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第1章 環境の現状

 我々が生きる地球は、巨視的に見ると、大気、水、土壌、生物といった自然の構成要素が微妙な均衡を保つ一つの生態系となっている。我々人類は本来、均衡のある自然環境の様々な恵みの下で、生活を営み、また発展を続けてきた。しかし、世界における経済社会活動が飛躍的に拡大し、人類の活動は地球の生態系の健全性を損なう規模や内容を持つようになり、人類の活動によって人類の存続に関わるほどの地球環境の変化が生じるおそれが起きてきた。排気ガス、排水、固形廃棄物など人間活動から排出される各種の物質(以下「廃物」という。)が環境への負荷となり、大気の汚染等を通じて公害問題を発生させている。人による自然資源の過度の採取などが、生物相の多様性の劣化や森林の破壊などの形で自然環境を劣化させている。
 これまで、環境問題は、地域的な問題、特定の活動の結果による一過性の現象として理解されることが多かった。現在においても、このような形態の問題も数多くあるが、これに加え、環境の様々な変化が相互に関係し、環境が、ストックとして、また、全体として悪化するような問題も重要になってきている。例えば、温室効果ガスの排出の増大による地球温暖化の進行は、気候の変化等を通じて、自然環境に深刻な影響を及ぼすおそれがあり、他方、森林の減少という自然環境の変化は、二酸化炭素の吸収源の減少により温暖化を一層加速させる。また、大気へ排出された硫黄酸化物や窒素酸化物は、環境中を移動し、酸性雨となって水質や土壌を変化させ、これも森林を始め生物相へ大きな影響を与えるおそれがある。このようなことから、環境の状況を見る際には、各地域の大気や水、生物といった個々の環境の構成要素の状況だけでなく、それらの相互関係や全体としての自然生態系の視点も重視していく必要がある。
 さらに、我々の活動と環境への影響との関係についても、地域における活動がその地域の環境に影響を与えている側面に留まらず、国境のない環境を通じ、あるいは世界に網の目のように張りめぐらされている生産や消費を通じて、さらには世界的な貿易を通じて、人の活動が直接、間接に内外の環境に及ぼしている影響にも注意する必要がある。このようなことから、環境の保全を進めていく上では、国内の環境だけでなく世界の環境に目を配っていく必要がある。
 以下では、現在の我が国の環境の状況を、系としての環境の観点から、また、我が国の環境が地球の環境の一部となっていることも踏まえつつ、見ていくこととする。その際には、必要に応じ、海外の環境の状況や我が国等の環境保全への取組の現状も紹介し、また、これらに照らした環境の状況の評価も概観していく。

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