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第5節 

1 調査研究及び監視・観測等の充実

(1) 環境庁試験研究機関の整備と研究の推進
ア 国立環境研究所
(ア) 研究体制の強化
 平成10年度においては、国立環境研究所において引き続き研究体制の強化を図り、地域環境研究のより一層の推進を図るため、地域環境研究グループにバイオアッセイ環境リスク評価研究チームを新設した。
 平成10年度末の機構・定員は、2研究グループ(24研究チーム)・7部(3課、24研究室)・3センター、270名となっている。
(イ) 研究活動の充実
a 研究業務
 平成10年度においては、環境保全に係る特別研究9課題、重点共同研究2課題、革新的環境監視計測技術先導研究1課題及び環境修復技術開発研究1課題等のほか、環境研究総合推進費による地球環境研究37課題及び未来環境創造型基礎研究2課題等を実施した。このうち平成10年度に実施した特別研究の課題は、次のとおりである。
? 輸送・循環システムに係る環境負荷の定量化と環境影響の総合評価手法に関する研究(最終年度)
? 微生物を用いた汚染土壌・地下水の浄化機構に関する研究(最終年度)
? 海域保全のための浅海域における物質循環と水質浄化に関する研究(最終年度)
? 超低周波電磁界による健康リスクの評価に関する研究
? 湖沼において増大する難分解性有機物の発生要因と影響評価に関する研究
? 環境中の「ホルモン様化学物質」の生殖・発生影響に関する研究
? 廃棄物埋立処分における有害物質の挙動解明に関する研究(初年度)
? 環境中の化学物質総リスク評価のための毒性試験系の開発に関する研究(初年度)
? 都市域におけるVOCの動態解明と大気環境質に及ぼす影響評価に関する研究(初年度)
 このほか、内分泌攪乱化学物質に関し国内外との共同研究を行う中核的研究施設及び温室効果ガスの吸収及び排出源に関する調査研究等、温暖化対策を中心とする研究を実施するための施設の建設に着手した。
b 環境情報業務
 環境情報センターにおいて、我が国の大気質及び水質に係る測定結果の数値情報データファイルの整備・提供をはじめ自然環境保全総合データベースや、環境情報の所在・概要等を検索できる「環境情報ガイドディスク」の更新等、環境データベースの拡充を図るとともに、図書資料をはじめとする文献情報など国内及び国外の環境に関する情報の収集を行った。
 また、国連環境計画(UNEP)の国際環境情報源照会システム(INFOTERRA)における我が国の窓口としての諸業務を行った。
 さらに、国民が環境保全施策に関する情報等を入手するとともに情報交流を行うことを目指した「環境情報提供システム」の拡充、運用を行い、また、国立環境研究所WWWサーバによる情報提供を行った。
c 地球環境研究総合化・支援業務
 地球環境研究センターにおいては、地球環境保全に関する研究の総合化を図る目的で、地球温暖化と二酸化炭素のシンクに関して、第12及び13回地球環境研究者交流会議を開催した。また、インドネシア森林火災に関するメーリングリストの事務局を努めたほか、国際シンポジウムの報告書として「東アジア太平洋地域における長期生態研究:陸域及び水域生態系の生物多様性と保全」及び「第11回研究者交流会議−地球環境リスク研究の推進に向けて−」を出版した。
 また、地球環境データベースの整備を引き続き行うとともに、UNEPの地球資源情報データベース(GRID)の協力センターとして環境データの作成・提供等の活動を行った。
 さらに、システム更改されたスーパーコンピュータシステムを地球温暖化や海洋汚染を始めとする地球規模の環境変化に関する解明、予測、影響評価等のための研究に供するとともに、スーパーコンピュータを用いた地球環境研究の成果発表会の開催や英文研究成果報告書の出版を行った。
d 地球環境モニタリング事業
 地球環境研究センターでは、地球環境に係る諸現象を把握するためのモニタリング事業を、前年度に引き続き実施した。
 地球温暖化の関連では、沖縄県竹富町波照間島及び北海道根室市落石岬に設置している観測局で、また航空機を利用しシベリア上空において温室効果ガス等のモニタリングを行うとともに、北太平洋海域においては民間船舶の協力を得て大気・海洋間の二酸化炭素収支状況のモニタリングを行った。オゾン層破壊の関連では、オゾンレーザーレーダー・ミリ波分光器によりつくば上空における成層圏オゾン層の高度分布のモニタリングを行うとともに、オゾン層の破壊により増加が懸念されている有害紫外線量について東京においてモニタリングを進めた。また、北極域のオゾン層の動態の影響が見受けられる北海道中部において成層圏の総合的モニタリングを開始した。水圏環境の関連では、民間船舶の協力を得て海洋中のクロロフィル量・栄養塩類等のモニタリングを行うとともに、UNEP等が推進する地球環境監視システム/陸水環境監視計画(GEMS/Water)の日本における担当機関として、ナショナルセンター業務(我が国における測定データのとりまとめ)及び精度管理業務を行った。
 また、地球観測プラットフォームの技術衛星ADEOS搭載のオゾン層観測センサー(ILAS・RIS)のデータ処理・運用システムにより、平成8年11月から平成9年6月までのILAS観測データの処理を行った。処理結果の一部は、平成10年6月よりインターネット上で公開している。
 さらに、平成12年度に打ち上げが予定されている環境観測技術衛星ADEOS-?に搭載するオゾン層観測センサー(ILAS-?)のデータ処理・運用システムの導入を行った。
イ 国立水俣病総合研究センター
 国立水俣病研究センターにおいては、水銀汚染問題に関する我が国の経験の蓄積を活用し、国際共同研究等の国際協力に貢献していくなど本章第8節1(1)ウ(ウ)に掲げた施策を実施した。
(2) 公害防止等に関する調査研究の推進
 国立機関の公害防止等に係る試験研究費として平成10年度に一括計上されたものは、100課題、19億5291万円(前年度100課題、19億5291万円)で、これらの試験研究は、警察庁、北海道開発庁、科学技術庁、環境庁、大蔵省、文部省、厚生省、農林水産省、通商産業省、運輸省、郵政省、労働省及び建設省の13省庁に属する46試験研究機関等において実施された。
 一括計上による公害防止等の試験研究については、当面する問題のみならず、中長期的視野に立った対策推進にも配慮し、研究分野ごとに総合研究プロジェクトを編成してその総合的推進を図っている。
 平成10年度に実施した総合研究プロジェクトの数は9で、その内容は次のとおりである。
ア 大気環境の保全に関する総合研究
 各種発生源からの窒素酸化物、浮遊粒子状物質等大気汚染物質排出抑制技術の開発等に関する13課題の研究を継続して実施したほか、液体燃料焚きガスタービンからのNOx排出低減に関する研究等新たに6課題の研究を実施した。
イ 排水処理の高度化に関する総合研究
 産業排水等の物理化学的及び生物的処理技術等に関する7課題の研究を継続して実施したほか、磁性吸着剤を利用した環境汚染物質の高度処理技術に関する研究を新たに実施した。
ウ 海洋環境の保全に関する総合研究
 海洋における汚染現象の解明、汚染防止及び浄化技術等に関する5課題の研究を継続して実施したほか、流出油が沿岸・沖合生態系に及ぼす中・長期的影響の解明に関する研究等新たに4課題の研究を実施した。
エ 陸水系の水環境の保全に関する総合研究
 河川、湖沼、地下水等の陸水系における汚染現象の解明、汚染防止及び浄化技術の開発等に関する9課題の研究を継続して実施したほか、水道水源水域及び利水過程における界面活性剤の挙動と適正管理に関する研究を新たに実施した。
オ 廃棄物の処理と資源化技術に関する総合研究
 廃棄物の処理技術、再利用技術の開発等に関する11課題の研究を継続して実施したほか、船舶へのLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)の適用に関する調査研究等新たに2課題の研究を実施した。
カ 自然環境の管理及び保全に関する総合研究
 自然環境への影響評価、自然環境の適正管理及び保全等に関する7課題の研究を継続して実施したほか、湿原生態系及び生物多様性保全のための湿原環境の管理評価システムの開発に関する研究等新たに3課題の研究を実施した。
キ 都市・生活環境の保全に関する総合研究
 都市における総合的な環境保全を図るため、都市交通の制御、騒音及び悪臭の発生源対策技術に関する6課題の研究を継続して実施した。
ク 環境汚染物質に係る計測技術の高度化に関する総合研究
 測定技術の精度向上及び信頼性の確保、測定対象の特性に見合った新たな計測技術の開発等に関する9課題の研究を実施したほか、排気ガス中の粒子状物質のリアルタイム成分分析に関する研究等新たに2課題の研究を実施した。
ケ 環境汚染物質の環境リスクの評価、管理に関する総合研究
 環境汚染物質の健康影響評価、評価手法の開発等に関する9課題の研究を継続して実施したほか、ダイオキシン等内分泌系攪乱環境汚染物質のヒト及び生態系に対するリスク評価に関する研究を新たに実施した。
 また、地域における環境問題について地方公共団体と国が共同で研究を実施する地域密着型環境研究として、有害金属の形態別分析技術の開発と地下水汚染機構解明に関する研究等3課題の研究を継続して実施したほか、新たに生物間相互作用を考慮した適切な湖沼利用と総合的な湖沼保全を目指す基礎的研究を実施した。
(3) 地球環境に関する調査研究等の推進
 地球環境の保全を科学的知見に基づき適切に推進し、国際的な取組に貢献するため、平成10年7月に地球環境保全に関する関係閣僚会議が策定した「平成10年度地球環境保全調査研究等総合推進計画」等を踏まえつつ、総合的な調査研究等を実施した。
 また、地球環境問題は、従来の環境問題に比べて対象の時間的・空間的スケールが大きく、関連する分野も多岐にわたるとともに、そのメカニズムや影響など未解明な点も多く残されていることから、自然科学研究はもとより、人文社会科学の視点からの研究を含め学際的な取組を推進する必要がある。さらに、これらの調査研究を進めるにあたっては、世界気候研究計画(WCRP)、地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP)、地球環境変動の人間社会的側面国際研究計画(IHDP)等の国際的な地球環境研究計画への参加・連携を進める必要がある。
 このような観点から、関係省庁の国立試験研究機関等広範な分野の研究機関、研究者の有機的連携の下に地球環境研究を学際的、国際的に推進するため、「地球環境研究総合推進費」により、気候変動枠組条約京都議定書の内容を踏まえた温暖化防止に資する調査研究等の充実・強化を図った。
 さらに、アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)については、我が国が事務局として活動を支援している。平成10年3月に中国・北京で開催された「第3回政府間会合」で検討された具体的な活動計画に従い、地域内で実施するアジアモンスーンの変化に関する観測、人間・社会的側面からみた地球環境問題に関する研究等に対し支援を行った。また、平成11年3月には神戸市で「第4回政府間会合」が開催され、平成11年度の支援プロジェクト及びAPNの中長期の活動方針を定めたAPN戦略計画が決定された。さらに兵庫県の協力を得て、その推進基盤の強化を図るためのAPNセンター(仮称)の神戸市内への設置が決定された。
 平成10年度に実施した主な調査研究は第4-5-1表 のとおりである。


(4) 基礎的・基盤的研究の推進
 平成9年度に創設した「未来環境創造型基礎研究推進費」により、平成9年度に採択した「化学物質による生物・環境負荷の総合評価手法の開発に関する研究」、「亜熱帯域島嶼の生態系保全手法の開発に関する基礎研究」の2課題について、研究を継続して実施した。
(5) 地球環境に関する観測・監視
 地球環境に関する観測・監視は、分野、項目、地点、手法等多岐にわたるため、国際的な観測・監視計画と整合性を図りつつ国連環境計画(UNEP)における地球環境モニタリングシステム(GEMS)、世界気象機関(WMO)における全球大気監視(GAW)計画、WMO/政府間海洋学委員会(IOC)における全世界海洋情報サービスシステム(IGOSS)等の国際的な観測・監視計画に参加・連携して観測・監視を行った。
 また、平成9年6月に機能停止した地球観測衛星「みどり」及び平成9年に打ち上げられた熱帯降雨観測衛星(TRMM)から取得された観測データは、地球環境の観測・監視や環境問題の原因解明等に活用されている。また、平成12年度打上げ予定の環境観測技術衛星(ADEOS-?)、平成14年度打上げ予定の陸域観測技術衛星(ALOS)の開発等を行った。また、地球規模の変動に大きくかかわっている海洋において、海洋観測船等を用いた観測研究、観測技術の研究開発を推進した。
 平成10年度に実施した主な観測・監視は第4-5-2表 のとおりである。


(6) 環境基本計画推進調査
 環境庁に一括計上される環境基本計画推進調査費は、環境基本計画に位置付けられた課題に関する調査研究を対象としており、「政策分」(政策の立案に関し複数省庁が連携して実施する調査研究)と、「緊急分」(環境保全に重大な影響を及ぼす事態の発生等に対処して、緊急に行う調査研究)に分類される。平成10年度における「政策分」としては、次の7テーマについての調査研究を実施した(調査費小計:152百万円)。
? 環境教育の総合的推進に関する調査
? 住民参加による地域での生物多様性保全手法調査
? 循環・共生を基調とする持続可能な圏域のあり方検討調査
? 環境リスク対策における予見的アプローチに関する調査研究
? ライフサイクルアセスメント(LCA)応用施策に関する検討調査
? 健全な水循環の確保のための調査検討
? 環境問題に関する国と地方公共団体の連携のあり方に関する検討調査
 また、「緊急分」については、次の4テーマについての調査研究を実施した(調査費小計:53百万円)。
? サンゴ礁保護のためのオニヒトデ駆除方策に関する緊急調査
? 河川における外来種の分布域拡大に対応した在来生態系等への影響緊 急調査
? 造礁サンゴ群集の白化が海洋生態系に及ぼす影響とその保全に関する 緊急調査
? 人口動態統計等を活用したダイオキシン類の健康影響、特に死亡に及 ぼす影響評価のための緊急調査
(7) 環境保全に関するその他の試験研究
 通商産業省においては、PFC等の地球温暖化ガスの代替ガスシステム研究等のFS調査等を行う地球環境産業技術に係わる先導研究、二酸化炭素の海洋隔離に伴う環境影響予測技術開発、地球上の二酸化炭素の分布を調査する広域環境影響モニタリング調査等を実施したほか、温室効果ガスの固定化・有効利用・処分技術の研究開発、エネルギー効率が高く、オゾン層を破壊せず、地球温暖化効果の小さい特性を備えたCFC等の新規代替物質の技術開発、二酸化炭素や環境負荷物質の排出の少ない環境調和型生産技術の研究開発を実施した。さらに、バイオテクノロジーの知見を利用した、低環境負荷・環境調和型の化学原料生産・精製、物質変換、廃棄物処理・リサイクル、環境汚染浄化等に資する革新的技術の研究を実施した。
 建設省においては、生態系の保全・生息空間の創造技術の開発、外部コスト(構造物の計画から施工、維持管理、再利用に至るライフサイクルコストを通じて環境等に与える影響)を組み入れた建設事業コストの低減技術の開発、自然作用を活かした共生型川づくりに関する研究、地盤環境保全型建設技術の開発、水域ネットワーク保全手法に関する研究、海岸域における漂着油の挙動及び回収技術に関する研究等を実施した。
 農林水産省においては、農業生態系のもつ物質循環機能を高度に活用し、より生態系に調和した環境に優しい農業システムの開発、家畜排せつ物等の高度処理・低減化・高付加価値化技術の開発、都道府県試験研究機関の研究ネットワークによる、生物的防除技術を基幹とする省農薬病害虫制御技術等の開発、農林生態系における環境保全のための総合モニタリング手法等に関する研究、農業分野におけるライフサイクルアセスメント手法の開発とそれに基づく持続可能な農業生産システムの確立に関する研究を実施した。
 郵政省においては、地球環境変動機構解明のための高度電磁波利用技術の国際共同研究を実施したほか、高分解能3次元マイクロ波映像レーダによる地球環境計測技術、熱帯降雨観測衛星(TRMM)や航空機搭載降雨レーダーなどを用いて行う地球規模の降雨観測技術の開発・研究の推進など、情報通信技術を活用した様々な地球環境計測技術についての開発・調査研究を実施した。
 科学技術庁においては、地球規模の諸現象を解明し、その成果を活用して地球変動の精度の高い予測を行うために、国内外の関係機関の連携の下、プロセス研究、地球観測及びシミュレーションの3つの機能が一体となった研究開発を推進している。シミュレーションに関しては、地球規模の複雑な諸現象を忠実に再現することを目指した高速計算機システム「地球シミュレータ」の開発を引き続き行った。さらに、大気と海洋の相互作用に焦点を置いたプロセス研究及びモデル開発を行う「地球フロンティア研究システム」の拡充を行った。

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