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第8節 

2 公害紛争処理等

(1) 公害紛争の処理状況
 公害紛争については、「公害紛争処理法」の定めるところにより、総理府の外局である公害等調整委員会及び都道府県に置かれている都道府県公害審査会等が処理することとされている(第4-8-2図)。
 公害紛争処理には、あっせん、調停、仲裁及び裁定の四つの手続があり、裁定には、公害に係る被害についての損害賠償責任の有無及び賠償すべき損害額を判断する責任裁定と、被害の発生と加害行為との間の因果関係の存否を判断する原因裁定の二種類がある。
 公害等調整委員会は、裁定を専属的に行うほか、重大事件(水俣病やイタイイタイ病などの事件)、広域処理事件(航空機騒音や新幹線騒音)等について、あっせん、調停及び仲裁を行い、都道府県公害審査会等は、それ以外の紛争について、あっせん、調停及び仲裁を行っている。
ア 公害等調整委員会に係属した事件
 平成8年中に公害等調整委員会で新規に受け付けた公害紛争事件は6件であり、これらに前年から繰り越された14件及び分離した事件2件を加えた計22件(調停事件12件、責任裁定事件9件、原因裁定事件1件)が平成8年中に係属した。係属した事件の内訳は、次のとおりである。
(ア) 調停事件
? 液体洗剤水質汚濁被害等調停申請事件……………………………1件
? 豊島産業廃棄物水質汚濁被害等調停申請事件……………………3件
? 金属加工工場騒音・振動被害調停申請事件 ………………………4件
? 送電線建設土壌汚染被害等調停申請事件…………………………1件
? 中海本庄工区干陸事業水質汚濁被害等調停申請事件……………2件
? 松枯れ対策農薬空中散布大気汚染被害等調停申請事件…………1件
(イ) 責任裁定事件
? 小田急線騒音被害等責任裁定申請事件……………………………8件
? 飯塚市廃棄物悪臭被害責任裁定申請事件…………………………1件
(ウ) 原因裁定事件
 飯塚市し尿処理場等悪臭被害原因裁定申請事件 …………………1件
 このうち平成8年中に終結した事件は、金属加工工場騒音・振動被害調停申請事件4件外1件であり、残り17件が平成9年に繰り越された。
イ 都道府県公害審査会等に係属した事件
 平成8年中に都道府県の公害審査会等で受け付けた公害紛争事件は45件であり、これに前年から繰り越された48件を加えた計93件(いずれも調停事件)が平成8年中に係属した。このうち平成8年中に終結した事件は35件である。
 なお、調停が成立した具体的事例としては、次のようなものがある。
 事例 平成5年4月16日、神奈川県内のマンションに居住する申請人から調停申請があり、被申請人(申請人の階上の居住者及び改装工事施工業者)が申請人の階上の住居の床を木製床にしたことにより、掃除機の音、家具の移動音、新設した引き戸及びサッシの開閉音等の騒音により、申請人は睡眠不足などの感覚的・心理的被害を受けていることを理由として、被申請人に対し、?木製床をカーペット敷きに戻し、新設した引き戸を取り外す等工事前の状態に復するか、若しくは防音工事を行うこと、?連帯して慰謝料等を支払うことを求めたものである。
 神奈川県公害審査会は、現地調査を実施し、24回の調停期日を開催するなど鋭意手続を進めた結果、平成8年5月23日、申請人及び被申請人(申請人の階上の居住者及び改装工事施工業者)の3者間で工事費を負担して申請人の階上の住居の床の全面積について騒音防止工事を実施することを約定すること等を内容とする調停が成立した。
ウ 公害紛争処理に関する連絡協議
 公害紛争の適切な処理を図るため、公害紛争処理連絡協議会、公害紛争処理関係ブロック会議等を開催し、公害等調整委員会及び都道府県公害審査会等の相互の情報交換・連絡協議に努めた。


(2) 公害苦情の処理状況
ア 公害苦情処理制度
 公害に関する苦情は、地域住民の生活に密着した問題であり、その適切な処理は、住民の生活環境を保全するためにも、また、将来の公害紛争の未然防止のためにも極めて重要である。
 このような観点から、「公害紛争処理法」においては、地方公共団体は、関係行政機関と協力して公害に関する苦情の適切な処理に努めるべきものと規定されている。このため、都道府県及び市区町村は公害苦情相談員を置くことができるとされている。
 また、公害等調整委員会は、地方公共団体が行う公害苦情の適切な処理のための指導、情報の提供を行っている。
イ 公害苦情の現状
 平成7年度に全国の地方公共団体の公害苦情相談窓口が新規に受け付けた苦情件数は6万1,364件である。
 大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭のいわゆる「典型7公害」の苦情件数は、昭和47年度の79,727件から若干の例外はあるものの一貫して減少傾向にあり、平成7年度では42,701件で、前年度に比べ2,941件(6.4%)減少した。
ウ 公害苦情の処理状況
 平成7年度において、公害苦情の申立てから処理までに要した期間をみると、1か月以内に68.3%と約7割が処理されている。(第4-8-3図)。
エ 公害苦情処理に関する指導等
 地方公共団体が行う公害苦情の処理に関する指導等を行うため、実際に公害苦情の処理に当たる地方公共団体の担当者を対象とした公害苦情相談研究会及び公害苦情相談員等ブロック会議を開催した。 


(3) 環境事犯の取締り
ア 環境事犯の検挙状況
 警察では、悪質な産業廃棄物の不法処分事犯や水質汚濁事犯等に重点を置いた取締りを推進している。平成8年中に検挙した環境事犯の総数は、2,057件であり、最近5年間における環境事犯の法令別検挙状況の推移は、第4-8-2表のとおりである。
イ 水質汚濁事犯の取締り
 警察では、平成8年中に、「水質汚濁防止法」等を適用して水質汚濁事犯を21件検挙した。このうち、工場等が「水質汚濁防止法」に定められた基準に違反して汚水を排出した排水基準違反は、15件である。
ウ 廃棄物事犯の取締り
 警察が平成8年中に廃棄物処理法違反で検挙した1,998件の態様別検挙状況は、第4-8-3表のとおりであり、不法投棄事犯が全体の76.1%を占めている。
 また、このうち、産業廃棄物事犯は733件と全体の36.7%を占めている。
エ 検察庁における公害関係法令違反事件の受理・処理状況
 最近5年間において全国の検察庁で取り扱った公害関係法令違反事件の受理・処理人員の推移は、第4-8-4表のとおりである。平成8年中の通常受理人員は、2,647人で前年より205人減少している。
 平成8年中における罪名別公害関係法令違反事件の通常受理人員は、第4-8-5表のとおりで、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」違反の1,980人が最も多く、全体の74.8%を占め、以下、「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」違反(534人)、「水質汚濁防止法」違反(57人)の順となっている。
 平成8年中における罪名別公害関係法令違反事件の処理人員は、第4-8-6表のとおりで、起訴人員は1,722人、不起訴人員は968人、起訴率は、64.0%となっている。起訴人員のうち公判請求されたものは74人、略式命令請求されたものは1,648人である。

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