1 地球温暖化対策
(1) 問題の概要
地球では、大気中に含まれている水蒸気、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素(亜酸化窒素、N2O)などの温室効果ガスが地球から宇宙空間へ放射される熱を逃がしにくくしており、一定の気温が保たれている。
地球温暖化は、人間活動の拡大に伴い二酸化炭素、メタン等の大気中濃度が上昇して温室効果が強まり、その結果気温が上昇し、人類や生態系がその基盤をおいている気候が変動することをいう。予測されている温暖化は、過去1万年の間に例を見ないようなものであり、地球的な物差しからすれば極めて短時間のうちに急激に起こることが特徴である。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告によると、温室効果ガスの濃度が現在の増加率で推移した場合、地球全体の平均気温は2025年までに現在より約1℃、21世紀末前には3℃の上昇が、また海面水位は2030年までに約20cm、21世紀末までには65cm(最大1m)の上昇が予測されている。
この地球温暖化の被害が顕在化し、取り返しのつかない事態が生じないよう、科学的知見の充実を図りつつ直ちに実施可能な対策から着実に推進していく必要がある。
(2) 対策
? 地球温暖化防止行動計画の推進
地球温暖化対策に関する我が国の基本的姿勢を明らかにするため、2年10月、地球環境保全に関する関係閣僚会議において、地球温暖化防止行動計画が決定され、現在同計画において各種の対策が推進されている。
4年度において実施した主な地球温暖化対策は、次のとおり。
ア 地球温暖化防止行動計画を地域に即して具体化するため、都道府県等においてモデル的な地域計画の策定等を行う地球温暖化対策地域推進モデル計画策定調査を実施した。
イ 廃棄物の減量・再資源化、ごみ焼却余熱の有効利用及び温室効果ガスの回収等廃棄物処理分野における新技術の開発の積極的な推進とともに、廃棄物の減量・再資源化、エネルギーの回収に係る普及・啓発活動を推進した。
ウ 二酸化炭素排出低減・抑制に資する交通体系の形成のため、中長距離の物流拠点間の幹線輸送におけるモーダルシフト(鉄道輸送、内航海運等ヘの誘導)の推進や効率的物流システムの構築、バス交通の活性化等を図るとともに立体交差やバイパス等の道路整備を行った。
また、低公害車普及拡大のための低公害車の導入可能性、運用上の改善策等の実証調査等の実施及び低公害車の公害パトロール車としての導入に対する補助の実施等を行った。
エ 温室効果ガス排出の少ないエネルギー供給構造を形成するため、安全性の確保を前提とした原子力の開発利用や水力、地熱の利用、また、コンバインドサイクル発電、太陽光発電の導入等を推進した。
オ 地球温暖化に係る不確実性を低減させ、科学的知見を踏まえた適切な対策を講じ、調査研究、観測・監視を一層推進するため、現象解明及び影響評価対策に関する研究、人工衛星等を用いた観測、並びに観測技術の開発を実施した。このため、国立環境研究所地球環境研究センターの拡充整備を図るとともに、地球環境研究総合推進費の拡充を図った。
カ 温室効果ガスの排出抑制のためのより高度な新エネルギー技術や省エネルギー技術、二酸化炭素の固定化・有効利用等の革新的技術開発について、引き続きサンシャイン計画、ムーンライト計画、(財)地球環境産業技術研究機構における研究等を積極的に推進した。
キ 地球温暖化防止行動計画の周知・普及のため、引き続き経済団体等関係団体、有識者、一般にこれを配布・周知するとともに地方公共団体に対しても各種会議等を通じ周知した。また、4年5月、関係各省庁が3年度に実施した地球温暖化防止行動計画関係施策を取りまとめた。
ク 国際協力については、引き続き関係機関への支援等を行った。また、アジア太平洋地域の開発途上国における温暖化対応戦略の策定支援等を推進し、1993年(平成5年)3月にはバンコクにおいて、アジア太平洋地域温暖化会議を開催した。さらに地球温暖化防止に資する技術の移転の推進のため、民間団体等による研修などの活動を支援した。
? 気候変動枠組条約への対応
気候変動に関する国際連合枠組条約は1991年(平成3年)2月以降計6回(第1〜5回交渉会議及び第5回交渉会議再開会合)の交渉会議を経て、1992年(平成4年)5月に採択され、我が国は同年6月の地球サミットにおいて条約に署名を行うとともに、「地球温暖化防止行動計画」に従って、二酸化炭素排出量を2000年までに概ね1990年レベルで安定化させるよう努めることを公約した。また、1993年3月に条約の締結について国会の承認を求めるための閣議決定を行った。本条約は究極的な目的を温室効果ガスの大気中濃度の安定化とし、締約国に各種の義務を課しており、特に我が国等先進締約国等は二酸化炭素等の温室効果ガスの排出量を1990年代の終わりまでに従前のレベルまで戻すことが、条約の目的に寄与するものであるとの認識の下、政策を採用し、措置をとり、その内容について温室効果ガスの排出を1990年のレベルに戻すという目的をもって締約国会議へ情報を送付することが義務とされた。また、条約においては、締約国会議で決定される事項等多くの課題が今後の国際的な検討に委ねられ、1992年(平成4年)12月に開催された第6回交渉会議において条約実施に向けての今後の作業計画が決定された。さらに、1993年(平成5年)3月に開催された第7回交渉会議において、条約上の資金メカニズムのあり方が討議されるとともに、新たな組織体制が構築された。
? 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)における検討への協力
1988年(昭和63年)11月に国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)により地球温暖化問題に関する科学的知見、環境・社会経済影響、対応戦略を検討することを目的として設置されたIPCCは、1990年(平成2年)8月の第4回全体会合において第1次評価報告書を、また1992年(平成4年)2月に開催された第7回会合で第1次評価報告書の補足報告書を、各々取りまとめた。さらに、現在、1995年(平成7年)を目標としてそれまでに得られる最新の科学的知見を集約・整理した第2次評価報告書を作成するための作業を行うこととしており、このため1992年(平成4年)11月の第8回全体会合において、その組織の再編成を行った。
我が国は、全体会合を始めとして、多くの関連会合に積極的に参加するとともに、新体制においても、第2作業部会の副議長を務める等、引き続きIPCCの活動への積極的な協力、支援を行っている。