(1) 環境基本計画について
今日の環境問題の多くは、都市・生活型公害や地球温暖化問題等に見られるように、通常の事業活動や日常生活一般による環境への負荷の増大に起因する部分が多く、また、地球環境問題に見られるように、地球規模の空間的広がりと将来世代にもわたる時間的広がりを持っている。
こうした環境問題の解決のためには、国、地方公共団体はもとより、事業者、国民といった、すべての主体の公平な役割分担の下に、現在の経済社会システムや生活様式を変革し、環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会を構築する必要がある。
このような観点から、平成5年11月に環境保全に関する新たな理念や多様な政策手段を示す環境基本法が制定されたところである。
環境基本計画は、この環境基本法の第15条に基づき、政府全体の環境の保全に関する総合的・長期的な施策の大綱等を定めるものである。政府は、初の環境基本計画を、平成6年12月16日に閣議決定した。この計画は、社会の構成員であるすべての主体が共通の認識の下に、それぞれ協力して環境の保全に取り組んでいくため、21世紀半ばを展望して、環境基本法の理念を受けた環境政策の基本的考え方と長期的な目標を示した上、これら目標の達成に向け、21世紀初頭までの施策の方向を明らかにするものである。
(2) 策定の経緯
平成6年1月14日、内閣総理大臣から中央環境審議会(近藤次郎会長)に対し環境基本計画はいかにあるべきかについて諮問がなされた。
中央環境審議会企画政策部会(森島昭夫部会長)では、関係省庁や関係団体からのヒアリングを含め審議を行い(部会15回、小委員会4回)、7月5日、「環境基本計画検討の中間とりまとめ」を公表した。その後、全国9ブロックでヒアリングを行うほか書面などにより国民から意見を受け付けた。これらの結果、610人から延べ3,335項目にわたる意見が寄せられた。同審議会では、これら幅広い国民の意見等を活かしつつ、さらに審議を深め(部会4回、小委員会3回)、12月9日、答申がまとめられ、近藤会長より内閣総理大臣に提出された。
この答申に即して、環境基本計画が12月16日に閣議決定された。
(3) 環境基本計画の概要
ア 計画の意義
本計画は、21世紀半ばを展望し、環境政策の長期的な目標を示した上、21世紀初頭までの国の施策と地方公共団体、事業者、国民などに期待される取組を体系的に明らかにするとともに、各主体の役割、環境政策を効果的に推進していくための方策の在り方等を定めている。
イ 4つの長期的な目標
本計画全体の目標としては、環境への負荷の少ない循環を基調とする経済社会システムが実現されるよう、人間が多様な自然・生物とともに生きることができるよう、また、そのために、あらゆる人々が環境保全の行動に参加し、国際的に取り組んでいくこととなるよう、「環境への負荷の少ない循環を基調とする経済社会システムの実現(以下「循環」という。)」、「自然と人間との共生(以下「共生」という。)」、「公平な役割分担の下でのすべての主体の参加の実現(以下「参加」という。)」、「国際的取組の推進(以下「国際的取組」という。)」を、環境政策の長期的な目標として掲げ、「環境への負荷が少ない持続的に発展することができる社会」を目指すことを定めている。
また、これらの長期的な目標の達成状況等を具体的に示す総合的な指標(指標群)の開発を政府において早急に進め、今後、その成果を得て、環境基本計画の実行・見直しの中で活かしていくこととしている。
ウ 施策の展開
今後の施策についての本計画の内容としては、まず第1に、施策展開に当たっての基本的な方針を定めた上、上述の4つの長期的目標の達成に向けた各般の施策を定めている。問題の性質に応じて多様な施策手法を組み合わせて活用し、施策相互の有機的連携を図りつつ、総合的かつ計画的に施策を展開する。
個別課題の目標については、環境基本計画に沿って、必要に応じ既存の目標を見直し、あるいは、必要な分野においては新たに目標を設け、個別の計画を策定する。
施策の主なものとしては、「循環」においては、大気環境の保全、水環境の保全、土壤環境・地盤環境の保全、廃棄物・リサイクル対策、化学物質の環境リスク対策、技術開発等に際しての環境配慮及び新たな課題への対応が定められ、「共生」においては、国土空間の自然的社会的特性に応じた自然と人間との共生、生物の多様性の確保及び野生動植物の保護管理、地域づくり等における健全で恵み豊かな環境の確保とその活用が定められ、「参加」においては、各主体の役割、各主体の自主的積極的行動の促進、国の事業者・消費者としての環境保全に向けた取組の率先実行が定められている。また、「環境保全に係る共通的基盤的施策の推進」においては、環境影響評価等、規制的措置、経済的措置、社会資本整備等の事業、調査研究、監視・観測等の充実、適正な技術の振興等、環境情報の整備・提供、公害防止計画、環境保健対策、公害紛争処理等が定められ、「国際的取組」においては、地球環境保全等に関する国際協力等の推進、調査研究、監視・観測等に係る国際的な連携の確保等、地方公共団体又は民間団体等による活動の推進、国際協力の実施等に当たっての環境配慮、地球環境保全に関する国際条約等に基づく取組が定められている。
エ 計画の効果的実施
本計画は、環境の保全に関する国の基本的な計画であり、本計画と国の他の計画との間では、環境の保全に関しては、本計画との調和が保たれたものであることが重要である。
国の他の計画のうち、専ら環境の保全を目的とするものは、本計画の基本的な方向に沿って策定、推進する。
また、国のその他の計画であって環境の保全に関する事項を定めるものについては、環境の保全に関しては、本計画の基本的な方向に沿ったものとなるものであり、このため、これらの計画と本計画との相互の連携を図る。
計画の進捗状況等について、政府において把握し、その結果を活用するほか、中央環境審議会が国民各界各層の意見も聴きつつ、毎年、点検する。また、計画の見直しの時期は5年後程度を目途とする。
(4) 環境基本計画の実施
環境基本計画を政府一体となって推進するため、環境基本計画推進関係省庁会議を設置するとともに、同省庁会議の場を通じて、計画に示された4つの長期的目標に関する総合的な指標等の開発、事業者、消費者としての国の環境保全に向けた取組の率先実行に係る政府全体の行動計画の取りまとめを行うため、各々その作業に着手した。