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第5節 

5 海外自然環境の現状

(1) 森林の現状
 森林は、世界の陸地の約4分の1を占めており、1995年(平成7年)時点で34億5,400万haの森林が存在している。しかし、国連食糧農業機関(FAO)によると地球上の森林は熱帯林を主として、1990年から1995年の間に全世界で5,630万ha減少している。1年間当たりでは1,130万haの森林が失われている計算になる。これは日本の面積(3,770万ha)の約30%、本州の約半分の面積に相当する。森林面積は1990年から1995年の間に、先進国(ロシア連邦を除く)では878万ha増加しているのに対し、途上国では6,515万ha減少している。途上国における減少は1980年から1990年の10年間で12,260万haであり、途上国の森林衰退は加速していることがうかがえる(第4-5-10表第4-5-11表第4-5-12表)。
 FAOが1993年(平成5年)に公表した報告では、全熱帯林面積は1980年(昭和55年)末では19億1,040万haあったのに対し、1990年(平成2年)末で17億5,630万haとこの10年間に約8%減少している。(第4-5-9図)。
 熱帯林減少の原因は、非伝統的な焼畑、薪炭材の過剰採取、過放牧、商業伐採等が指摘されているが、こうした直接の原因の背景には途上国における貧困、人口増加、土地制度等の社会的経済的な要因がある。
 熱帯林は、地球上に生存している生物の50〜80%が生息するといわれ、生物多様性の保全に重要な役割を果たしている。熱帯林の減少によりこれらの動植物種が亡びたり、種の維持が困難なほどに生息域が狭められることが懸念されている。
 また、熱帯林は、二酸化炭素の吸収源としても重要な役割を果たしている。樹木は光合成により大気中の二酸化炭素を有機物に変え、幹や枝、葉、根をつくっている。樹木は乾燥重量の5割を炭素が占めていると言われ、森林消失による大量の二酸化炭素の放出が地球温暖化を加速させるおそれがある。
 熱帯林における持続可能な森林経営の確立のために様々な国際的取組が進められている。1985年、FAOは熱帯林の適正な開発と保全を図るため、熱帯林行動計画を採択した。この計画は、?土地利用における林業、?林産業の開発、?燃料とエネルギー、?熱帯林生態系の保全、?制度・機関の分野について国際的な行動指針を示したもので、現在85の開発途上国でこの計画による取組が進められている。また、ITTO(国際熱帯木材機関)は、熱帯木材貿易の安定的拡大のみならず、生態系維持の観点を含む森林の保全・開発を推進するため、森林の管理・保育等に関するプロジェクトを実施している。さらに、西歴2000年までに、持続可能な森林経営が行われている森林から生産された木材のみを貿易の対象とする、という旨を盛り込んだ国際熱帯木材協定(ITTA)を1997年1月に発効している。
 我が国は、これらの国際機関の活動に協力しているほか、林業分野を中心とした2国間協力を実施しており、これまで、東南アジア、大洋州、アフリカ、中南米の開発途上国を対象に森林管理や造林技術の開発などの協力事業を実施してきている。


(2) 土壌の現状
 土壌は、農業や牧畜などの基盤であり、土壌の劣化や喪失は、人間の生活に大きな影響を与える。土壌劣化の態様には、降雨による流失や風により表土が吹き飛ばされるといった浸食、塩類集積やアルカリ化、湛水化などがある。土壌の劣化や喪失等いわゆる砂漠化の問題には、地球規模での大気の循環の変動による乾燥地の移動という気候的要因と、乾燥地及び半乾燥地の脆弱な生態系の中での許容限度を超えた人間の活動という人為的要因の二つがある。気候的要因としては、下降気流の発生や水分輸送量の減少による乾燥の進行、人為的要因としては、草地の再生能力を超えた家畜の放牧(過放牧)、休耕期間の短縮等による地力の低下(過耕作)、薪炭材の過剰な採取が考えられている。
 1991年(平成3年)にUNEPが発表したレポート「砂漠化の現状及び砂漠化防止行動計画の実施状況について」によると、世界には61億ha以上の乾燥地が存在し、地球の陸地の40%近くを占めている。こうした乾燥地域では世界人口の約5分の1の人々が生活しており、そのうち9億haがきわめて乾燥している地域、いわゆる砂漠で、残りの52億haの一部で人間の活動による砂漠化が進行している(第4-5-10図第4-5-11図)。
 また、土壌の劣化にさらされている地域は、36億haで、きわめて乾燥している地域を含めた乾燥地全体の59%を占める。大陸別に見ると被害面積が最も広いのはアジアであり、ついでアフリカ、ヨーロッパと続く。乾燥地面積に占める土壌劣化の割合は、アフリカが73%と特に多い。
 こうした砂漠化問題に国際的に対処するため、1992年の地球サミットでは、アフリカ諸国を中心とする開発途上国の強い主張を背景に、アジェンダ21で、1994年6月までに砂漠化防止条約を採択することを国連総会に要請することが決定された。これを受けて、砂漠化防止条約政府間交渉会議(INCD)が設置され、1995年6月の第5回会合において砂漠化防止条約が採択された。この条約は1996年(平成8年)12月に発効し、1997年(平成9年)9月に第1回締約国会議が開催された。我が国は現在本条約の締結に向けた準備を行っている。平成10年3月末の締約国は124ヵ国である。
 我が国では、砂漠化防止の取組として、政府開発援助(ODA)による砂漠化の現状の把握と対策のための調査、技術面での協力、資金の貸付などの形で支援を行っている。また、砂漠化のメカニズム、乾燥地での農業の方法、水の有効利用の方法等について調査・研究を行っている。


(3) 国際的に高い価値が認められている環境の現状
 世界遺産条約に基づき、観賞上・学術上または保存上等の見地から顕著な普遍的価値を有する自然の地域は、人類共通の財産として世界遺産一覧表に記載し、良好な自然状態が十分保護されるような措置がとられている。我が国では、平成5年12月に、繩文杉に代表されるヤクスギ巨木群等の特殊な植物相を誇る鹿児島県の屋久島地域と原生的なブナ天然林を有し希少な鳥類が生息する青森県と秋田県にまたがる白神山地地域が世界遺産一覧表に記載された。世界遺産一覧表に記載されている地域は、アメリカのイエローストーン国立公園、オーストラリアのグレート・バリア・リーフ、エクアドルのガラパゴス諸島国立公園等、1997年(平成9年)12月時点で114地域である。
 南極地域には、過酷な自然環境とそれに適応した特殊で脆弱な生態系が成立しており、地球環境のモニタリング等の観点からも、人為による汚染の極めて少ないその環境の重要性が注目されている。南極地域は、1961年に領土権の凍結、軍事利用の禁止、科学観測のための国際協力を目的とする「南極条約」が発効し、以来科学観測の場として利用されている。しかし、基地活動や観光利用の増加による環境影響も懸念されている。このため、南極地域の環境の包括的な保護を図るための「環境保護に関する南極条約議定書」が1991年に採択され、1998年1月に発効した。我が国でも同議定書の国内担保措置として、「南極地域の環境保護に関する法律」を制定した。この法律は、南極地域において行われる活動が南極地域の環境に著しい影響を及ぼすことがないかどうか等について事前に審査する南極地域活動計画の確認制度を設けるとともに、鉱物資源活動や動植物の採捕の制限等について定めている。

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