全に関する農家指導及び耕種部門との連携、家畜排せつ物の処理利用施設の整備等を行う。
 市街化区域内農地のうち、生産緑地地区に指定されたものについては、緑地としての機能が維持されるよう、適正な保全を図るほか、都市住民の交流の場としての活用を図るため、市民農園整備事業等により、市民農園の整備を推進する。

ウ 水辺地等
 地域住民が身近に水に接する場である水辺地においては、排水規制、浄化施設の整備等従来からの水質保全施策に加え、住民が水辺環境に関心を持ち、生活の中で水と人との関係を考えていくことができる基盤づくりや、自発的に環境保全に参加できる環境づくりの施策を展開する。特に、カエルやメダカ等の動物やヨシ等の植物が生息できる水辺環境の再生や「名水百選」の中でも水質の悪化等が懸念されるものについて従来の形への復元、地下水涵養施設の設置等による枯渇しつつある井戸・湧水の復活等水辺空間の再生・創造により、住民による自発的な水環境保全活動を支援する。また、望ましい水浴場の整備促進を図るため、全国的に見て特に優れた水浴場を選定し顕彰した「日本の水浴場55選」制度の普及・啓発等を進める。さらに、水浴場及びその周辺地域などにおいて、自然環境を学習・体験する施設、水質浄化施設等を整備することにより、優れた水環境を維持・創出し、人と水や水辺の豊かな自然とのふれあいを促進する目的で、引き続き「ふるさとふれあい水辺整備事業」を実施する。
 また、国民の祝日たる「海の日」を祝賀して、海浜清掃活動等を行っている様々な組織の支援を通じた海と渚の環境美化活動を全国民的な運動に一層広げていくため、総合的な美化計画の策定や指導員の養成等を中心とする漁場環境保全推進事業等を実施する。
 さらに、自然と共生し、海域及び内水面において生態系に配慮した漁場、海岸等の環境の維持・修復及び創造を進めるための基本構想(「マリン・エコトピア21」構想)に基づき、地域を選定し関連対策事業を計画的かつ総合的に実施するための全体計画を策定する。

(5)自然的環境の整備

ア 都市における緑地の整備等
 市町村による緑の基本計画の策定を通じた総合的かつ計画的な緑地の保全及び緑化を推進するとともに、公共空間における緑のストックの増加、公共公益施設等における高木植樹の推進を図る。
 また、土砂災害に対する安全性を高め緑豊かな都市環境と景観を創出するため、「都市山麓グリーンベルト整備事業」を実施し、無秩序な市街化の防止や都市周辺に広がる緑のビオトープ空間の創出に寄与する。

イ 都市公園等
 第6次都市公園等整備7箇年計画に基づき、安全で安心できる都市づくり、長寿・福祉社会への対応、都市環境の保全・改善や自然との共生への対応、広域的なレクリエーション活動や個性と活力のある都市・農村づくりへの対応に重点をおいて、事業費3,748億5,300万円をもって、次の事項に重点をおいて都市公園整備事業の積極的推進を図る。
 国営公園については、全国16か所において整備を進める。
 地域レベルでの市民の環境活動や指導者の育成などの拠点となる環境ふれあい公園の整備、緑の基本計画に基づき、地球温暖化対策の観点から都市のヒートアイランド現象を緩和する緑を創出する地区や、都市内の河川・水路等と一体となって水と緑のネットワークを形成する地区等において、多様な公園緑地の整備や公共公益施設の緑化を行う緑化重点地区総合整備事業等、各種施策に応じた都市公園等の整備を積極的に推進する。また、生態系の保全に係る水と緑のネットワークの整備について、関連事業との連携を図っていく。さらに、環境にやさしい公園緑地の創出を図るため、環境への負荷の低減に資する発電施設等を公園施設として明確に位置づけ、その整備を推進する。

ウ 国民公園及び戦没者墓苑
 皇居外苑、新宿御苑、京都御苑及び千鳥ヶ淵戦没者墓苑を広く国民の利用に供するため、引き続き園内の清掃、芝生・樹木の手入れを行う。また、北の丸の外灯整備、新宿御苑の旧御休所整備等を行う。

エ 河川環境等の整備
(ア)河川
 河川環境に関する基礎情報の収集整備のため、河川並びにダム湖及びその周辺における生物の生息状況の調査、河川空間の利用実態の調査を行う「河川水辺の国勢調査」を実施する。また、河川環境に関する専門的知識を有する地域の方々の参加を得て、きめ細かな河川環境の管理に資する「河川環境保全モニター制度」を実施する。
 河川環境の整備については、河川環境管理基本計画の策定を推進し、これに基づき、適切な河川環境の管理を図るとともに、河川改修の基本を多自然型川づくりとし、災害復旧事業を含めて「自然をいかした川」を目指した河川整備を図る。また、河川の自然環境の適正利用や流域の水循環の適正化を図るための種々の施策を推進する。
 良好なうるおいのある水辺空間の保全並びに形成や、河川水面利用の適正化等を図る「河川環境整備事業」、周辺の景観や地域整備と一体となった河川改修を行う「ふるさとの川整備事業」、河川改修と市街地整備を併せて行う「マイタウンマイリバー整備事業」、堤防の強化と併せ側帯上に植樹を行う「桜づつみモデル事業」、生物の良好な生育環境に配慮した整備を行う「多自然型川づくり」、河川横断施設とその周辺の改良、魚道の設置等により魚類の遡上環境の改善を行う「魚がのぼりやすい川づくり推進モデル事業」、高齢者、障害者に配慮し、すべての人に優しい河川環境を整備する「まほろばの川づくりモデル事業」、劣悪な環境になっている河川を周辺の地域環境にふさわしい本来の川らしい川に再生し、個性ある地域づくりに資するため、質の高い河川整備を行う「河川再生事業」、間伐材の有効利用を通じて、自然を活かした川づくりと森林整備との連携を図る「森を育む川づくり」、河川の災害復旧にあわせて、小規模な河川の機能を保全するため、良好な河川環境の連続性の確保や人と川との豊かなふれあいを図る「特定小川災害関連環境再生事業」を実施する。
(イ)ダム周辺
 ダム貯水池において整地、法面保護、緑化対策等を図り、ダム湖の活用、親水性の向上を図る「ダム湖活用環境整備事業」を16ダムで実施する。また、ダム周辺の魚類の生態系を含む河川環境の回復を目的とした「ダム水環境改善事業」を7ダムで実施する。
 さらに堆砂及び水質改善対策を目的とする貯砂ダムの設置により、常時一定水位で利用可能な湖面を確保し、ダム湖の親水性を向上させる「レクリエーション湖面整備ダム事業」を1ダムにおいて実施する。また、地方公共団体等が主体となるレクリエーション事業と一体となって共同ダム事業を行う「レクリエーション多目的ダム事業」を3ダムにおいて実施する。
(ウ)砂防設備周辺等
 山腹・斜面等の緑化、樹林帯の整備等により荒廃山地、斜面の保全と緑化を図るため、「緑の砂防」を重点的に実施し良好な自然環境の創出を行う。
 また、土砂災害の防止と併せて、都市周辺の渓流では、自然環境との調和を図り、緑と水辺の空間を確保し生活環境の整備を行う「砂防環境整備事業」、周辺環境と比較して著しく劣っている渓流では、景観や親水性の向上、生態系の回復等を図り、良好な渓流環境を再生する「渓流再生事業」を実施するなど個々の渓流の特色を活かした砂防事業を展開し、水と緑豊かな渓流づくりを実施する。
 がけ崩れ対策においては、第4次急傾斜地崩壊対策事業五箇年計画に基づき、貴重な緑の空間である斜面環境・景観を保全しつつ安全度を向上するため、既存樹木を活用した緑の斜面工法による斜面整備や危険な斜面の直下の土地を利用して崩壊土砂を捕捉する緩衝樹林帯整備を推進する。
 また、土砂災害に対する安全性を高め、緑豊かな都市環境と景観を創造するため、「都市山麓グリーンベルト整備事業」を実施し、無秩序な市街化の防止や都市周辺に広がる緑のビオトープ空間の創造を図る。

オ 港湾・漁港における環境の整備
(ア)港湾
 自然環境と調和し、アメニティ豊かな環境と共生する港湾(エコポート)の実現を促進する「エコポートモデル事業」を実施する。また、港湾における環境施策を広く地域社会に明らかにするため、環境改善が急がれる港湾等において港湾環境計画を策定する。
 さらに、生物・生態系に配慮した環境を創造するため、干潟・藻場の回復を図る。
 親水性に富む港湾緑地等の整備を引き続き行うとともに、歴史的港湾施設の保存活用と周辺の環境整備を一体的に進める「歴史的港湾環境創造事業」及び良好な港湾景観の形成を促進する「港湾景観形成モデル事業」を実施する。
 また、公共事業を始めとする多様な整備手法を用いてマリーナ、ボートパーク等を整備し、地域で様々な問題を発生させている放置艇の解消を進め、快適な環境の保全に寄与する。
(イ)漁港
 海水交流機能を有する防波堤等の整備、水産動植物の生息、繁殖が可能な護岸等の整備並びに自然環境への影響を緩和するための海浜等の整備を総合的に行う「自然調和型漁港づくり推進事業」を積極的に展開する。
 また、漁港内の浮遊ごみ等を処理する施設整備等を行う漁港漁村活性化対策事業、漁港区域内の水域における汚泥・ヘドロの除去・覆砂並びに藻場・干潟等の整備等を行う漁港環境整備事業を推進する。さらに、漁港及び周辺水域の水質浄化に資する漁業集落排水施設の整備促進を図る。

カ 海岸における環境の整備
 多様な海洋性レクリエーション需要の増大に伴う海浜利用の進展に対処するとともに、快適で潤いのある海岸環境の保全と創出を図るため、砂浜の保全・復元により生物の生育・生息地を確保しつつ、景観上も優れた人と海の自然のふれあいの場を整備する海岸環境整備事業を実施する。
 また、自然と共生し、生物の豊かな生息環境を保全・創出するため、生物の生息・繁殖場所となる砂浜、干潟、磯、緑地の保全や創出を行うエコ・コースト事業及び他の自然環境保全整備事業との連携を図り、陸域から海岸域までのビオトープを形成するための海と陸の緑のネットワーク事業を実施する。
 また、沿岸域の藻場・干潟の造成、ヘドロのしゅんせつ等を行う沿岸漁場整備開発事業を実施する。

キ 緑化推進運動への取組
 緑化推進連絡会議を中心に国土の緑化に関し、関係行政機関相互の緊密な連絡を図り、以下のような施策を実施し、緑化推進運動の一層の展開と定着化を図る。
? 「小鳥がさえずる森づくり」運動を推進するため、普及啓発活動等を実施するとともに、ゴルファーによる緑化協力運動を推進する。
? 国民の国土緑化思想の高揚を図り、国土緑化を推進するため、全国植樹祭等を開催する事業、学校林整備等のモデル計画の策定、国民の自主的な森林づくりを支援・促進する事業等に助成するほか、国民参加の森林づくりを推進する仕組みの構築とその普及・啓発を推進する。
 また、緑化に関する技術開発、樹木医の養成、巨樹・古木林等衰退しつつあるものにモデル的に緊急治療を実施するとともに、保全技術の確立・普及、水質浄化林のモデル林造成等に助成する。
 さらに、「みどりの日」、「みどりの週間」を中心に、国民各層が参加する緑化活動等の全国的な展開を推進するほか、緑の募金運動、その募金を活用した国内外の森林整備等への取組を推進する。
? 改正後の工場立地法に基づき工場緑化の推進に努めるとともに、都道府県を通じ工場緑化のコンサルティング等を実施する。また、緑地等の整備を行う工場について日本政策投資銀行及び中小企業金融公庫から融資を行う。
? 都市緑化の推進にあたっては、「春季における都市緑化推進運動」期間(4〜6月)、「都市緑化月間」(10月)を中心に、その普及啓発に係る各種活動を実施するほか、緑の相談所(都市緑化植物園)、都市緑化基金の拡充強化等を図る。
 また、特に地球温暖化対策としての都市の緑の重要性について、国民意識の一層の高揚、啓発を図るために、更地からの新たな樹林地の創出について積極的に住民の参加、協力を得る都市公園事業を実施する。

(6)調査研究の推進

 第6回自然環境保全基礎調査として全国の植生の現状を把握する植生調査等を引き続き実施する。また、生物多様性調査として「種の多様性調査」「生態系多様性地域調査」「遺伝的多様性調査」、海域自然環境保全基礎調査として「重要沿岸域生物調査」「海棲動物調査」を引き続き実施する。
 さらに、生物多様性の保全、絶滅のおそれのある野生動植物の保護や鳥獣の保護管理対策の強化に資するため、調査研究を推進する。

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