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第5節 

3 海域に関する調査

(1) 海岸調査
 自然状態を保持した海岸は生物の生産及び生息の場として重要である。都市化や産業の発達に伴い高度成長期には海岸線の人工的改変が急速に進められた。しかし、人工的改変は不可逆のものであり、慎重に行わなければならない。
 海岸調査では、海岸の自然状態について第3回調査以降の変化を把握し、分析した。
 今回の調査対象の海岸線は総延長で32,817km(昭和59年の第3回の調査結果と比べ約345km増)あり、本土部分が19,134km(58.3%、同214km増)、島嶼部分が13,684km(41.7%、同131km増)となっている。全国の海岸の区分比を見ると、自然海岸は55.2%と約半分を占め、次いで人工海岸が30.4%となっている。前回(昭和59年)の調査結果と比べ自然海岸は293km減少している。自然海岸の減少は、第2回と第3回の調査の間に565km減少しており、減少の傾向に鈍化が認められる。本土部分だけを見ると、自然海岸は44.7%で人工海岸が38.0%と3分の1以上を占めている(第4-5-8図)。


(2) 藻場・干潟・サンゴ礁調査
 藻場とは、大型海藻の群落であり、魚介類の産卵場、エサ場などの生育場として、沿岸地域の生態系に重要な役割を果たしている。
 藻場の調査は、日本沿岸全域を対象に行われた。調査は、?面積が1ha以上?水深20m以浅の藻場の分布調査と、昭和53年の第2回調査以降の消滅面積1ha以上の藻場の消滅状況調査を行った。
 調査の結果、全国で201,212haの藻場が把握され、昭和53年以降6,403haの藻場の消滅が判明した。今回の調査で最大の藻場は、静岡県の相良から御前崎に位置するもので7,891haであった。また、連続したものではないが、海域別の分布では能登半島周辺に14,761ha(全国の7.3%)の分布が認められた。消滅の原因は埋立、磯焼けが上位を占めている。磯焼けとは、潮下帯岩礁の大型海藻が海流変化に伴う水温の上昇や時化による激しい攪乱、淡水流入などによって死滅した後、無節石灰藻類が繁殖してしまい大型藻が生えなくなる現象である。いったん無節石灰藻の被覆が出来てしまうと、その状態は数年から十数年にわたって持続する例が知られている。(第4-5-5表第4-5-6表)
 干潟は、干出と水没を繰り返す環境条件から、海域環境の中でも特異な海洋生物や水鳥等の生息環境として大切な役割を持つ。干潟は、河川と海の両方から様々な栄養物質が堆積するため、沢山の底生動物が生息し、それを餌とする渡り鳥が数多く飛来する。潮の干満の際に空気中の酸素を海水中に大量に溶かし込むため、干潟では微生物や底生動物が多く繁殖する。これら微生物が有機汚濁を分解するなど、干潟の水質浄化能力も注目されている。しかし、干潟の多くは水が滞留しやすい内海にあるため、干潟の浄化能力で対応しきれない人的汚染も広がりつつあり、影響が懸念される。
 干潟の保全については、「自然公園法」や「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」等による保全に加え、瀬戸内海環境保全基本計画に基づき干潟の保全等を進めることとされているほか、「瀬戸内海環境保全特別措置法」によって、富栄養化による被害発生の防止・自然海浜の保全・埋立に当たっての環境保全上の配慮等の総合的な施策が進められている。
 干潟の調査も、分布と消滅状況について行われた。調査対象の干潟は?高潮線と低潮線の間の干出域の最大幅が100m以上?大潮時の連続した干出域の面積が1ha以上?移動しやすい底質(砂、礫、泥、砂泥)である、を要件とした。
 調査の結果、51,443haの干潟の存在が確認された。海域別では、有明海に20,713ha(全国の約40%)の存在が認められた。有明海に分布する熊本県域の干潟では、9月から3月までは大部分の干潟域が海苔養殖に、夏期はアサリ、ハマグリ、クルマエビ等の漁業に利用されている。また、佐賀県域の干潟では、有明海特有の生物も多く、希少種としてムツゴロウ等が生息している。鳥類は、シギ・チドリ等年間を通して数十種類の飛来が報告されている。(第4-5-7表第4-5-8表)
 我が国のサンゴ礁地形は鹿児島県のトカラ列島以南に多く存在し、その多くは裾礁に分類される。八重山列島には我が国最大の面積のサンゴ礁があり、同海域の造礁サンゴ類の種の多様性は世界でも屈指のものである。
 サンゴ礁調査は、造礁サンゴ群集の現況を、分布、被度(生きているサンゴの割合)、生育型の構成状況等の把握を目的に行われた。地域は、?鹿児島県トカラ列島小宝島以南の「南西諸島海域」(サンゴ礁海域)?「小笠原群島海域」?トカラ列島悪石島以北の「本土海域」に分けて実施された。サンゴ礁は暖かい透明度の高い海域に発達し、その分布・被度等サンゴ礁の生育状況の把握は、ある程度の環境の健全性や人為的影響を知る上でも重要である。
 南西諸島海域において、サンゴ礁内で被度を調査した結果、被度5%未満は分布地域の61.3%、被度5〜50%は30.6%、被度50%以上は8.2%であった。我が国のサンゴ礁内のサンゴ群集は、大部分が被度の低いものであることが分かった。礁縁において行った調査では、沖縄島海域以外は被度5〜50%が最大の比率を占めるが、沖縄海域では被度5%未満が46.2%を占め、礁縁においても被度が低いことが明らかになった。小笠原群島海域は、父島列島及び母島列島において実施し、456haのサンゴ群集が記録された。そのうち、約70%が被度50%以下であるが、被度50%以上の高被度地域では1群集あたりの面積が大きい。
 本土海域のサンゴ群集(面積0.1ha以上、被度5%以上)の合計面積は1409.3haであった。最も面積が大きかったのは、東京都(424.8ha)宮崎県(292.7ha)でありこの両者で全体の50%を超える。東京都の分布は八丈島がほとんどを占める(第4-5-9表)。

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