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第1節 

3 大都市圏等への負荷の集積による問題への対策

(1)窒素酸化物対策

ア 窒素酸化物による大気汚染の現況
(ア)二酸化窒素の年平均値の推移
 平成10年度の二酸化窒素に係る有効測定局(年間測定時間が6,000時間以上の測定局をいう。以下同じ。)は、一般環境大気測定局(以下「一般局」という。)717市町村1,466測定局、自動車排出ガス測定局(以下「自排局」という。)238市町村392測定局であった。
 年平均値の推移は1-1-9図のとおりであり、平成10年度は、一般局0.017ppm、自排局0.031ppmと平成9年度とほぼ同じであり、近年横ばいの状況にある。


(イ)二酸化窒素における環境基準の達成状況
 二酸化窒素に係る環境基準(「1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内又はそれ以下であること」)による評価は、年間における1日平均値のうち低い方から数えて98%目に当たる値(以下「1日平均値の年間98%値」という。)と基準値を比較して行う。
 平成10年度の有効測定局について環境基準の達成状況の推移は、1-1-10図のとおりである。
 1日平均値の年間98%値が環境基準のゾーンの上限である0.06ppm以下の測定局(環境基準達成局)についてみると、平成10年度は、一般局94.3%、自排局68.1%となっており、その割合は平成9年度とほぼ同じであり、大都市地域を中心として環境基準の達成状況は依然低い水準で推移している。
 また、環境基準非達成局の分布について見ると、一般局については、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府及び兵庫県の「自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法」(以下「自動車NOx法」という。)の特定地域を有する都府県に愛知県を加えた大都市地域に分布しており、自排局については、特定地域を有する都府県に加え、石川県、京都府、長崎県等、特定地域以外の8府県にも分布している。


(ウ)二酸化窒素の環境基準に基づき区分されたゾーン内にある地域の動向
 二酸化窒素の日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内にあるとされた地域における二酸化窒素の濃度の動向については、告示第2の2中の現状の水準に当たる昭和52年度及び平成6年度から平成10年度までの状況は1-1-7表のとおりである。


(エ)自動車NOx法特定地域における二酸化窒素に係る環境基準の適合状況
 自動車NOx法に基づき、自動車の交通が集中している地域で、これまでの措置によっては二酸化窒素に係る環境基準の確保が困難であると認められる地域が特定地域として指定されており、同法に基づき各種施策が実施されている。特定地域における二酸化窒素に係る環境基準達成局数の推移は、1-1-11図のとおりである。


(オ)一酸化窒素の年平均値の推移
 平成10年度の一酸化窒素に係る有効測定局数は、一般局717市町村1,466測定局、自排局238市町村392測定局であった。年平均値についてみると、平成10年度は、一般局0.011ppm、自排局0.048ppmと平成9年度と比べてやや低くなっている。

イ 移動発生源対策
(ア)自動車排出ガス対策
 大都市地域を中心とした窒素酸化物による大気汚染の改善が進まない一因として、自動車排出ガスの問題がある。自動車からの排出ガス量が全体として低減しない理由としては、自動車の保有台数の増加(1-1-12図)に伴い、自動車の走行量が大幅に伸びていること等から、従来から進めてきた単体規制の効果が相殺されていることが考えられる。このため、以下の対策を総合的に推進している。


(イ)自動車構造の改善等
 自動車排出ガスについては、昭和48年以降、大気汚染防止法に基づく規制を逐次強化し、自動車からの大気汚染物質の排出量を大幅に削減してきたところである(1-1-8表)。
 最近では、平成元年答申に基づく規制以降における自動車排出ガス低減対策のあり方について、平成8年5月、環境庁長官が中央環境審議会に諮問し、大気部会で審議が開始された。


 平成8年10月には、有害大気汚染物質対策の観点から早急に実施すべき施策についての中間答申が取りまとめられた(第1章第1節4(1)(イ)参照)。
 平成9年11月には、ガソリン・LPG自動車の排出ガス規制強化及び現在未規制の特殊自動車(建設機械、産業機械、農業機械)の排出ガス規制導入を内容とする第二次答申が取りまとめられた。同答申に基づき、ガソリン・LPG自動車については、車種により平成12年から平成14年にかけて規制(規制値・耐久要件・燃料蒸発ガス試験)を強化し、窒素酸化物、炭化水素等の排出量を削減する(1-1-9表)。また、特殊自動車を規制対象に追加し、平成16年から規制を実施する。さらに、同答申は、ガソリン・LPG自動車についての中長期的な対策として、平成17年頃を目途に排出ガスをさらに2分の1以下に低減することを求めており、具体的な規制値・規制時期は改めて決定することとしている。


 平成10年12月には、ディーゼル自動車の排出ガス規制強化を内容とする第三次答申が取りまとめられた。同答申の概要は以下のとおりである。
? ディーゼル自動車について、窒素酸化物及び粒子状物質に重点を置いて排出ガス規制を2段階で強化し、1台当たりの排出量を大幅に削減する。
? 当面の排出ガス低減目標(新短期目標)
 車種により、平成14年から16年にかけて、窒素酸化物で25〜30%、粒子状物質で28〜35%削減する(1-1-10表)。また、使用過程における排出ガス性能の維持のため、耐久走行距離を大幅延長するとともに、車載診断システム(OBD)の装備を義務づける。


? 中長期的な排出ガス低減目標(新長期目標)
 各車種とも、平成19年頃を目途に新短期目標のさらに2分の1程度に排出ガスを低減すること(窒素酸化物、粒子状物質で平成9〜11年規制の6割強の削減)を目標に技術開発を進めることが提言されている。
 大気環境を早急に解決するためには、この新長期規制をできるだけ早期に実施する必要があることから、平成12年2月に環境庁長官から(社)日本自動車工業会会長及び石油連盟会長に対し、排出ガス低減技術の一層の開発促進を要請した。両団体に対しては、通商産業省からも従来より積極的な対応を働きかけ、また、運輸省からも(社)日本自動車工業会に対し同様の働きかけを行ってきたところであり、3月には両団体から、相互に協力して、新長期規制の早期実施に対応するほか、規制実施に先駆けた自主的な粒子状物質(PM)低減対策を行っていくことが表明された。新長期規制の前倒しを含め具体的な規制値及び燃料品質等については、今後中央環境審議会において、決定することとしている。また、排出ガス試験方法についても知見を収集し、見直しについて必要性も含め検討する。
(ウ)自動車NOx法
 自動車NOx法の特定地域における平成10年度の二酸化窒素濃度の状況をみると、年平均値は前年度と同様であり、近年ほぼ横ばいの状況にある。環境基準の達成率は一般環境大気測定局で74.1%、自動車排出ガス測定局で35.7%となっており、前年度と比較して一般環境大気測定局ではやや減少し、自動車排出ガス測定局ではやや増加したが、依然として厳しい状況が続いている。また、これらの地域における窒素酸化物のうち、自動車からの排出割合は、東京都で68%(平成6年度)、大阪府で51%(平成6年度)となっており、依然として大きなウェイトを占めている。
 現在、自動車NOx法に基づく特定地域においては、平成12年度までに二酸化窒素の環境基準を概ね達成すべく、自動車排出窒素酸化物削減のための具体的計画である総量削減計画に基づき、自家用トラックから積載効率のよい営業用トラックへの転換、積合せ輸送、共同輸配送の推進、情報化による帰り荷の確保等による物資輸送の効率向上によりトラック走行量の抑制を図る物流対策、公共交通機関の整備、利便性の向上等により自家用乗用車利用の抑制を図る人流対策及び環状道路等を環境保全に配慮しつつ整備することやVICS(道路交通情報通信システム)の導入、交通管制システムの高度化、交差点構造の改良等によって、交通の分散と円滑化を図る交通流対策等を総合的かつ計画的に推進している(第1章第1節5(1)ウ 参照)。
 また、特定地域内を使用の本拠とするトラック、バス等について定められている特定自動車排出基準に適合しない車両の使用を制限する車種規制の円滑な実施を図っている。
 平成11年3月末現在での特定自動車排出基準の適合状況は84.2%であり、平成6年12月末の約40%(環境庁推計)に比べて向上している。
 その他、自動車排出ガス最新規制適合車等のより低公害な車種への代替促進や電気自動車、天然ガス自動車等の低公害車の普及促進について、税制上の特例措置及び「公害健康被害の補償等に関する法律」に基づき公害健康被害補償予防協会に置かれた基金(以下「公健法の基金」という。)の活用等により積極的な取組を進めている。
 また、緊急に大気環境改善対策を行う必要のある局地的に高濃度の大気汚染地区を対象として、汚染構造の解析、改善対策のメニューの検討・課題の整理、各種対策の環境改善効果等を把握し、今後の対策の計画的な実施に資するための調査を行った。
 また、土壌による大気浄化システム、光触媒を用いたNOx浄化システムのような新しい対策技術についても、大阪府泉大津市、川崎市南部地区等において必要な調査を行った。
 このように、各種対策を推進しているところであるが、近年の環境濃度の推移を見ると目標達成は厳しい状況にある。このため、平成11年4月に自動車NOx総量削減方策検討会を設置し、自動車NOx法に基づく総量削減計画の点検・評価を行うとともに、自動車NOx対策の充実・強化について検討している。
(エ)低公害車の普及促進
 自動車交通に起因する大気汚染、騒音等は、既存の規制措置等にかかわらず、大都市地域を中心として依然として深刻な状況にある。低公害車(電気自動車、天然ガス自動車、メタノール自動車及びハイブリッド自動車)の普及は、このように依然として深刻な自動車公害問題の解決を図る上で有効であるとともに、地球温暖化に係るCO2の排出削減等にも資するものである(1-1-11表)。
 近年、電気自動車、ハイブリッド自動車等についてはメーカー等による技術開発・市場投入が進んできており、各低公害車の特性に応じた様々な分野での実用化が進行しつつある。
 政府としては、自動車NOx法に基づく総量削減計画において、平成12年度までに首都圏・近畿圏の特定地域での30万台の普及を目標とするなど、環境保全のための低公害車の普及推進を方針として掲げ、低公害車の導入に対する各種支援措置の実施、技術開発の推進、インフラ(燃料等供給施設)整備の推進、公用車への低公害車の率先導入といった様々な取組を実施している。
 低公害車の導入に対する支援措置としては、国の行う地方公共団体による低公害車の集中導入に対する補助、民間事業者の低公害車導入に対する補助、民間バス事業者が低公害バスを導入する際の助成措置のほか、公健法の基金による導入助成等も行われている。また、低公害車の取得に関して、自動車取得税の軽減措置や、所得税・法人税についての特別償却又は特別税額控除といった税制上の特例措置を講じている。
 技術開発の推進に関しては、国立環境研究所において高性能電気自動車の研究開発を行うほか、電気自動車用次世代バッテリーの開発及び天然ガス自動車の実用化に向けての研究開発等を実施している。また、低公害車の開発促進を目的に平成10年に改訂した低公害車等排出ガス技術指針について、その後の排出ガス低減技術の開発状況等を踏まえ、指針の改訂作業を進めている。
 インフラ整備に関しては、平成11年度末までに106か所の燃料等供給施設(エコ・ステーション)の整備を行った。また、低公害車用の燃料等供給設備に係る固定資産税等の軽減措置を講じている。
 低公害車の率先導入に関しては、平成7年6月に閣議決定された政府の「率先実行計画」において、政府保有の公用車のうち通常の行政事務の用に供するものに占める低公害車の割合を平成12年度においておおむね10%に高めることが目標とされている。これを受け、各省庁において公用車への低公害車の導入が進められており、平成11年3月末現在で、通常の行政事務用の車両として67台(政府保有の公用車のうち0.87%)、その他の業務(郵便事業等)用の車両として120台の低公害車が導入されている。また、霞が関に天然ガス自動車用スタンドを整備した。
 その他、低公害車の大量普及のための制度的な普及方策の検討、我が国で入手可能な低公害車に関する情報を取りまとめた「低公害車ガイドブック」の刊行、東京代々木公園等全国各地で低公害車を一堂に展示する「低公害車フェア」の開催等も行った。その他の施策も含めて、施策の一覧を1-1-12表に掲げる。



(オ)船舶・航空機対策
 船舶からの大気汚染物質の排出については、国際海事機関(IMO)において、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)等を対象として国際的な規制の枠組みに係る審議が行われ、平成9年9月にロンドンで開催された海洋汚染防止条約締約国会議において「船舶からの大気汚染に関する規則」と題される附属書を新たに追加するための議定書が採択された。
 我が国でも都市部の二酸化窒素による汚染状況、特に臨海部での影響を鑑みれば、船舶についても大気汚染防止対策を進めることが重要となっており、船舶からの排出削減技術の動向等を把握して、国際的動向に対応した排出削減手法等を検討しているところである。
 また、航空機からの大気汚染物質の排出については、航空法により、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物及びばい煙について、国際民間航空機関(ICAO)の排出基準に適合した航空機でなければ航空の用に供してはならないこととなっており、環境庁としても航空機排出ガス量の将来予測等のシミュレーション等排出削減手法の検討を行っている。

ウ 固定発生源対策
(ア)大気汚染防止法に基づく規制の実施
 大気汚染防止法で規定するボイラー等の「ばい煙発生施設」について、施設の種類及び規模ごとの排出規制(排ガス中の窒素酸化物濃度:60〜600ppm)が行われており、昭和48年以降、逐次排出基準の強化や規制対象の追加などの見直しを行っている。
 さらに、工場、事業場が集合し、施設ごとの排出規制では二酸化窒素に係る環境基準の確保が困難であると認められる地域(東京都特別区等地域、横浜市等地域及び大阪市等地域の3地域)においては、都道府県知事が作成する総量削減計画に基づき工場単位で規制する総量規制が、昭和57年から実施されている。
 平成8年度における固定発生源からの窒素酸化物総排出量は、年間416,731千Nm3(855,787
t)であった(1-1-13図)。


(イ)窒素酸化物排出低減技術の現況
 固定発生源から排出される窒素酸化物の低減技術については、低NOx燃焼技術(2段燃焼法、排ガス再循環、低NOxバーナー等)及び排煙脱硝技術がある。
 排煙脱硝技術についてみると、排煙脱硝装置の設置基数及び処理能力は、着実に増加している(1-1-14図)。脱硝方式としては多くが乾式選択接触還元法である。


(ウ)小型燃焼機器等への対応
 大気汚染防止法で規定する「ばい煙発生施設」に該当しない業務用小型ボイラー等の小規模燃焼機器については、特に大都市地域ではこれらから排出される窒素酸化物の量が無視できないことから、優良品推奨水準としての窒素酸化物排出濃度に係るガイドライン値(1-1-13表)を定め、それに適合する低NOx型燃焼機器の普及啓発等を行っている。



エ その他の対策
 以上の各種対策に加え、昭和63年度から、冬期における高濃度の大気汚染に対応するため、暖房温度の適正化や公用車の使用削減等を内容とする「季節大気汚染対策」を実施しているほか、12月を「大気汚染防止推進月間」として、広く国民を対象に、公共交通機関の利用促進を訴える等大気汚染防止のための普及・啓発活動を実施している。さらには、大気にやさしい実践行動及び国民運動として、「アイドリング・ストップ運動」や「エコドライブ」を提唱しているほか、「不正改造車を排除する運動」、「ディーゼル黒煙クリーンキャンペーン」等を通じて、大気汚染を引き起こす悪質な不正改造車や整備不良車に対する改善指導等を行っている。
 また、窒素酸化物等の大気汚染の影響による健康被害を予防するための取組として、公害健康被害の補償等に関する法律に基づく基金を財源として、地域の大気環境改善に資する各種の事業(地方公共団体が行う電気自動車、天然ガス自動車等の低公害車の導入、排出ガスのより少ない最新規制適合車への代替促進、大気浄化能力を有する植栽の整備等)を推進している。
 また、建設工事に伴う排出ガス対策としては、公共事業を中心に窒素酸化物等を低減している排出ガス対策型建設機械の使用を推進しているとともに、排出ガスをさらに低減した建設機械の開発を促進している。

(2)浮遊粒子状物質・ディーゼル排気微粒子対策

ア 浮遊粒子状物質に係る大気汚染の現況
 大気中の粒子状物質は「降下ばいじん」と「浮遊粉じん」に大別され、さらに浮遊粉じんは、環境基準の設定されている粒径10μm(マイクロメートル)以下の浮遊粒子状物質とそれ以外に区別される。
a 浮遊粒子状物質による大気汚染の現況
 平成10年度の浮遊粒子状物質に係る有効測定局数は、一般局714市町村1,529測定局、自排局182市町村269測定局であった。
 年平均値の推移は1-1-15図のとおりであり、平成10年度は、一般局0.032mg/m3、自排局0.043mg/m3と平成9年度に比べてやや低くなっている。


b 浮遊粒子状物質に係る環境基準の適合状況
 浮遊粒子状物質の環境基準の長期的評価においては、年間における1日平均値のうち測定値の高い方から2%の範囲内にあるものを除外した値が0.10mg/m3以下であり、かつ、年間を通じて1日平均値が0.10mg/m3を超える日が2日以上連続しない場合を環境基準に適合するものとしている。
 長期的評価に基づく環境基準の達成率の推移は1-1-16図のとおりであり、平成10年度は、一般局では67.4%、自排局では35.7%と平成9年度に比べていずれも上昇しているが、大都市地域を中心に環境基準の達成状況は依然として低い水準となっており、特に、関東地域において芳しくない。



イ 対策
(ア)ばいじん及び粉じん対策
 浮遊粒子状物質の発生源は、工場等の産業活動に関係するもののほか、自動車排出ガスやタイヤの巻き上げなど自動車の運行に伴うものや土壌粒子の舞い上がり等の自然現象によるもの等多岐にわたる。これらのうち、工場・事業場から発生するものについては、大気汚染防止法に基づき?燃料その他の物の燃焼等に伴い発生する物質を「ばいじん」として、?物の破砕、選別その他の機械的処理等に伴い発生、飛散する物質を「粉じん」として規制している。
 ばいじんについては、施設の種類及び規模ごとに排出基準(排ガス中のばいじん濃度:0.04〜0.7g/Nm3)が定められており、さらに、施設が密集し、汚染の著しい地域においては、新・増設の施設に対して、より厳しい特別排出基準(排ガス中のばいじん濃度:0.03〜0.2g/Nm3)が定められている。平成10年4月には、近年、特に廃棄物焼却炉から排出される大気汚染物質による環境問題が深刻化していることから、排出の実態、排出防除技術の進展等を踏まえ、廃棄物焼却炉に係るばいじんの排出基準を強化した。
 なお、平成8年度における固定発生源からのばいじんの年間総排出量は、94,606tであった(1-1-17図)。ばいじんの発生源対策としては、適切な燃焼管理等のほか、集じん装置の設置がある(1-1-18図)。
 また、一般粉じん(「粉じん」のうち「特定粉じん」(現在、政令で石綿を指定)以外のもの、石綿については第1章第1節4(2)参照)については、堆積場、コンベア等の一般粉じん発生施設の構造、使用及び管理に関する基準が定められている。



(イ)自動車排出ガス対策
 ディーゼル自動車から排出される一次粒子については、大気汚染防止法等に基づき「粒子状物質」として規制している。近年では、平成元年12月の中央公害対策審議会答申に基づき、車種により平成9年から平成11年にかけて規制を強化し、粒子状物質の排出量を6割以上削減したところである(1-1-8表)。
 最近では、平成9年11月に現在未規制の特殊自動車(建設機械、産業機械、農業機械)の排出ガス規制の導入等を内容とする中央環境審議会第二次答申が取りまとめられた。同答申に基づき、平成16年からディーゼル特殊自動車の排出ガス規制が実施される。
 平成10年12月には、ディーゼル自動車の排出ガス規制強化を内容とする中央環境審議会第三次答申が取りまとめられた。同答申に基づき、ディーゼル自動車の排出ガス規制は2段階で強化され、粒子状物質の排出量が大幅に削減されることとなる(第1章第1節3(1)イ参照)。
 また、大気環境の改善には使用過程車の排出ガス低減も重要であり、ディーゼル排気微粒子除去フィルター(DPF)等の排出ガス後処理装置の技術的可能性・効果等を検討する必要がある。このため、平成12年3月に第1回ディーゼル車対策技術評価検討会を開催したところである。
 二次生成粒子の前駆物質である窒素酸化物及び炭化水素類についても、逐次排出ガス規制の強化を実施しているところである(第1章第1節2(2)イ(イ)b、第1章第1節3(1)イ参照)。
(ウ)総合的対策の検討
 浮遊粒子状物質は発生源が多岐にわたり、また大気中での化学変化等によって2次的にも生成するなど発生機構が複雑であることから、高濃度地域における環境基準達成に向けた総合的対策の確立を図るため、環境データ・発生源データの整備、凝縮性ダスト(煙突から排出された直後に粒子化するガス状物質)の排出実態調査、汚染予測モデルや削減対策手法の検討等を進めているところである。
(エ)微小粒子状物質に関する検討
 近年、SPMの中でも粒径が2.5μm以下の微小粒子状物質(PM2.5)と健康影響との関連が懸念されつつあることから、PM2.5及び浮遊粒子状物質全般についての健康影響の評価を進めるとともに、PM2.5の測定法について調査・検討を実施。さらに、疫学調査や実測調査、動物実験等を含む微小粒子状物質等曝露影響調査を開始した。
(オ)スパイクタイヤ粉じん対策
 近年、積雪寒冷地域においてスパイクタイヤを装着した自動車が道路を損傷することにより大量の粉じん(以下「スパイクタイヤ粉じん」という。)が発生し、生活環境の悪化をもたらすのみならず、人の健康への影響も懸念されて深刻な社会問題となったことから、「スパイクタイヤ粉じんの発生の防止に関する法律」が平成2年6月に公布、施行された。平成12年1月現在、18道県の817市町村が環境庁長官により指定地域とされ、その地域内でのスパイクタイヤの使用が原則的に禁止されている。
 また、同法においては、国及び地方公共団体は、スパイクタイヤ粉じんの発生の防止に関する施策の推進・実施に努めなければならないこととされており、脱スパイクタイヤの普及・啓発のためのパンフレット、凍結路面における安全運転のためのチラシ、指定地域地図等を作成し、都道府県等に配布した。

(3)硫黄酸化物等対策

ア 硫黄酸化物等による大気汚染の現況
(ア)二酸化硫黄の年平均値の推移
 平成10年度の二酸化硫黄に係る有効測定局数は、一般局700市町村1,579測定局、自排局83市町村103測定局であった。
 年平均値の推移は1-1-19図のとおりであり、平成10年度は、一般局では0.004ppm、自排局では0.006ppmと平成9年度と比較してほぼ横ばいである。


(イ)長期的評価に基づく二酸化硫黄に係る環境基準の適合状況
 環境基準の長期的評価においては、年間にわたる1日平均値のうち測定値の高い方から2%の範囲にあるものを除外した値が0.04ppmを超えず、かつ、年間を通じて1日平均値が0.04ppmを超える日が2日以上連続しない場合に環境基準に適合するものとしている。長期的評価に基づく環境基準の達成状況の推移は1-1-14表のとおりであり、近年高い達成水準を維持している。


(ウ)短期的評価に基づく二酸化硫黄に係る環境基準の適合状況
 短期的評価においては、1日平均値がすべての有効測定日(1日20時間以上測定が行われた日をいう。以下同じ。)で0.04ppm以下の場合、かつ、1時間値がすべての測定時間において0.1ppm以下の場合に環境基準に適合するものとしている。
 1日平均値がすべての有効測定日で0.04ppm以下の測定局数の有効測定局数に対する割合は、平成10年度は、一般局99.7%、自排局100%と9年度同様高い水準を維持している。1時間値がすべての測定時間において0.1ppm以下の測定局数の有効測定局数に対する割合についても、平成10年度は、一般局98.0%、自排局98.1%と平成9年度同様高い水準を維持している。


(エ)一酸化炭素の年平均値の推移
 平成10年度の一酸化炭素に係る有効測定局数は、一般局122市町村145測定局、自排局206市町村327測定局であった。
 年平均値の推移は1-1-20図のとおりであり、平成10年度は、一般局0.5ppm、自排局0.9ppmと平成9年度と比べやや低くなっている。
(オ)一酸化炭素に係る環境基準の適合状況
 環境基準の長期的評価においては、年間における1日平均値のうち測定値の高い方から2%の範囲にあるものを除外した値が10ppmを超えず、かつ、年間を通じて1日平均値が10ppmを超える日が2日以上連続しない場合に環境基準に適合するものとしている。一方、短期的評価においては、1時間値の1日平均値が10ppm以下であり、かつ、1時間値の8時間平均値が20ppm以下である場合に環境基準に適合するものとしている。平成10年度においては平成9年度に引き続き、一般局、自排局ともすべての測定局においていずれの評価によっても環境基準を達成している。

イ 対策
(ア)大気汚染防止法に基づく規制の実施
 硫黄酸化物の排出規制については、施設単位の排出規制及び工場単位の総量規制が実施されている。施設単位の排出基準による規制は、K値規制と呼ばれ、地域ごとに定められる定数Kの値(3.0〜17.5の16ランク、Kの値が小さいほど厳しい)等に応じて硫黄酸化物排出量の許容限度が定められており、Kの値は昭和43年以降段階的に強化されてきている。また、工場単位の総量規制は、国が指定する総量規制地域(工場等が集合し、排出基準のみによっては環境基準を確保することが困難な地域として、24地域を指定)において、都道府県知事が作成する総量削減計画に基づき実施されている。
 このほか、暖房等による燃料使用量の増加のために季節的に著しい大気汚染を生ずる地域のばい煙発生施設及び総量規制地域内の総量規制基準が適用されない小規模な工場等に対しては、燃料中の硫黄含有率に係る基準を定めている。
 平成8年度における、固定発生源からの硫黄酸化物の年間総排出量は、230,910千Nm3(659,743t)であった(1-1-21図)。


(イ)硫黄酸化物排出低減技術の現況
 硫黄酸化物に係る発生源対策として、重油の脱硫、排煙脱硫装置の設置等の対策が講じられている。
 この重油脱硫等により燃料の質の改善が進んでおり、平成8年度における内需用重油の平均硫黄含有率は、1.14%となっている。また、排煙脱硫装置については、設置基数及び処理能力とも着実に増加してきている(1-1-22図)。
 これらの諸対策により、二酸化硫黄による大気汚染の状況は昭和40年代前半に比べ著しく改善されてきている。

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