1 政府開発援助等
(1) 調査及び事業の発掘
我が国が環境分野の援助を拡充・強化していくに当たり、開発途上国の環境問題の状況やその背景にある社会・経済条件を的確に把握するとともに、開発途上国との各種政策対話を強め、優良な援助案件の発掘に努めることとしている。この観点から政府は、平成元年にブラジル、メキシコ、東南アジア、3年に東アフリカ、5年にインドに環境ミッションを派遣して、環境援助について当該国の政府関係機関及び関係援助機関との幅広い協議を行った。また、国際協力事業団(JICA)は、関係省庁の協力を得て、個別案件形成のための各種調査等を積極的に推進している。
(2) 開発調査
開発途上国における環境保全に関するマスタープランの策定等のため、JICAが平成5年度に実施した開発調査の主なものを第8-4-1表に示す。
(3) 専門家派遣
開発途上国の行政機関・研究機関等への技術協力を行うために、JICAは、関係省庁、地方公共団体等の協力の下に、専門家の派遣を行っている。環境分野の専門家派遣は急速に増加しており、例えば、環境庁関連では、平成5年度にタイ、中国、インドネシア、韓国等へ合計81名の専門家を派遣した(第8-4-1図)。環境分野の専門家派遣のニーズは近年急速に高まっており、人材の確保と養成が大きな課題となっている。JICA、関係省庁及び関係団体においては、人材の育成のための研修の拡充、円滑な派遣のための人材登録等を推進するとともに地方公共団体等との一層の連携に努めている。
(4) 研修員受入れ
開発途上国には、環境保全全体に関する専門的な知識経験を有する行政官・技術者の不足に直面している国が多く、JICAは、関係省庁、地方公共団体等の協力の下に、集団研修を実施している。平成5年度には、環境政策、環境技術(水質保全)、環境技術(大気保全)等の集団研修のほか、東欧諸国やブラジル等を対象とした国別の特設研修を実施した。また、開発途上国の要請により個別研修を各国のニーズに応じ随時実施している(第8-4-2表及び第8-4-3表)。
(5) プロジェクト方式技術協力
専門家派遣、研修員受入れ等を組み合わせたプロジェクト方式技術協力が関係各省庁の協力の下にJICAにより実施されている。実施中のプロジェクトの主なものは第8-4-4表のとおりである。また、協力期間の終了したプロジェクトに対して、必要に応じ追加的な協力を行っている。
なお、新規のプロジェクト方式技術協力の実施についての要請に対し、平成5年度には、メキシコ及びチリの環境センター案件について事前調査団を、インドネシア生物多様性保全計画について基礎調査団を派遣した。
(6) 地方公共団体等の役割
専門家派遣、研修員受入れ等の環境協力について、環境に係る個別分野の豊富な経験と人材を有する地方公共団体等の果たす役割は大きく、平成5年度においても各地方公共団体より計18名の環境専門家をJICAを通じて派遣するなど、多大な協力が行われた。また、姉妹都市からの研修員受入れ、会議の開催及び情報交換など地方公共団体が独自に行う環境協力も推進されている。
(7) 無償資金協力
無償資金協力をより効果的なものとするために施設の設立・運営のためのプロジェクト方式技術協力も組み合わせつつ無償資金協力を実施した(第8-4-5表)。
(8) 有償資金協力
かつて我が国の戦後復興にも大いに役立ったとおり、有償資金協力は経済インフラ型案件への援助等を通じ、開発途上国が持続可能な開発を進める上で大きな効果を発揮する。
環境関連分野でも同様であり、我が国は海外経済協力基金(OECF)を通じ、環境分野にも積極的に有償資金を供与してきている。
主な分野としては規模が大きいため無償資金協力や技術協力では対応が容易でない、上下水道、植林、大気汚染対策等の事業が中心となっている。
第8-4-6表に示すように、平成5年度においてもタイの火力発電所に排煙脱硫装置を設置するプロジェクトを始め、OECFにより各種の環境関連の融資が行われている。
(9) 基礎調査等
以上のような事業を円滑に推進するため、関係省庁では途上国の環境問題やその背景に関する調査等を実施した。
(10) 国際機関を通じた協力
各種国際機関を通じた協力は、特に二国間協力のみでは十分に対応できない地球環境問題、共通の取組のための指針作り、情報量の少ない国・分野等への取組を進める観点から重要である。
平成5年度には、環境問題について中心的役割を果たしている国連環境計画(UNEP)に対し、2億4,400万円(国連環境基金及びUNEP国際環境技術センター技術協力信託基金)の拠出を行うとともに、熱帯林保全と持続的利用のため、国際熱帯木材機関(ITTO)に対し、16億4,500万円を拠出した。また、我が国が主要拠出国となっている国連開発計画(UNDP)、世界銀行、アジア開発銀行等の多国間援助機関も環境分野の取組を強化しており、これらの機関を通じた協力も環境分野では重要になってきている。
特に、開発途上国における地球温暖化、生物の多様性の減少、国際水域環境悪化、オゾン層破壊の問題への取組のために、資金を供与するための試験的プログラムとして世界銀行、UNDP及びUNEPの協力により1991年(平成3年)に発足した地球環境ファシリティ(GEF)が、1994年(平成6年)央で終了することから、その後のGEFの在り方について地球サミットでの合意に従って、新しい仕組み、資金規模等について議論が行われ、1994年(平成6年)3月、ジュネーブにおける参加国会合において合意に至った。新GEFは試験的プログラムの成功を受け、資金規模は約20億米ドルに増やすこととなっており、我が国は、その国際社会における地位を勘案し、アメリカに次いで第2位の資金拠出国(約41,500万米ドル)となることを表明している。なお、試験的プログラムにおいては、主要国よりGEF信託基金への拠出のほか、協調融資による協力も表明されており、我が国においては、平成5年度に初めての協調融資案件の承諾がOECFにより行われた。
(11) 東欧環境協力
東欧の深刻な環境問題に対しては、平成3年1月の海部首相(当時)の東欧訪問時の表明等を受け、JICA等を通じ技術協力等を推進している。5年度は東欧諸国からの研修員を受け入れるとともに、ハンガリーのシャヨバレー地域大気汚染対策計画、ハンガリーのブダペスト市都市廃棄物処理計画等の開発調査を実施中である。また、東欧地域の環境問題対策を支援する目的で設立された中・東欧地域環境センター(ブダペスト)に対し、3年度には80万ドル、4年度及び5年度にはそれぞれ130万ドルを拠出した。