1 環境保全上健全な水循環の確保
(1) 環境基準等の目標の達成・維持等
ア 環境基準の設定
水質汚濁に係る環境基準は、水質保全行政の目標として、公共用水域の水質について達成し維持することが望ましい基準を定めたものであり、人の健康の保護に関する環境基準(以下「健康項目」という。)と生活環境の保全に関する環境基準(以下「生活環境項目」という。)の二つからなっている。
前者の健康項目は原則的に全公共用水域及び地下水につき一律に定められているが、後者の生活環境項目は、河川、湖沼、海域ごとに利用目的に応じた水域類型を設けてそれぞれ基準値を定め、各公共用水域について水域類型の指定を行うことにより水域の環境基準が具体的に示されることになっている。
健康項目については、平成11年2月にふっ素、ほう素(以上、海域については基準値を適用しない。)並びに硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の3項目が追加され、現在、カドミウム、鉛等の重金属類、トリクロロエチレン等の有機塩素系化合物、シマジン等の農薬など26項目が設定されている。加えて、要監視項目として22項目を位置づけ、水質測定の実施と知見の集積を行い、水質汚濁の未然防止を図ることとしている。
生活環境項目については、BOD、COD、DO等の基準が定められており、さらに、富栄養化を防止するため、従前からの湖沼に加えて、平成5年8月に新しく海域についても全窒素及び全燐に係る環境基準を定めた。
なお、環境基準の水域類型指定後に、利水目的の変化等が認められる水域については、水域類型指定の見直しを計画的に進めることとしており、国指定水域においても類型指定の見直し作業が行われている。
また、有害物質を含む底質の除去に関しては、水銀を含む底質及びPCBを含む底質について、それぞれ暫定除去基準が設定されている。
イ 水質汚濁の現状
(ア) 公共用水域
平成9年度全国公共用水域水質測定結果によると、カドミウム等の人の健康の保護に関する環境基準については、環境基準を超える測定地点は、全国5,549測定地点のうち27地点あり、達成率は99.5%であった(第1-2-1表 、第1-2-1図 )。
一方、BOD、COD等の生活環境の保全に関する項目に関しては、平成8年度までに環境基準類型のあてはめられた3,244水域(河川2,524、湖沼134、海域586)について、有機汚濁の代表的な水質指標であるBOD(又はCOD)の環境基準の達成率をみると、全体では平成5年度までわずかずつ上昇し76.5%であったが、平成6年度には渇水の影響により68.9%まで低下し、その後は再び回復傾向が見られ、平成9年度は78.1%であった。水域別にみると、河川80.9%(8年度は73.6%)、湖沼41.0%(同42.0%)、海域74.9%(同81.1%)であった。なお、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海の環境基準の達成率については、東京湾63%、伊勢湾44%、瀬戸内海75%であった。また、生活排水が流入する都市内の中小河川は水質改善がなかなか進んでいない傾向にある(第1-2-2図 、第1-2-3図 、第1-2-2表 、第1-2-4図 、第1-2-5図 )。
このほか、その他の水質汚濁の態様としては、事故による有害物質や油の流出による公共用水域の汚濁や、一部の水域についてではあるが、ダム湖における富栄養化、火山地帯における河川又は湖沼の自然的要因による酸性化、大規模発電所の温排水による環境への影響等がある。
(イ) 地下水
昭和50年代後半からトリクロロエチレン等による地下水汚染が各地域に広がっていることが明らかとなってきたことから、平成元年度より、水質汚濁防止法に基づき地下水質の汚濁状況を常時監視することとなり、都道府県ごとの地下水質測定計画に従って国及び地方公共団体による地下水質の測定が行われることになった。
平成9年度地下水質測定結果では、鉛、六価クロム、砒素、総水銀、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、シス-1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンについて新たに環境基準を超える井戸が見られたほか、定期モニタリング調査等で地下水汚染が継続している状況が見られた(第1-2-3表 )。
ウ 水質汚濁による被害状況
(ア) 水道水源の汚濁
水道水源の約7割は河川等の表流水であり、公共用水域における水質汚濁によって受ける影響は大きい。水源の約3割を占める地下水は、従前は良質の水源とされてきたが、トリクロロエチレン等による汚染が昭和57年に顕在化して以来、今なお続いている状況にある。水道水源の汚染事故により影響を受けた水道事業体数は平成8年度には77であった。
また、近年、貯水池等の富栄養化による藻類等の異常な増殖により、異臭味の発生等が生じており、平成8年度には、81の水道事業等(被害人口の合計約1,000万人)において異臭味による影響が生じた。
(イ) 工業用水の汚濁
工業用水は、その淡水補給水量のうち、約70%を地表水、伏流水といった河川水(うち約半分は工業用水道)に依存しており、河川水の水質汚濁により影響を受ける場合がある。また、工業用水道事業では、一般的に薬品沈殿による水質処理を行っているが、河川水の汚濁物質除去により発生する汚泥の処理が問題となる場合がある。
(ウ) 農業、漁業被害
近年、都市化の進展等に伴い、都市汚水等の農業用水への流入により、農業生産、農村の生活環境等の上で看過し得ない問題が生じている。
農業用水の汚濁による農業被害の現状をみると、全国で被害地区数(5ha以上)874地区、被害面積約5万7,400haとなっている。このうち、都市汚水(農村における生活排水を含む。)による被害が最も大きく、被害面積の85%を占めている(第1-2-4表 )。
平成6年度から2か年にわたり実施した調査結果を平成2年度の結果と比較すると、被害地区数は26%減で、被害面積は33%の減となっている。また、新たな被害発生面積は約1万2,200haあり、そのうちの83%が都市汚水によるものである。
水質汚濁による漁業被害の態様としては、?水面の浮遊物、廃棄物の堆積等に伴う漁場環境の悪化及び漁船・漁具の損壊、?油濁・赤潮等の発生による水産生物の死滅、生育不能等、?水銀等の有害物質の蓄積、付着等による漁獲物の販売不能、?油濁等による漁船及び漁具の汚れ、腐食等がある。
平成9年度に発生した水質汚濁等による突発的漁業被害は、都道府県の報告によると、発生件数が、163件(平成8年度233件)、被害金額は18億2,691万円(平成8年度11億9,803万円)で、平成8年度より件数は減少したが金額は増加した。このうち、海面の油濁による被害が、28件、11億1,475万円(平成8年度42件、2億3,059万円)、赤潮による被害は19件、6億4,548万円(平成8年度29件、2億2,452万円)である(平成8年度の被害額はナホトカ号油流出事故を除く)。
なお、水銀等による魚介類の汚染に関しては、汚染が確認された水銀に係る8水域及びドリン系殺虫剤に係る3水域において、継続して漁獲の自主規制又は食事指導等が行われている(平成10年12月末現在)。
(エ) その他
環境庁が自治体に依頼して行った平成10年度の海水浴場等の水質調査によれば、調査対象とした839水浴場(前年度の遊泳人口が概ね1万人以上の海水浴場及び5千人以上の湖沼・河川水浴)全てが水浴場として最低限満たすべき水質を維持していた。このうち、水質が良好な水浴場は、691水浴場(全体の82%)であった。
また、平成8年における病原性大腸菌O-157による食中毒問題を踏まえ、平成10年度も各自治体において水浴場を対象としたO-157等の調査が行われた。この結果、測定が行われた763水浴場の全てで不検出であった。また、建設省が実施した調査においても、すべての地点で不検出であった。
(2) 環境保全上健全な水循環機能の維持・回復
環境保全上健全な水循環機能の維持確保を図るため、森林については、森林計画制度に基づき、育成複層林施業等による森林の整備を通じて保水能力の高い森林の育成に努めるなど適切な維持管理を進めた。また、水を貯留するとともに地下水かん養能力等を有する水田等の農地の適切な維持管理を進めた。水質、水量、水生生物、水辺地等の保全を進めるため、ヨシ、木炭等を利用した浄化水路等の整備を行い、河川、湖沼等の自然浄化能力の維持・回復を図った。また、都市域における環境保全上健全な水循環を確保するため、水循環・再生下水道モデル事業、再生水利用下水道事業等による下水処理水等の効果的利用及び緑化を図るとともに、透水性舗装や浸透ますの設置等による雨水の適正な地下浸透を進めた。海域においては、自然海岸、干潟、藻場、浅海域の適正な保全を推進するとともに、自然浄化能力の回復に資するよう、海岸環境整備事業、港湾環境整備事業等により人工干潟・海浜等を適切に整備した。
さらに、流域圏等を単位とした健全な水循環の確保に向けた計画策定を支援する流域水循環健全化プログラムの一環として、モデル流域圏において、地域の水利用形態、水循環機構等の調査及び検討を行った。
(3) 地域の実情に即した施策の推進と公平な役割分担
地域において、失われた水辺環境の再生、地下水かん養施設の設置等による枯渇しつつある井戸・湧水の復活など、水環境と市民のより良いふれあいを確保するための場を整備した。
水と親しむことのできる貴重な水辺である水浴場について、水質以外の要素も含めて快適性の評価を行った。
また、地域住民の参加を得て、全国水生生物調査を推進したほか、水生生物による水環境評価手法の検討を行った。