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第4節 

4 新幹線鉄道騒音・振動対策

 新幹線鉄道は、昭和39年の東海道新幹線開業以来、大量高速輸送機関として発展してきたが、一部の沿線地域において騒音・振動が環境保全上大きな問題となった。
 このうち名古屋地区においては、昭和49年3月に東海道新幹線に係る騒音・振動公害の差止め及び損害賠償を求める訴訟が提起されたが、61年4月、発生源対策の一層の推進等を内容とする和解が成立し、解決を見るに至った。
(1) 環境基準の設定とその達成状況
ア 環境基準等
 新幹線鉄道騒音対策の目標となる「新幹線鉄道騒音に係る環境基準」(昭和50年7月29日)は、地域の類型に応じ、主として住居の用に供される地域については70デシベル以下、商工業の用に供される地域等については75デシベル以下としており、これが達成され、又は維持されるよう努めるものとしている。
 地域の類型の当てはめは、都道府県知事が行うこととなっており、新幹線鉄道の運行している21都府県のすべてにおいて行われている。
 政府はこの環境基準の円滑な達成に資するため、昭和51年3月に音源対策及び障害防止対策等の基本的事項を定めた「新幹線鉄道騒音対策要綱」を閣議了解していたが、国鉄の分割・民営化に先立ち、国鉄の事業を引き継ぐ承継法人及び日本鉄道建設公団において同要綱に定める施策の実施を確保し、引き続き騒音対策を推進するため、62年3月に「国鉄改革後における新幹線鉄道騒音対策の推進について」を再度閣議了解した。
 また、新幹線鉄道振動については、昭和51年3月に環境庁長官から運輸大臣に対し、「環境保全上緊急を要する新幹線鉄道振動対策について」が勧告されている。
イ 環境基準等の達成状況
 騒音については、東海道・山陽新幹線及び東北・上越新幹線について、それぞれ環境基準の達成目標期間の最終年の経過後においても、環境基準未達成の地域が相当見られた状況であった。このため、環境庁では、東海道・山陽新幹線の住宅密集地域が連続する地域、東北・上越新幹線の住宅集合地域(以下「75ホン対策区間」という。)において、平成2年度末を目途に75デシベル以下とすることなど対策の一層の推進を図るよう関係機関に対し要請を行った。3年度において、同要請に基づく対策の達成状況の把握を行った結果、75デシベルを達成していない地域がなお残されていたことから、これらの地域については、5年度までに75デシベルを達成するようその期限を延長した。6年度において、その後達成状況の把握を行った結果、大幅な改善が見られ、75デシベル以下が概ね達成された(第2-4-7表)。現在、対策区間内の75デシベルを達成した地域については、引き続き環境基準の達成に向けて対策に努めること、また、当該対策区間以外についても、3年度に新たに設定した75ホン対策区間において音源対策を推進すること等、所要の対策を講じるよう関係機関に対し要請を行っている。
 振動については、環境庁長官の勧告(昭和51年3月)に基づく振動対策指針値(70デシベル)の達成状況等を把握したところ昭和61年11月のダイヤ改正後の東海道・山陽新幹線においては、軌道に近い一部の地点を除き大部分の地点で達成されており、また、東北・上越新幹線においては、すべての地点で振動対策指針値(70デシベル)が達成されていた。


(2) 対策の実施
 東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社及び西日本旅客鉄道株式会社は、前述の「新幹線鉄道騒音対策要綱」(昭和51年3月閣議了解)及び環境庁長官の勧告(昭和51年3月)等に基づく運輸大臣の通達を受けて、音源対策、振動源対策及び障害防止対策を実施した。
ア 音源・振動源対策
 東海道・山陽新幹線においては、住宅密集地域が連続する地域について、東北・上越新幹線においては住宅集合地域について、新型防音壁の設置、バラストマットの敷設等各種の対策を組み合わせた総合的な音源・振動源対策を実施してきたが、平成4年度以降は、これまでの対象を一歩拡大し、東海道・山陽新幹線においては住宅集合地域について、東北・上越新幹線においては住宅集合地域に準じる地域についても、防音壁のかさあげ、改良型防音壁の設置、レールの削正の深度化、パンタカバーの取付等各種の音源・振動源対策を実施している。
イ 障害防止対策
 騒音レベルが75デシベルを超える区域に所在する住宅及び70デシベルを超える区域に所在する学校、病院等に対し従来から防音工事の助成等を実施し、申し出のあった対象家屋についてはすべて対策を講じている。
 また、東海道・山陽新幹線において、振動レベルが70デシベルを超える区域に所在する住宅等の防振工事の助成及び移転補償等を実施しており、申し出のあった対象家屋についてはすべて対策を講じている。
(3) 騒音・振動防止技術の研究開発
 音源対策及び障害防止対策をより効果的に実施するため昭和61年度まで国鉄において計画的に推進してきた技術の研究開発は、国鉄分割・民営化後も国鉄の試験研究に関する業務を承継した(財)鉄道総合技術研究所を中心として引き続き推進している。
 平成6年度は、新幹線鉄道騒音を更に低減させるため、引き続き空力音対策の研究等を行った。
(4) 在来鉄道騒音・振動
 新幹線鉄道以外のいわゆる在来鉄道についても、騒音・振動に係る苦情・要請が寄せられているなど問題が生じている。特に、昭和63年の津軽海峡線、瀬戸大橋線の開通に伴い鉄道騒音・振動問題が発生したことから、これに対し各種対策が実施されている。
 環境庁では、個々の騒音問題等については、関係機関と連絡をとりながら適切に対処することとしているが新線建設等騒音問題を惹起するおそれのあるようなケースについては、騒音問題の未然防止の観点から、これらの沿線における環境を保全するための指針値を設定していく必要があると考えており、現在そのための検討を行っているところである。

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