2 化学物質環境安全性総点検調査について
(1) 環境調査
平成2年度においては、環境調査(水系)は全国55地区の水質、底質及び49地区の魚類を対象として行った。このうち、重点調査物質として、アニリン、3-ニトロフルオランテン、1-ニトロピレンの3物質を全国54地区で調査を実施した。その他、アニシジン類、クロロアニリン類等19物質については、8〜31地区で調査を実施した。
大気環境調査は、全国17地区において、16物質を対象に調査を実施した。
ア 環境調査(水系)
22物質のうち、アニリン、ジフェニルアミン等8物質が水質から検出された。また、アニリン、クロロアニリン類等10物質が底質から、アニリン、o-クロロアニリン等5物質が魚類から検出された(第1-6-1表)。今回の調査結果に対する評価の概要は以下のとおりである。
(ア) アニリン
アニリンは、水質、底質、魚類のいずれかの媒体についても、高い検出頻度を示しており、その毒性を考慮すると、今後、環境中濃度について関心を払っていく必要のある物質のひとつと考えられる。しかし、今回のデータをみるかぎりにおいては、水質及び底質では検出濃度が前回の調査より低くなっており、また魚類における検出濃度も水質より概ね1桁高い程度の濃度であり、直ちに問題を示唆するものではないと考えられる。
今後一定期間をおいて、環境調査を行ない、その推移を監視することが必要と考えられる。
(イ) アニシジン類(o-、m-)
m-アニシジンは、前回に測定しなかった魚類から検出されたものの、その検出頻度及び検出濃度は低く、o-アニシジンは、水質、底質とも検出濃度は前回の調査よりも低く、一方、m-アニシジンは、水質の検出濃度が前回の調査より高い傾向はあるものの、前回の調査で検出された底質からは検出されておらず、今回の調査結果が特に問題を示唆するものではないと考えられる。
(ウ) クロロアニリン類(o-、m-、p-)
クロロアニリン類は、その生産量に比し、特に底質について高い検出頻度を示しており、その毒性を考慮すると、今後、環境中濃度について関心を払っていく必要のある物質のひとつと考えられる。しかし、今回のデータをみるかぎりにおいては、o-クロロアニリンは前回の調査で検出されなかった魚類から検出されたものの、その検出頻度及び検出濃度は低く、また、o-クロロアニリンの水質が前回の調査より高い傾向があるのを除き、クロロアニリン類の水質及び底質での検出濃度は前回の調査よりむしろ低下している傾向であり、直ちに問題を示唆するものではないと考えられる。
今後一定期間をおいて、環境調査を行い、その推移を監視することが必要と考えられる。
(エ) N-メチルアニリン、N,N-ジメチルアニリン
N-メチルアニリンは、前回の調査に比べ、底質の検出濃度はほぼ同じレベルで、前回は検出されなかった水質については、その検出頻度及び検出濃度は低く、N,N-ジメチルアニリンの底質は、前回の調査に比べ検出濃度は低下しており、今回の調査結果が特に問題を示唆するものではないと考えられる。
(オ) 2,4-ジニトロアニリン
底質で検出された2,4-ジニトロアニリンの検出頻度及び検出濃度は低く、今回の調査結果が特に問題を示唆するものではないと考えられる。
(カ) ジフェニルアミン、N-ニトロソジフェニルアミン
これらの物質は、その検出頻度及び検出濃度は低く、今回の調査結果が特に問題を示唆するものではないと考えられる。
(キ) クロルピリホス
今回の調査結果は、前回の調査に比べ検出濃度は低下し、また、検出頻度も前回の調査と同一の地点について比較するとやや低下していることから、今回の調査結果が特に問題を示唆するものではないと考えられる。
イ 大気環境調査
検出された6物質のうち、検出頻度の高かったのは、3-ニトロフルオランテン及び1-ニトロピレンである。(第1-6-2表)
しかしながら、検出濃度レベルは、従来よりも継続的に測定されているピレン類(ベンゾピレン)及び前年度調査のピレン類7種の検出濃度レベルよりはるかに低く、特に新たな問題点を示唆するものではないと考えられる。
(2) 水質・底質モニタリングの概要
水質・底質のモニタリングは、化学物質環境調査の一環として昭和61年度から新たに開始された。この調査は、多種類の化学物質を同時に感度良く分析できるという特徴を持ったガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)を用いて、環境調査の結果等により水質及び底質中に残留していることが確認されている化学物質(主に第1種特定化学物質)について、その残留状況の長期的推移を把握することにより環境汚染の経年監視を行うとともに、環境中に存在する未知物質の検索についても検討していくことを目的としている。
平成2年度においては、全国18地区において19物質を対象に調査を実施した。その結果、水質からはp-ジクロロベンゼン等8物質が検出され、底質からはディルドリンを除く18物質が検出された(第1-6-3表)。
調査地区別にみると、9地区の水質からは調査対象物質はすべて検出されなかった。それ以外の地区の水質からの検出物質数は、1〜6物質であり、全体的に低い状況である。
底質からの検出状況は、水質に比べて全体的に高く、5物質以上検出された地域は12地区あり、このうち、過半数の10物質以上検出された地区は5地区となっている。調査対象物質ごとの最高値をみると、閉鎖性の内湾部の汚染レベルが高いことが示唆される。
(3) 生物モニタリングの概要
生物モニタリングは、「化学物質審査規制法」に基づく第1種特定化学物質及び環境調査結果等から当該化学物質による環境汚染の進行を未然に防止する上で注意深く監視を行う必要があると考えられる物質について、生物(魚、貝、鳥)を対象に環境汚染の経年監視を行うものである。
平成2年度においては、全国19地域で30物質について生物中の残留濃度を調査した。その結果、PCB、クロルデン類(5物質)等については、使用が中止されているものの、なお環境中に広範囲に残留しており、今後ともその残留状況を注意深く追跡していく必要がある。
また、有機スズ化合物による環境汚染の状況については、瀬戸内海におけるトリブチルスズ化合物調査結果及び指定化学物質等環境残留性調査結果と合わせ、中央公害対策審議会環境保健部会化学物質専門委員会において次のように評価された。
(トリブチルスズ化合物)
トリブチルスズ化合物は、環境中に広範囲に残留しており、その汚染レベルは概ね横ばいで推移している。現在の汚染レベルが直ちに危険な状況にあるとは考えられないが、一部高い濃度が散見されており、引き続き環境汚染対策を推進するとともに、環境汚染状況を監視していく必要がある。
(トリフェニルスズ化合物)
トリフェニルスズ化合物は、生物を中心に環境中に広範囲に残留しており、その汚染レベルは、水質において改善の兆しがみられるものの、水質に比べ汚染が蓄積されやすい生物においては依然として高いものもあり、概ね横ばいの状況である。現在のトリフェニルスズ化合物の生産状況にかんがみれば、今後汚染状況は、長期的には改善されていくことが期待されるが、引き続き環境汚染対策を継続するとともに、環境汚染状況を監視していく必要がある。