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第1章 環境の現状

 我が国では、昭和40年代に環境の悪化が目に見えて進み、世論の強い要請を受けながら官民を挙げた取組が進められた。欧米先進国においても、同様に1960年代から1970年代にかけて環境問題が大きな社会問題となり、厳しい政策が進められた。これらは、先進国が戦後復興を成し遂げ、年を追うごとに増えていく豊かさを享受している中で、環境に対する慎重さを欠き、爆発的な環境問題が起きたものである。
 経済成長を謳歌した1960年代からほぼ4半世紀を経た現在、また別の意味での環境の保全が緊急の課題となっている。我が国について見ると、いざなぎ景気以来と呼ばれた好景気の中で経済活動が活発化し、諸活動が都市にますます集中し、大都市におけるに二酸化窒素による大気汚染が悪化した。さらにごみも増加し、処分場不足や散乱、不法投棄が目立つようになった。余暇を求める人々の欲求、過疎に悩む地方の開発への指向を背景にして、いわゆるリゾート開発が広がり、自然の改変が進んだ。このほか、本年度に発表された環境関係のデータのいくつかは、従前より悪化していることを示している。昭和40年代とは問題の内容が違うとはいえ、総体としてみれば、環境が悪化していることは否定できない。
 特に、4半世紀前と異なるのは、環境を構成するさまざまな要素が互いに関係しあって悪化が進み、悪化の影響が及ぶ範囲も国境を越え、きわめて広域化してきたことである。特定の地域の特定の環境要素が損なわれるという一過性の問題から、ストックとしての環境自体が脅かされる新しい局面を迎えている。例えば、地球全体の大気の組成がわずかに変化することに伴って、温暖化をはじめとした全地球的な気候変化が生じると予測されているが、この変化は、生態系に深刻な影響を及ぼすとともに、将来の人の生活環境や経済の基盤を大きく変えるものと懸念されている。
 環境問題は今再び、新しい意味での緊急の課題となった。

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