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環境白書の刊行に当たって

国務大臣 環境庁長官 地球環境問題担当
大木 浩
 平成10年版の環境白書をここに公表いたします。
 昨年12月に京都において開催された地球温暖化防止京都会議では、私自身も議長として参加いたしましたが、白熱した議論の末、21世紀に向けた地球温暖化防止のための国際的な取組の大きな一歩となる京都議定書を無事採択することができました。しかしながら、今後、地球温暖化を防止していくためには、この議定書に定められた目標の達成はもちろん、その後も着実に温室効果ガスの排出削減努力を続けていく必要があります。また、最近は、地球温暖化だけではなく、廃棄物の問題など様々な形で環境に大きな影響が生じており、個別の対処療法だけでは解決が難しい状況が生まれつつあります。これらの問題を解決していくには、現在の経済や社会のシステムの根本を問い直し、有限な要素の多い地球環境の中でわれわれの経済社会が持続可能なものとなるよう変えていく必要があります。
 本年は、環境基本法制定から5年目に当たります。この環境基本法に基づき策定された環境基本計画では、現在の経済社会を持続可能なものに変革していくための長期的な目標の一つとして「環境への負荷が少ない循環を基調とする経済社会システムの実現」を掲げています。経済社会システムやその基本にあるライフスタイルを変えていくには様々な困難や痛みを伴うものですが、わが国でも、徐々に変革への動きが出始めています。
 本年の環境白書では、このような観点から「21世紀に向けた循環型社会の構築のために」をテーマに、21世紀の社会のあり方を展望することを試みました。例えば、廃棄物リサイクル問題を中心に産業における循環の輪をつくり・つなぐ動き、あるいは、人間活動と生態系や水の循環など自然のメカニズムとの調和を目指す試み、このような現実に動きつつある事例をもとに、現状の問題点を浮き彫りにするとともに、経済や社会を変えていく方向を具体的に描こうとしています。
 21世紀に向けて芽吹きつつある変革への動きを具体化していくためには、現在の大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会の基本となっている私たち自身の価値観や行動様式を、持続可能な経済社会の形成につながるようなものに変えていく必要があります。本白書が、環境問題についての国民の皆様一人ひとりの関心を高め、具体的な行動への参考ともなれば、これに過ぎる喜びはありません。
平成10年6月

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